映画評「エデンの東」
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1955年アメリカ映画 監督イーリア・カザン
ネタバレあり
ジェームズ・ディーンの主演した三作はいずれも秀作であるが、中でも中学の時リバイバルにて映画館で初めて観た本作が好きだ。その後三回くらい観ていると思う。
原作はジョン・スタインベックのかなり長い小説「エデンの東」で、その後半部分が実に巧みに圧縮されて映画化されている。その意味でも大変素晴らしい。
1917年。キャル(ディーン)は、父親アダム(レイモンド・マッシー)が死んだと言っている母親が生きていることを知り、隣町で酒場もどき(原作では娼館)を経営している母親ケイト(ジョー・ヴァン・フリート)を尾行し、後日自分の正体を明かして交流が始まる。優等生的である為父親が愛情を傾けている双子の兄アロン(リチャード・ダヴァロス)はそのことを知らない。
母親だけでなく父親の愛情に飢えていたキャルは父の歓心を買おうと、レタス収穫で知恵を絞ったり、冷凍レタスで大損害を受けた分を戦争景気による大豆の売買で儲けて誕生日プレゼントに現金を贈るが、彼のけなげな善意は尽く拒絶される。婚約をプレゼントにし父親を喜ばせた兄の現実を知らない能天気さに怒りが爆発、水商売をしている母親の存在を知らしめる。亡くなったものと信じ天使のような母親を想像していたアロンはこれにショックを受けて出征、そのショックで今度は父親が脳卒中を起こし倒れる。
少女の時に実母を失った兄の恋人アブラ(ジュリー・ハリス)は、キャルに同病相憐れむ仲として親しみを覚えていたので、アダムに彼の父を思う真情を説くと、遂に病床の父親は偏見を解く。
中学生の僕は、キャルの切ない青春像にいたく心打たれた。父親にしてみれば夜の街に繰り出すような不良息子ということになるが、その背景にある愛情の渇望に気付いてもらえないことがキャルの悲劇である。その悲しみをディーンが余すところなく演じ切って見事。今更ながらその感を強くする。
もう一つの収穫は当時始まったばかりのシネマスコープの長さを最大に生かしたテッド・マッコードの撮影で、抜群の環境描写を筆頭にディーンを交えたショットに素晴らしいものが多い。キャルが母親を追いかけていくショットの積み重ねなど圧巻と言うべし。
さらに彼が大豆畑に嬉しそうに寝そべっているワン・ショットが個人的にお気に入り。40年以上前一緒に観た姉もこのショットが好きと言っていたのを憶えている。個人の好悪を別にして、敢えて分析すれば、彼の嬉しそうなこの繊細なショットがあるだけに、後段でその彼の好意が拒否される場面の切なさが際立って来るのである。
撮影上の工夫として、非常に端正な画面設計の中にあって、キャルと父親の心がすれ違う場面では必ずダッチ・アングル(斜角)を用いている。少なからぬ優れた監督作の中でも一番の作品と言いたいイーリア・カザンと撮影監督マッコードが親子の心が噛み合わない場面ですよと親切にも教示しているのである。
初鑑賞時僕も未来に夢を馳せていた・・・不安を抱きつつも幸せでした。
1955年アメリカ映画 監督イーリア・カザン
ネタバレあり
ジェームズ・ディーンの主演した三作はいずれも秀作であるが、中でも中学の時リバイバルにて映画館で初めて観た本作が好きだ。その後三回くらい観ていると思う。
原作はジョン・スタインベックのかなり長い小説「エデンの東」で、その後半部分が実に巧みに圧縮されて映画化されている。その意味でも大変素晴らしい。
1917年。キャル(ディーン)は、父親アダム(レイモンド・マッシー)が死んだと言っている母親が生きていることを知り、隣町で酒場もどき(原作では娼館)を経営している母親ケイト(ジョー・ヴァン・フリート)を尾行し、後日自分の正体を明かして交流が始まる。優等生的である為父親が愛情を傾けている双子の兄アロン(リチャード・ダヴァロス)はそのことを知らない。
母親だけでなく父親の愛情に飢えていたキャルは父の歓心を買おうと、レタス収穫で知恵を絞ったり、冷凍レタスで大損害を受けた分を戦争景気による大豆の売買で儲けて誕生日プレゼントに現金を贈るが、彼のけなげな善意は尽く拒絶される。婚約をプレゼントにし父親を喜ばせた兄の現実を知らない能天気さに怒りが爆発、水商売をしている母親の存在を知らしめる。亡くなったものと信じ天使のような母親を想像していたアロンはこれにショックを受けて出征、そのショックで今度は父親が脳卒中を起こし倒れる。
少女の時に実母を失った兄の恋人アブラ(ジュリー・ハリス)は、キャルに同病相憐れむ仲として親しみを覚えていたので、アダムに彼の父を思う真情を説くと、遂に病床の父親は偏見を解く。
