映画評「ファインド・アウト」

☆☆★(5点/10点満点中)
2012年アメリカ映画 監督エイトール・ダリア
重要なネタバレあり。未見の方は要注意。

訳あり美人アマンダ・セイフライドが夜勤先の軽食店から帰宅すると、試験を控えていた筈の妹エミリー・ウィッカーシャムがパジャマを着たままいなくなっている。かつて彼女は拉致・監禁されたと警察に訴えたのだが、監禁先とされる森林公園内の穴も他の被害者も見つからなかった為、妄言として処理された経験がある。そんな彼女が「奴(監禁犯人)が戻って来て妹を誘拐した」と訴えても警察は取り合わない。
 そこで彼女は単独で行動を起こすが、精神病の疑いを掛けられている上に拳銃を所持している為に警察から追われながら、近所の人が家の前で見かけたという車を手掛かりに犯人の居場所に接近していくことになる。

アルフレッド・ヒッチコックが得意とした【追われながらの犯人探し】のヴァリエーションだが、さすがに21世紀の作品である。ヒッチコックの作品では我々は可哀想なひたすら応援すべき人物として主人公の身辺に迫る危機にサスペンスを素直に感じていれば済んだ。
 ところが、「シックス・センス」以降画面も主人公も観客に嘘を付くことを承知した現在の我々はそう素直に観ているわけには行かない。確かに、どんな悪役でも一旦主人公になれば彼なり彼女なりを応援してしまうのが一般的であり、本作でもヒロインの身辺に警察が迫ればサスペンスを感じる。それ自体は基本的に変わっていないと言って良い。違うのは最後に残される後味である。
 ヒッチ映画ではハッピーエンドで終われば「ああ、良かった」とサスペンスを感じた甲斐もあるのだが、昨今の作品は一筋縄では行かず、くたびれ損に終わるケースもある。本作がくたびれ損になるかどうかはともかく、一筋縄に行かない理由は、ヒロインに関するミステリー的仕掛けにある。端的に言えば、彼女が捜索過程において余りにも上手く嘘を付くので、我々も彼女にはやはり虚言癖があるのではないかと疑い続けて観ることになる。これが上手くミステリー趣向として機能するわけである。

本来この手の作品では【言わぬが花】の終盤について話してしまうと、結局犯人はいて妹を解放した後妹をダシにヒロインを穴倉に呼び寄せる。が、この犯人、一般のホラー映画に比べて誠に軟弱なやつでして、反撃を食らってあっさり焼殺される。情けなか。
 「本来無辜の女性が正当防衛以外で殺人を犯すのはいかに何でもまずいんじゃないの?」と思う間もなく、彼女は警察の「妄想」との決めつけを逆手にとって事件にけりをつけてしまう。上手いと言えば上手い幕切れである。しかし、これにより犯人の(妹を拉致・解放してまで姉を呼び寄せる)狙いが不明になったのはミステリー的に問題があるし、現実の警察であれば、犯人が焼死体で見つかれば警察に証拠物件を送る彼女が容疑者として調査されるのは間違いない。「ああ、なるほど」と思わせるのも束の間すっきりしない後味が現れて来る。退屈させないという意味では上出来ながら、大量の☆★を付けなかった所以。

上映時間94分なり。アメリカ映画は大作と小品の棲み分けが進んでいる。この点だけはアメリカ映画界について大いに評価したいところであります。興行成績は良くても邦画は内容不相応に長い映画が多すぎる。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年06月22日 10:59
日本だと2時間ドラマ程度の長さでちょうどよい長さでありますな~
警察をコケにしたところもカタルシスを与えるのでしょう。
オカピー
2014年06月22日 20:22
ねこのひげさん、こんにちは。

90分くらいは一気呵成に見るにはちょうど良い長さですね。
日本の映画はとにかく長いです。説明過多で甘やかされたTVファン層に合わせているので長くなっているのでしょうがねえ。2時間を切る映画が殆どないというのは1970年代には考えらないですよ。デジタル化の悪影響の一つですね。

>警察をコケ
どうもそれがあるようですね^^

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