映画評「天使の分け前」

☆☆★(5点/10点満点中)
2012年イギリス=フランス=ベルギー=イタリア合作映画 監督ケン・ローチ
ネタバレあり

トニー・リチャードスンやリンジー・アンダースンといった英国ニュー・ウェーヴ映画の系譜を継ぐケン・ローチのタッチはいつものように60年代彼らが作った作品そのままで観照的であるが、この新作については内容が大衆に迎合したなという印象強く、かなりがっかりさせられた。

グラスゴー、恋人シボーン・ライリーが妊娠したのを契機に心を入れ替えようとしたのに再び暴力事件を起こした為社会奉仕300時間という判決を受けた若者ポール・ブラニガンが、社会奉仕について指導するウィスキー愛好家の中年男性ジョン・ヘンショウに連れられウィスキー醸造場などに行くうちに、テイスティング(利き酒)の才能を発揮する。

ここまではいつも通りの内容であり、及第点を与えられる興味深さがある。
 が、一緒についてきた万引き少女ジャスミン・リギンズがちょろまかしてきた資料に基づき、年季の入った酒樽のオークション絡みで集団犯罪をやろうと主人公にもちかけてから、タッチこそ変わらずとは言え、前半と180度くらい違う半ば通俗的な犯罪映画に落ちてしまう。通俗的な犯罪映画でも良いが、それなら最初からそういう形で前段を重ねていかなければトーンが一貫せず、良い映画たりえない。本作はまるで韓国スタイル(前半喜劇、後半悲劇若しくはシリアス)の逆バージョンではないか。2009年の「エリックを探して」でも喜劇スタイルを取り込んでいるが、あの作品はそういう映画論的な不満を感じさせなかった。ファンタジー色が喜劇に合っていたからと分析する。

常に下層階級の現実に焦点を当てるローチのスタイルでは、別の映画評で述べた「一般的な倫理観で映画を作ったり観てはダメである」という説も当てはめにくい(昨日も同じようなことを言いましたっけ・・・苦笑)。主人公が持ち合わせた才能を生かした一種のインチキを行う。確かにこの盗難では誰も傷つかないとは言うものの、やはり犯罪であろう。
 それにより後味が悪くなったとは思わないながら、さほど潔癖症ではない僕でもローチのタッチでのこのお話には感心できない。加害者の弁護士が生活環境をたてに減刑を求めるのに疑問を覚えることもある。何故ならほぼ同じ環境にいても犯罪を起こさない人もいるからである。結局そこに否定しがたい個人差があるということ。グラスゴーの経済状況を知っていようといまいと、作り方を変えない限り、この映画の幕切れはどうも落ち着かないのである。

昨年観た息子さんの「オレンジと太陽」のほうがずっとしっかりした作品だったなあ。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年05月19日 03:01
犯罪ではなく、利き酒のほうに話を持って行ってほしかったですね~( 一一)
オカピー
2014年05月19日 18:52
ねこのひげさん、こんにちは。

この映画に辛い点を付ける人は、作品の知的レベルに達していない、と仰る方がいらしました。
しかし、辛い点を付けた論拠によって、そう言えるケースと言えないケースとがあるでしょう。
グラスゴーの環境を知らないから云々というだけで、そう断言しても良いものかなあ。
確かにグラスゴーの経済については僕は碌に知らない。しかし、知っていてもローチが作った作品としては気に入らないということには何の影響もありません。総合的にバランスが悪いからであります。

イエス・サー、犯罪より利き酒を使うべきでした。

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  • 天使の分け前

    Excerpt: かけがえのない出会いと スコッチウイスキーがもたらす“人生の大逆転”! 原題 THE ANGELS' SHARE 製作年度 2012年 製作国・地域 イギリス/フランス/ベルギー/イタリ.. Weblog: to Heart racked: 2014-05-19 09:22