映画評「アンコール!!」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年イギリス=ドイツ合作映画 監督ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
ネタバレあり
5年前に観たドキュメンタリー映画「ヤング@ハート」をドラマ化すればこんなお話になる、といった内容の英国製映画である。
ロンドン、70代の気難しい老人テレンス・スタンプは、愛する妻ヴァネッサ・レッドグレーヴが癌に侵されながらも老人だけの合唱団に参加して人生の末期を楽しんでいるのとは対照的にいつも苦虫を潰したような顔をし、合唱団の老人たちとは付き合わず、息子クリストファー・エクルトンともうまく行かない。ヴァネッサが予選を兼ねた野外演奏会で夫への愛を歌うかのような「トゥルー・カラーズ」を披露した後亡くなる。
母親を失った息子は益々父と疎遠になるが、不器用な自分を何とか変えようと老人は亡き妻の歌に応えるかのように合唱団を指揮する妙齢美人ジェマ・アッタートンと近づき歌などを披露してみる。しかるに、どうも水が合わない。結局、老人合唱団は彼なしで本番の会場へと向かう。
ところが、現場にはスタンプが待っている。万事順調かと思いきや、出演直前にラフな格好でポップスを歌う為に「規格外」として主催者側から拒絶されたので一同バスに乗って帰ろうとしたところへ、スタンプが頑固爺さんぶりを発揮して強引に舞台に立ちそこへずらずらと老人たちが続いて現れた為に主催者側も止められずにパフォーマンスを許可、彼らの歌唱は観客から大喝采を浴びる。父子もこの快挙によりわだかまりを解く。
老人たちが若者の音楽を歌う。正に「ヤング@ハート」で取材された老人たちそのものである。しかし、考えてみれば彼らの多くはビートルズ世代である。その後のハードロックやラップとは違うにしても、老人たちの多くは若い時にロックに触れているはずだから、案外違和感なく取り込むことできるのではないか。尤も、最終的に披露されるのはそれほど“新しい”音楽ではなかったのではあるが。
主人公はスタンプである。ヴァネッサは通奏低音である。彼女亡き後も映画は彼女の印象をずっと引きずったまま進行する。父と子の和解は結局はスタンプのヴァネッサへの愛情が、即ち、ヴァネッサがもたらしたものである。
僕も母と父を失ってさほどの年月を経ていないので、主に息子の立場から老夫婦を観ていた。彼らの愛情交換だけでも胸に迫るものがあるが、この息子とは立場こそ違え、仲の良かった両親を思い出してじーんとしてしまう。ここ十年ほど両親とは殆ど気まずい思いをしていなかったつもりだったが、今思うに、それはこちらの一方通行の感想で、二人は僕のわがままを不満な顔をせずに受容していたのであろう。本当に申し訳ないと思う。
そして、同時に完全な戸主となった立場としてこの映画を観ている自分にも気づく。それほど遠くない未来に僕も彼らの年齢になる。自分も彼らのような人生を送れると良いと思って観るうちに涙が出てきた。不幸になると決まったわけでもないと思いたい。
音楽と老人という組合せとしてダスティン・ホフマンの初監督作「カルテット! 人生のオペラハウス」と共通するものがあるが、あちらがシンプルな一幕もの的な印象があるのに対し、こちらは心理の綾が少し絡む三幕もののような印象。あちらが些か舞台的なら、こちらのほうが多分に映画的である。
いずれにしても、こういう大人の大衆映画を作らせたら英国映画が今一番上手い。松尾芭蕉が俳諧で最終的に目指した「軽み」に通ずるものがあるのである。
彼らの歌は、ヘタウマの魅力だね。あるいは、ウマヘタなのかもしれない。
2012年イギリス=ドイツ合作映画 監督ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
ネタバレあり
5年前に観たドキュメンタリー映画「ヤング@ハート」をドラマ化すればこんなお話になる、といった内容の英国製映画である。
ロンドン、70代の気難しい老人テレンス・スタンプは、愛する妻ヴァネッサ・レッドグレーヴが癌に侵されながらも老人だけの合唱団に参加して人生の末期を楽しんでいるのとは対照的にいつも苦虫を潰したような顔をし、合唱団の老人たちとは付き合わず、息子クリストファー・エクルトンともうまく行かない。ヴァネッサが予選を兼ねた野外演奏会で夫への愛を歌うかのような「トゥルー・カラーズ」を披露した後亡くなる。
母親を失った息子は益々父と疎遠になるが、不器用な自分を何とか変えようと老人は亡き妻の歌に応えるかのように合唱団を指揮する妙齢美人ジェマ・アッタートンと近づき歌などを披露してみる。しかるに、どうも水が合わない。結局、老人合唱団は彼なしで本番の会場へと向かう。
ところが、現場にはスタンプが待っている。万事順調かと思いきや、出演直前にラフな格好でポップスを歌う為に「規格外」として主催者側から拒絶されたので一同バスに乗って帰ろうとしたところへ、スタンプが頑固爺さんぶりを発揮して強引に舞台に立ちそこへずらずらと老人たちが続いて現れた為に主催者側も止められずにパフォーマンスを許可、彼らの歌唱は観客から大喝采を浴びる。父子もこの快挙によりわだかまりを解く。
老人たちが若者の音楽を歌う。正に「ヤング@ハート」で取材された老人たちそのものである。しかし、考えてみれば彼らの多くはビートルズ世代である。その後のハードロックやラップとは違うにしても、老人たちの多くは若い時にロックに触れているはずだから、案外違和感なく取り込むことできるのではないか。尤も、最終的に披露されるのはそれほど“新しい”音楽ではなかったのではあるが。
主人公はスタンプである。ヴァネッサは通奏低音である。彼女亡き後も映画は彼女の印象をずっと引きずったまま進行する。父と子の和解は結局はスタンプのヴァネッサへの愛情が、即ち、ヴァネッサがもたらしたものである。
僕も母と父を失ってさほどの年月を経ていないので、主に息子の立場から老夫婦を観ていた。彼らの愛情交換だけでも胸に迫るものがあるが、この息子とは立場こそ違え、仲の良かった両親を思い出してじーんとしてしまう。ここ十年ほど両親とは殆ど気まずい思いをしていなかったつもりだったが、今思うに、それはこちらの一方通行の感想で、二人は僕のわがままを不満な顔をせずに受容していたのであろう。本当に申し訳ないと思う。
そして、同時に完全な戸主となった立場としてこの映画を観ている自分にも気づく。それほど遠くない未来に僕も彼らの年齢になる。自分も彼らのような人生を送れると良いと思って観るうちに涙が出てきた。不幸になると決まったわけでもないと思いたい。
音楽と老人という組合せとしてダスティン・ホフマンの初監督作「カルテット! 人生のオペラハウス」と共通するものがあるが、あちらがシンプルな一幕もの的な印象があるのに対し、こちらは心理の綾が少し絡む三幕もののような印象。あちらが些か舞台的なら、こちらのほうが多分に映画的である。
いずれにしても、こういう大人の大衆映画を作らせたら英国映画が今一番上手い。松尾芭蕉が俳諧で最終的に目指した「軽み」に通ずるものがあるのである。
彼らの歌は、ヘタウマの魅力だね。あるいは、ウマヘタなのかもしれない。
この記事へのコメント
昔とった杵柄というやつですね。
僕は本格的に取り組む前にやめてしまい、逆に何年か前五十の手習いでギターをやってみようかと思った時期もありますが、次々と事件はふりかかるし、結局何もしないまま来てしまいました。
ベンチャーズは未だ現役ですよね。もう80歳くらいではないですか?