中学生の僕は、キャルの切ない青春像にいたく心打たれた。父親にしてみれば夜の街に繰り出すような不良息子ということになるが、その背景にある愛情の渇望に気付いてもらえないことがキャルの悲劇である。その悲しみをディーンが余すところなく演じ切って見事。今更ながらその感を強くする。
もう一つの収穫は当時始まったばかりのシネマスコープの長さを最大に生かしたテッド・マッコードの撮影で、抜群の環境描写を筆頭にディーンを交えたショットに素晴らしいものが多い。キャルが母親を追いかけていくショットの積み重ねなど圧巻と言うべし。
さらに彼が大豆畑に嬉しそうに寝そべっているワン・ショットが個人的にお気に入り。40年以上前一緒に観た姉もこのショットが好きと言っていたのを憶えている。個人の好悪を別にして、敢えて分析すれば、彼の嬉しそうなこの繊細なショットがあるだけに、後段でその彼の好意が拒否される場面の切なさが際立って来るのである。
撮影上の工夫として、非常に端正な画面設計の中にあって、キャルと父親の心がすれ違う場面では必ずダッチ・アングル(斜角)を用いている。少なからぬ優れた監督作の中でも一番の作品と言いたいイーリア・カザンと撮影監督マッコードが親子の心が噛み合わない場面ですよと親切にも教示しているのである。
初鑑賞時僕も未来に夢を馳せていた・・・不安を抱きつつも幸せでした。
この記事へのコメント
私も好きです。芽が出て来たのを見てたのですよね、たしか。
すごくかわいらしい、いじらしいかんじで記憶に残っています。
それだけに、お父さんにその気持ちが伝わらないのが見ていてとてもつらくなってくるのです。
拒絶されながらも認めて欲しいディーンの
あの切ない表情、
ちょっとパット・ブーンに似の兄アロンが
失意の余り汽車の窓に顔面をぶつける場面・・・
とても印象に残っていますね~
(プロフェッサーと違って、私のは暗い。笑)
映画界に多大な功績残してもカザンは
あの忌むべき汚点が今なお後をひいていて
彼を検索しても明るい話題があまりないのが
残念ですね~
J・ディーンのファンといえば
亡き小森のおばちゃまがTVなどで
キャーキャー言ってた記憶が。(笑)
ついでにプレスリー・ファンでは
湯川れい子さんが有名でしたよね~
プロフェッサー、覚えてます?(^ ^)
正に仰る通りです。
最高でした。傑作の中でも傑作の場面だと思います。
列車のショットも好きでしたよ。
アロンはそれまでが能天気すぎましたね。
>カザン
そうなんですよね。
そもそもあんな思想が幅を利かせたこと自体が可笑しいと僕は思っています。カザンもある意味被害者ではないですか?
>小森のおばちゃま
TV以外にもラジオの番組があり、聞いていました。ディーンは大ファンだったので、よく話題になっていましたなあ。
湯川れい子さんのプレスリー・ファンぶりもよく憶えていますよ^^
小森のおばちゃまは毎年ディーンの命日にディーンの墓にお参りをしていたそうで、テレビの番組で取材していたのを覚えています。
そう言えば、「スクリーン」にも毎年書かれていましたし、ラジオでも語っていました。
十数年前にわが生涯のベスト100というのを選んだことがあり、ちょっと気取った選出でありましたが、ベスト10に入れた映画は殆ど十代の時に映画館で観た作品なんですね。実力的にはもっと凄い映画があっても、若い感性で捉えられた新鮮な感動・驚きに優ることはなかなかできないみたいです。
勿論、「エデンの東」は、ベスト10に入っています^^/
わたしは、この作品を高校時代にリバイバルで観ました。ジェームズ・ディーン特集で同時併映は「理由なき反抗」でした。同時の感性にはこちらの方が心に響き、自分を同化させていたように思います。(高校時代、思い切ってリーゼントにしてみたのもこの作品の影響です。)
さて、「エデンの東」の記憶を辿ると当時どうしても理解出来なかったことは、アブラ(ジュリー・ハリス)の存在でした。当時のわたしには彼女がキャル(ディーン)への対応が不貞に近いのではないか?と、しかし背徳の雰囲気は全くなく単に純粋にキャルに接していることが不思議でなりませんでした。映画としてのミステイクではなく、子供に理解できない人間関係の深さを感じたことも間違いのないことでした。
オカピーさんは、どう理解しました?教えてください、
高校のとき以来観ていない作品なので今観ればまた異なる発見もあるでしょうね。
では、また。
普遍性という点では、確かに「エデンの東」より「理由なき反抗」のほうがあり、観る年齢や感性によってはピンと来るところがあるかもしれません。
