映画評「真夏の方程式」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・西谷弘
ネタバレあり

人気作家・東野圭吾「ガリレオ」シリーズの映画化「容疑者Xの献身」が存外良かったので、原作を読んでみたら、映画より純度が高くさらなる感銘を覚えた。本作は同じく西谷弘監督による「ガリレオ」シリーズ第2弾である。

物理学者・湯川学(福山雅治)が説明会に参加するため海底鉱物開発を巡って賛成派と反対派で揺れる風光明媚な玻璃ヶ浦を訪れ、宿泊する旅館“緑岩荘”で苦手なはずの子供・恭平(山崎光)と親しくなり、少年の理科嫌いを治そうと彼をペットボトル・ロケットを使ったちょっとした海底探索を味わせる実験に連れ出す。案の定少年は実験に夢中になる。
 開発反対派のリーダー的存在の川畑成美(杏)は経営者夫婦(前田吟と風吹ジュン)の娘で、少年の従姉である。同じ日に泊まった塚原という元刑事(塩見三省)が海岸で死体で発見されると“緑岩荘”はにわかに慌ただしくなり、死因と特定された一酸化炭素中毒を部屋で再現できないため知り合いの女性刑事・岸谷(吉高由里子)により湯川は解明を求められ、並行して捜査及び調査が進むうちに15年前の女性殺人事件と関連が深いことが判って来る。

「容疑者Xの献身」と似た要素が多い。特に殺人をめぐる真犯人設定は極めて似ているし、その秘密を守る為に別の事件が起こるのも同様。献身的に尽くす人物が出て来るのも似ている。違うのは献身的に尽くす人物と別の事件を起こす人物が別人であるということ、それによりさらに別の人物(少年)が知らないうちに事件に巻き込まれてしまうという辺りである。

トラウマを抱えて生きていくことになるであろう少年を守る為に湯川は真犯人を警察に教えず、自首も認めない。この部分が倫理的に認められないという人もいるようだが、そもそも人間は弱くて愚かなものであり、その人間の営む社会には大きな矛盾が横たわり、それを描くのが小説であり、映画である。倫理中心にお話を構成するとそれを鮮やかに描けないことがまま出て来る。
 逮捕されるのが倫理的なのかもしれないが、塀の外で少年を見守って生きていくことの方が真犯人にとってある意味服役することより厳しいのではないか。一般的な倫理観や法律だけに基づき小説が書かれ、映画が作られるのであれば、我々は人間の原罪に触れることが難しくなる。最近の日本社会に跋扈しているように見える善悪二元論は非常に危うい考えである。

多分に「容疑者X」のほうが華美であり、魅力には富む。
 この第二弾は湯川の性格が大分平均的人物に近づき、岸谷刑事も珍しく比較的真面目に観ていたTV最新シリーズと比べると変人ぶりが極めて希薄になっているので、印象が頗るオーソドックス。映画としては必ずしもプラス材料ではないものの、結果的に非常に見やすい作品になっている。「相棒」が映画版になるといつも風呂敷を広げすぎてお話が明らかに破綻してしまうのに比べると安定感が高い。詰めて行けばディテイルに粗(あら)はあるが、大衆映画としては許容範囲であろう。

殺人は出てくるけれど、残忍な描写になっていないのが精神衛生上良いです。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年05月10日 05:56
東野さんとか海外でも認められるミステリー作家が出てきたことは喜ばしいことですね。
若手の映画関係者も頑張ってほしい物であります。
オカピー
2014年05月10日 20:11
ねこのひげさん、こんにちは。

一作しか読んでいませんが、かなり気に入りました。人気があるので、図書館に頼っているとなかなか借りられないのですが、そのうち空くだろうということで(笑)
2022年04月02日 20:58
やっと観ましたよ、ガリレオシリーズ。ミステリに疎いので全然気がついてませんでした。おもしろかったです。これもちょっと『砂の器』風なところがありましたね。
湯川学は、刑事ではなく探偵なので、ああいうまとめ方でもいいのかなって。なんか男が女のせいで人生狂わされてる印象が強いですが、これも映画ですのでドラマとしてはありかなと。現実の犯罪だと暴力で女が泣き寝入りみたいなのが多いのでね。
オカピー
2022年04月02日 22:13
nesskoさん、こんにちは。

