映画評「レイダース 失われた聖櫃《アーク》」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1981年アメリカ映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり

誕生日(7月23日)なのに観たい新作がない。ライブラリーから余り長くなく、かつ、気勢の上がるようなものを選んでいたらスティーヴン・スピルバーグの余りにも有名な「インディアナ・ジョーンズ」シリーズの第一作ということになった。

所有者に絶対的権力を与えると伝えられるモーゼの十戒の石板破片を収めた聖櫃をヒトラーが手に入れようと躍起になっていると知ったアメリカ側はその野望を阻止しようと、冒険好きの考古学者インディアナ・ジョーンズ(ハリスン・フォード)を派遣する。敵方ではフランス人の悪徳学者(ポール・フリーマン)が在り処を探す任を負っており、才覚では優る主人公インディはいつもこの男に煮え湯を飲まされている。
 インディはまずネパールでその在り処を特定するのに重要な役目を負う構成部品を持っている元恋人マリオン(カレン・アレン)と再会、二人揃って聖櫃のあるエジプトへ赴く。当然その先にはネパールでも出くわしたナチスの一行が待ち受けていて、以降賑やかな攻防が繰り広げられる。

CGという言葉が一般的になる直前の1981年にあって、この作品は新しくて古い映画であった。古いというのは、1910年~20年代に盛んであった連続活劇(無論サイレント映画)の再現であり、もう少し後のトーキー映画「ガンガ・ディン」(1939年)といった古典的冒険映画からのアイデア借用の多さである。このシリーズより後に「ガンガ・ディン」を観た時“なるほど”と思ったものだ。
 新しいというのは、10分くらい(一巻)のものを何か月も掛けて見せた連続活劇(TVシリーズの感覚)と違い、それを文字通り一本の映画として連続して見せたことである。1920年代に入り連続活劇が廃れ1時間を超える長編映画が当たり前となって以来、10分に一度くらいの割合で見せ場があるという冒険映画は作られなかったと理解している(ジャン=ポール・ベルモンドの追っかけ冒険アクション「リオの男」(1963年)がそんな感じだったのではないかと思うが、何分大昔それも子供時代に一回みただけなので自信を持って言うことが出来ない)。

かくして、本作からジェットコースター映画といった表現が用いられるようになった。ただ、その形容がもっとふさわしいのは僕のシリーズ中一番のお気に入りである第二作「魔宮の伝説」(1984年)で、或いは第二作からそうした表現が使われ始めたような気もする。いずれにしてもこのシリーズからである。
 また、このシリーズの人気によりトレジャー・ハンターものがちょっとしたブームになり、もっと大人向けの「ロマンシング・ストーン」(1984年)が作られたし、古典中の古典「キング・ソロモンの秘宝」(1985年)も復活した。後者は退屈な凡作だったが、僕は新人女優シャロン・ストーンという宝石(ストーンですな)を発見して結構ゴキゲンだった(彼女がブレークするのはぐっと遅れて1992年のご存知「氷の微笑」によってでござる)。

連続活劇の一本化的再現であるが故にサスペンスに活躍するのはクラシックなものが中心で、序盤の毒蜘蛛や巨石、インディの苦手な蛇といった要素が駆使されているが、これらはサスペンスと同時にコミカルな場面を生み出す要素としても活躍している。

コミカルと言えば、偃月刀(えんげつとう)を振り回して戦いを挑むアラブ人をインディがピストルで一発で仕留める場面は、本来はきちんとしたチャンバラか何かする予定であったらしいが、フォードの体調不良の為あのように変更になったらしい。相手には申し訳ないが、呼吸のよろしきを得て誠に可笑しかった。これを真剣に怒るのは野暮というものだ。

スピルバーグのショット処理はいつもながら正確で、フィリップ・カウフマン(とジョージ・ルーカス)が骨格を考え、才人ローレンス・キャスダンが具体化した脚本を実に上手く映像に移している。ただ、新技術であったCGを使った終盤の見せ場が僕は余り好きではない。今でも、まして当時はグロテスクすぎて気に入らなかった。

それ以外は僕の誕生日にふさわしい快作で、ゴキゲン。大衆映画はこうでなくては。

面白いことに、この作品はエジプトでのドンパチが始まる頃になると必ず眠くなる。映画館でもその後のTV鑑賞でもその辺りの記憶がない。それは映画の出来栄えのせいではなく、恐らく睡眠不足が原因の奇妙な偶然。恥ずかしながら、今回初めて完走したのではあるまいか(笑)。

この記事へのコメント

vivajiji
2014年07月30日 12:29
遅ればせながら
お誕生日おめでとうございます。
毎年毎年アクデントの連続のようにも
見受けられますがなんとかご無事で何より。

わぁ~~33年前ですか~本作。
観客喜ばすスキルいっぱいのスピルバーグも
活きが良くてね~まさに冒険活劇もののお手本。
もちろん、劇場で観ました、懐かしいですね。

本日ただいまの札幌、外気温32度。
25度過ぎるとアゴ上がる北海道民(- -)
暑くてダルくて交わす言葉もチカラなし。(笑)
ということで、暑中お見舞申し上げます。
(ぺこり)
vivajiji
2014年07月30日 12:32
アクデント(誤)⇒アクシデント(正)
失礼いたしました。(又々、ぺこり)^^;
オカピー
2014年07月30日 21:23
vivajijiさん、コメント有難うございます。

>ご無事
精神的にきつい日々が続いていますが、何とか生きております。
ただ、ストレス性の何かでしょうか、消化器系に違和感を毎日感じます。胃は近いうちに胃カメラで見て貰わないといけないと思っておりますが、いつも苦労するのでなかなか実行に移せませんTT

「死ぬまでに読みたい1000の書物」が残っていますので、(死んでも良いけど)まだまだ死ねないと思っています。
再鑑賞はともかく、新作映画への興味が減っています。困ったものです。

>スピルバーグ
一部にCGが使われているとは言え、まだSFX時代の作品ですし、お話や撮り方に工夫が色々あって、やはり面白い。
 今日第三作を観ました。来週の初めくらいに投稿しますが、一応それで「インディ」シリーズ全作アップとなります。

>32度
こちらは4日間ほど36度くらいでしたのでめったに使わないエアコンが大活躍、やっと32~33度くらいになり、扇風機に戻しました。
やはり温暖化なんでしょうか。平年気温は31度くらいなんですが。
こちら山ですので、夜は比較的涼しいのですが、この映画を観た日は真夜中に30度超えていましたから、生まれて初めて夜エアコンを付け、涼しくしてから寝ました。

北海道民にとって32度はこちらの36度くらいに相当するでしょうか。
vivajijiさんも是非ご自愛を。
ねこのひげ
2014年08月03日 08:45
冒険活劇の一言でありますね。
ただ、ひたすら楽しい映画でありました。
ラストのお化け共も嫌いではありませんです。
オカピー
2014年08月03日 17:46
ねこのひげさん、こんにちは。

お化けはともかく、あのナチス関係者が解けるのが嫌でしたねぇ。
作りものでも内臓とか骨とか見るのは大の苦手。インディの蛇に相当するでしょう(笑)

この記事へのトラックバック

  • 映画評「リオの男」

    Excerpt: ☆☆☆★(7点/10点満点中) 1964年フランス=イタリア合作映画 監督フィリップ・ド・ブロカ ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2016-11-22 09:09