映画評「カルテット! 人生のオペラハウス」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年イギリス映画 監督ダスティン・ホフマン
ネタバレあり

1939年にジュリアン・デュヴィヴィエの監督により俳優専用の養老院をテーマにした名作「旅路の果て」が作られた。戦前の映画で扱われているのであるから、欧州にはそうした特殊な施設が実在するのであろう。ダスティン・ホフマンの監督デビュー作という話題が筆頭に来るであろう本作は音楽家専用の老人ホームが舞台である。

そのビーチャム・ホームは年に一度のコンサートでもたらされる寄付等で営まれているらしく、次のコンサートで客を呼ばないことには閉鎖も免れない。トム・コートニーとビル・コノリーとポーリン・コリンズはかつてヴェルディの「リゴレット」でクァルテットを演じた仲。
 そこへ声楽の大スターのマギー・スミスがやって来るが、コートニーとマギーはかつて夫婦で、マギーの浮気が原因で彼はわだかまりを持っている。ホームの人々は彼らがまた「リゴレット」のクァルテットを演ずれば成功間違いなしと思い、三人は食事会でマギーに話を持ちかけてみる。ところが、かつての実力がなくなったと思っているプライドの高い彼女は頑として引き受けない。しかし、やがて最後のひと花を咲かせようと考えを改め、遂に舞台に立つ。

先日の「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」の平均年齢を一回りくらい上げた姉妹編のような内容で、様々な現実的な問題に直面しながら、酸いも甘いも経験したことから人間的には豊かになったであろう老人たちが、希望を持つことで辛い老境を乗り越える、というお話になっている。直接その類の台詞や描写はないのであるが、僕がそういう風に理解したのである。

彼らの周囲を彩る端役の方々は実際の音楽家で、クレジット部分の冒頭で若き日の姿と共に紹介される。こういうのを見ると不思議と目頭が熱くなる。何故でしょうかな。
 一方、歌手でも何でもない主役四人は練習しているところもなければ、本番もなし。口パクという手もあったのだろうが、四人が揃った幕開けの部分で映画は幕を降ろす。余韻を漂わすなかなか良い幕切れで、上手く知名度の高い俳優を歌わせずに済ませましたな、とニヤニヤさせられた。

初監督とは言え、「卒業」のモラトリアム青年のイメージが未だに強いホフマンにはこういう力みのないお話が合う。
 大ベテラン四人のアンサンブルは言わずもがなの見事さ。若い頃は変な顔と思えたトム・コートニーは年をとって実に見やすい顔になった(笑)。

映画ファン専門の老人ホームというアイデアに一票。しかし、かりにできたとしても自費でしょうなあ。しょぼん。でも、喧々囂々の映画談議で楽しいだろうな。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年05月18日 05:02
よい雰囲気の映画でありました。大人の映画というところでありましょうか。

ハリウッドには映画関係者用の老人ホームがあるそうですが・・・・日本では・・・・('◇')ゞ
オカピー
2014年05月18日 10:11
ねこのひげさん、こんにちは。

日本の為政者は文化をそれ程大事にしてこなかった歴史がありますからねえ。まして映画など・・・
映画会社でさえ、儲けて何ぼでしかなかったから、セルロイド製の戦前の映画は尽く焼失してしまいました。戦後映画への価値観が多少高まったとは言え、映画関係者用老人ホームは無理でございましょうなあ。
オリンピックで紙面を広げると「たかがスポーツに」というコメントが必ず識者から発せられますが、これも悲しいですね。他の紙面を犠牲にしているならともかく、ページを増やしているわけですから・・・政治・経済ばかりがニュースではないでしょう。

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