映画評「トゥ・ザ・ワンダー」

☆☆★(5点/10点満点中)
2012年アメリカ映画 監督テレンス・マリック
ネタバレあり

精神衛生上その他の事情により以前よりは事前に作品情報を得ることにしている中、本来一番関心のある監督(新人・若手ばかりで最近はチェックする気も起らない)の名も碌に確認しないまま見始めた。
 序盤に見せ方がテレンス・マリックに似ているなあと思い始め、30分くらいで本人と確信した。38年間に5本しか作らない超寡作だった彼が、「ツリー・オブ・ライフ」以降、何故か作品を続々送り出そうとしていることを思い出した。

パリを訪れたアメリカ人ベン・アフレックが、ウクライナ系と思われるオルガ・キュリレンコ(最後のシーンで何かに対して「有難う」とロシア語で言っているようにロシア語専攻の僕には聞こえた・・・即興演出でウクライナ人のオルガが勝手に放った言葉ではあるまいか?)と恋に落ち、その娘を連れてアメリカに帰るが、お決まりの流れで二人の間に亀裂が入る。滞在ビザの関係で彼女がフランスへ戻った後彼は昔の知り合いレイチェル・マクアダムズと新たな関係を結ぶ。近所の牧師ハビエル・バルデムがそんな苦悩する三人を神との関連の中で見つめるうちに、自ら苦悩の中に身を置くことになる。

以上のようなお話が、四人の独白めいた語りが交錯する形で紹介されているものの、そのように理解できるだけであって必ずしも明確ではない。ましてマリックが何を言わんとしているかに至ってはほぼ理解することはできない。

彼の登場人物の捉え方は昔から<神の視点>的であり、そう思う主たる理由はドラマの狭間に随時挿入される俯瞰撮影にある。常に人物を追いかけながら、それでいて揺れないカメラで撮られている移動ショットにも神の視点を感じる所以がある。
 同時に、本作の牧師に代表されるように神への語りかけも目立ち、「ツリー・オブ・ライフ」では登場人物が空を見上げるショットも多かった。
 俯瞰と仰角は言わば神と人との対話である。マリックの神もベルイマンのように沈黙を守るのだろうか?

水に関わる描写が多いのはかつてのアンドレイ・タルコフスキーに似ていて、形而上的な内容を扱う方向性にも共通するものがあると思うが、ぐっと内省的なタルコフスキーに比べるとマリックは「人間は神により生かされている」といった印象を与えるような作り方をしている。実際どう思って作っているかはご本人に聞くしかない。

いずれにしても、「主題はこれこれである」と断言するのは不可能で、僕のような凡俗たる観客は、固定ショットによる筆舌しがたい美しい情景に満足するしかなさそうである。逆の意見もあるが、僕には「ツリー・オブ・ライフ」のほうが内容について考える気にさせるものがある。

パソコンの調子が悪くて暫くやめている自前の画像を添付したくなる映画でした。日本のミスター・マリックは何をしているかな?

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年07月22日 02:48
映像が美しいので良しとしますが、どうも宗教に縛られているね。
日本人はなにに縛られているのかな?
自然かな?

ジェームス・ガーナーが亡くなったね。
自然の摂理とはいえ、悲しいことです。
オカピー
2014年07月22日 17:32
ねこのひげさん、こんにちは。

>宗教
そういう印象ですね。
ただ、この人、西洋人には珍しく、一神教というより多神教的なような気がします。よく解りませんが(笑)

>ジェームズ・ガーナー
八十代半ば。アメリカ人としては長生きなほうでしたね。
先日40歳くらいの時の西部劇を二本観たばかりなので、しんみりしました。
仕方がないですね。

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