ただ、「理由なき反抗」は良い作品ではあるけれど、少々型通りと言える部分があるように思います。だから、僕は、映画的な鮮やかさで「エデンの東」を買うのであります。
>アブラ(ジュリー・ハリス)
あくまで映画からの印象ですが、彼女は最初に登場するところで「キャルは少し怖いところがある」と恋人のアロンに言います。しかし、キャルに接するにつれ、自分と同じ境涯にあると感じるようになったのではないでしょうか。彼女は父親が再婚した時にすごくがっかりしているんですね。アロンとどの程度ステディな関係だったのかはあの上映時間の中では解りかねますが、たまたま会ったのが少し前後しただけのことで、道徳レベルまで行く印象を僕は持ちません。逆に、キャルに同情していた僕は、アロンの能天気ぶりにキャル同様にイライラしました(笑)。
僕は中1の冬に「シェーン」の主題曲のレコード盤を買いました(シングル盤)。
カップリングが、この「エデンの東」の主題曲でした。
きれいな曲です。
数年後、映画をテレビで見ましたもちろん素晴らしかったです。
>幸いにも苦労するのは割合好きです^^
「No pain,No gain」です
>今の20歳は100歳くらいまで生きるそうですから
日本人の平均寿命がこれから短くなると言う説もありますが、果たして・・・
今年もよろしくお願い致します
今年もよろしくお願いいたします。
>中1の冬に「シェーン」の主題曲のレコード盤
ヴィクター・ヤング絡みのカップリングですね。
「エデンの東」はレナード・ローゼンマンの作曲ですが、ヤングが指揮していたのではないでしょうか? 少なくとも「エデンの東」主題曲はヤングのそれが一番有名。
僕は、中一の時に実物を見て感動した後「鉄道員」のサントラを買いました。カップリングは同じくカルロ・ルスティケッリ作曲の「刑事」(死ぬほど愛して)です。
>No pain,No gain
韻を踏んだ好きな諺です。
>日本人の平均寿命がこれから短くなると言う説
多分、食事が寿命を短くする可能性より医学が延ばす可能性が高いのかもしれませんね。今の医学のままでは寿命が短くなるでしょう(亡母が申しておりましたよ)。
>ヴィクター・ヤング
死後に『八十日間世界一周』(1956年)でアカデミー作曲賞を受賞
>「エデンの東」はレナード・ローゼンマンの作曲
「美しく親しみやすいワルツふう主題曲は、映画音楽としてローゼンマンの作品中もっとも有名である」とウィキペディアに書かれていますね
>韻を踏んだ好きな諺です
他にもあるでしょうね。でも思いつかないのが悔しいです
>今の医学のままでは寿命が短くなる
具体的には?
>『八十日間世界一周』
日本のTV番組「兼高かおる世界の旅」のテーマ曲として憶えました。若き姉が好きな番組でして。
僕が映画ファン、ビートルズ・ファンになったのも姉の影響。勿論年ごろなのでいずれファンになったでしょうが、早まったのは確か。
姉と一緒にビートルズ3本立てを見に行きましたよ。
>ローゼンマンの作品中もっとも有名
その通りと思います。
ほかの曲は全く思い出せません^^;
>他にも
うーむ、Haste makes waste.なんてのはいかが。
>>今の医学のままでは寿命が短くなる
>具体的には?
戦時中に奉公に出ていた母は、勿論戦後も粗食ながら、粗食過ぎないがゆえに、バランスの取れた肉体が出来たと信じていたようです。まして、ジャンク・フードやら何やらが云々という報道がされていましたから、そういう観念があったのだと思います。僕も一部は事実であると思います。
母に関しては、実際には塩分の摂り過ぎで、本人そして僕が予想したほど長生きはできませんでしたが(大いに後悔あり、涙なしに語れません)。
閑話休題。
多分医療の進歩がそれ以上なのでしょう。エイズも癌も一時に比べれば治る可能性がぐっと高まりましたよね。数年後に実現すると言われている【一度の血液検査で十数種類のガン判定】・・・これができるようになると、末期ガン患者は相当減ります。医療費の大幅な削減ができ、国としては大変助かりますね。
理論的には後50年もすると人が死ななくなることもありうるようですが、そうなると倫理的な問題が出てくるでしょうねえ。
何と言う・・・いい思い出ですね
>若き姉が好きな番組でして
パスパルトゥー(カンティンフラス)が良かった
身軽な役者さん
>Haste makes waste
>勿論戦後も粗食ながら、粗食過ぎないがゆえに
中庸の徳
>【一度の血液検査で十数種類のガン判定】
小心者の僕は、その検査を受けるだけでビビりますよ・・・オカピー教授
>いい思い出
そう言えば、「エデンの東」のリバイバルも一緒に観ました。