>やっと観ましたよ、ガリレオシリーズ。・・・おもしろかったです。

「容疑者Xの献身」はもっとお薦め。是非ご覧になって下さい。

>湯川学は、刑事ではなく探偵なので、ああいうまとめ方でもいいのかなって。

確かに公務員ではなくああいう幕切れは出来ないでしょうね。

それは別にして、何でも善悪二元論的に考える人が多いのは考えものです。作家たちが人間の罪と罰を考えようと色々アイデアを練っているのに、刑務所行きだけが唯一の解決なんて、人間について考えるのを放棄しています。何が面白くて映画を観ているのだろう?
mirage
2023年10月12日 21:36
こんばんは、オカピーさん。

この映画「真夏の方程式」は、大変巧くできているなと感じました。
映画的なドラマの中に、「科学的な理性」と「人間的な感情」の相克を巧く取り込んでいるのは脚本、演出、ロケーションの相乗効果だと感じます。

しかも、ちゃんと福山雅治の「ガリレオ」になっていて、フジテレビ的には珍しい、「ドラマ」と「映画」のシンクロがなされているところも、実に良かったなと思います。

この映画が語るテーマは、TVシリーズ同様、科学的な思考法によって、世の中の曖昧さや混沌を整理し、真実に到達するという物語です。

この物語は、過去の殺人事件から逃げてきた家族が、海沿いの町で旅館を経営して暮らしています。
その家族の下に、その事件の元担当刑事が訪ねてくるところから、大きく歯車が動き始めます。

その旅館に科学調査のため宿泊しているのが、主人公のガリレオこと湯川学と、夏休みの休暇に訪れた、この旅館の家族の甥っ子です。

それは過去の事件から逃れようとしてきた、この家族にとって、過去に追いつかれた瞬間だったでしょう。

結局、劇中で何度も繰り返される化学実験は、目的に対する推論と、その検証実験、さらに、その実験結果に基づく理論の構築という、仮説、実験、帰納的な結論の獲得という、科学プロセスを再現したものです。

それは過去の事件に対して、適切に対処しなかった(仮説のエラー)ゆえに、現実の対応を(実験プロセスのエラー)できずに、結果として混乱を生じてしまったのだと語られています。

その混乱の一番の被害者は、ガリレオと共に実験をした少年だったはずです。
この少年は、非科学的な混乱の影響で、自分の人生に知らぬまにマイナスを背負い込む事になります。

この少年もそのまま、非理系的な思考法のままであれば、自らの罪に無自覚でいられたのです。
しかし、ガリレオと共に過ごし、科学的な論理思考を我が物とした時、この少年は、自らの罪に気付かなければならなくなります。

しかし、たぶんこの少年にとって「なぜ罪を得たのか」の答えは、決して手に入りません。
ガリレオはそれを、少年に罪を着せた人々に、いつか明示せよと約束させます。

しかし、過去の犯罪を隠蔽するために少年の力を無断で借りたという事実と、それに対する謝罪で、この少年の罪悪感が消え去るでしょうか。

事件の背景と自らの成した事の論理的事実解明が成されても、なぜイノセントな自分が罪を得るのかという問いに対する答えとはなり得ません。

この何も悪くない少年に、その運命が巡ってきた必然、その運命を引き受けざるを得ない理由こそ、この少年の求める答えだったはずです。

この宇宙の時空のただ一点で交差した、全ての条件の必然とその意味を解き明かされることが、この少年にとっての「救済」だったでしょう。
その「救済」が、本当に科学で可能なのかと問われるべきでしょう。

実際、それは神の作り賜うた必然のはずであり、人が慮れる領域ではないはずです。
つまりは、科学的な原因と結果のプロセスだけでは、人の心を「救済」し得ないのです。

結局、この映画は、人間の主観的混乱を、科学という客観的な帰結に収斂させることを試みながら、それでも科学の結論が、人の救いに至らないという限界を語った映画だったのでしょう。

この映画は、そのテーマがドラマとして置き換えられ、映像情報もその非情な現実を表現して、効果的だったと思います。
オカピー
2023年10月13日 14:41
mirageさん、こんにちは。

>「科学的な理性」と「人間的な感情」の相克

それが、東野圭吾の小説、中でもガリレオ・シリーズ(と言っても小説は「容疑者Xの献身」しか読んではいませんが)のキモですね。

松本清張にも通ずるものがあり、ガリレオ・シリーズくらいは他も読んでみたいと思います。

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