>カンティンフラス
映画ファンになったばかりの頃偶然観た「ぺぺ」という映画で主演していたのがこの人でした。今となっては、映画も、このメキシコの俳優さんも、知っている人は少ないでしょうがねえ。
>中庸の徳
思想でも何でも中庸が大事ですよ。
>その検査を受けるだけでビビりますよ
結果を知るのはちと怖いですね。
しかし、僕は毎年前立腺がんのチェックをこれでやっています。
それによって早めに解れば・・・早期がんなら大概治る時代です。
そう言えば、星野仙一氏70歳、膵臓がんで亡くなりました。膵臓のがんは肝臓と同様に発見された時は大概遅い。僕も予備軍(慢性膵炎)なので気をつけないといけないのですが、毎年CTを撮っているので、彼よりは早めに判るだろうと思います。
いつか見たいです
>思想でも何でも中庸が大事ですよ。
それと一人勝ちは良くないです
いつかは他人に恨まれて足元をすくわれます
>早期がんなら大概治る時代です。
そうあって欲しいです。
>アブラ役のジュリー・ハリス
キャル役のディーンに対して
随分我慢しながら、監督に苦情を言いながら、演技をしたそうで・・・
>それと一人勝ちは良くないです
少し意味合いが違いますが、今の政治がまさにそうの状態ですね。
やはり小泉進次郎氏に総裁選に出て足元をすくってもらうしかあるまいか。
まだ若すぎるので、出ないと思いますが。
>そうあって欲しいです。
親類に癌になった人がすくないので、よく解りませんが、ニュース等で聞く限りは、そんな感じですね。
>監督に苦情を言いながら
僕の持っているパンフレットには書かれていないなあ(当たり前)。
最近はそういう回想も出てきますね。夢破れるような気もしますが。
ジュリー・ハリスはあの時30歳くらい。初めて見た時子供だったので30歳には見えないなあと驚いたものですが、30歳というのはまだまだ若いということに後年気づきました(笑)
もう20年以上前。アナログ時代に書物に書いてあった事です。
でも今ネットで検索したら、特にそのような事は書いていない。
ガセネタですね。すみません
>30歳というのはまだまだ若いということに後年気づきました
40歳でも若いです
>小泉進次郎氏に総裁選に出て足元をすくってもらう
>その背景にある愛情の渇望に気付いてもらえない
兄弟は親をめぐって不仲になる。
親の愛情を求めて。
あるいは近頃は親の介護や遺産相続など
>ガセネタですね。すみません
悪質とも思えないので、事実かもしれませんよ。
亡き小森和子女史なら、ご存じだったかも。
>小泉進次郎氏
出ると、面白いんですが。
>遺産相続など
我が家は兄弟間ではもめませんでしたが、簡単に話をしたときに自分が呼ばれなかったと兄嫁が文句を言います。別に細かいことは何も決めなかったので、完全に逆恨みなんですが。
>亡き小森和子女史なら、ご存じだったかも。
ジェームズ・ディーンが毎日風呂に入らずに過ごす
だから共演者は・・・
>兄嫁が文句を言います。
やっぱり血が繋がっていないからでしょう
某国が血縁関係だけで商売をやりたがるのも納得?
>毎日風呂に入らずに過ごす
小森女史は、これは否定しますな^^
>血が繋がっていないから
損得(への意識)もあったのかもしれませんが、嫉妬もあるかもしれませんね。
そうでしょう
それとアラン・ドロンがワ●ガと口●がヒドイと言ったのも小森のオバチャマだそうですよ
>嫉妬もあるかもしれませんね。
妬み、嫉みは怖い
また、自慢話が多い奴。
>小森のオバチャマ
本を読んでも、ラジオで聞いても、人の悪口は聞いたことはないですがねえ。
彼女はディーン以外では、シャーリー・マクレーンも好きで、娘にサチという名前をつけたのは彼女ですね。その縁で彼女は先年日本映画に出演しました。
>妬み、嫉みは怖い
逆恨みの事件は多くこの辺りから発生しますね。
僕の兄が昔から自慢話が多い。
僕よりも随分先に結婚する事が決まった。その時も自慢
「こんな奴は酷い目に遭って欲しい」と思ったら、兄の一番最初の子供が重い障害・・・。僕も反省しました
>シャーリー・マクレーン
「八十日間世界一周」「アパートの鍵貸します」良かったです
>初の子供が重い障害
そういうことになると、自分のせいではなくても、罪悪感を覚えるでしょうね。
僕は、兄弟に関してはそういう思いはないですが、両親に関しては色々とあります。
>シャーリー・マクレーン
デビュー作の「ハリーの災難」からとぼけた味全開で、殆どコメディーで活躍してきましたね。
娘はサチ・パーカーといって、「西の魔女が死んだ」という原作がなかなか有名らしい邦画に出演して「おっ!」と思わせました。