映画評「ナイル殺人事件」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1978年イギリス映画 監督ジョン・ギラーミン
ネタバレあり
「オリエント急行殺人事件」(1974年)のヒットで映画界にアガサ・クリスティーのブームが巻き起こった。「アガサ 愛の失踪事件」(1979年)というご本人を主役にした秀作も作られた。そのピークに作られた本作は、映画館で観て面白いのが解り切っているので再鑑賞を何度も試みたが、140分という長尺にブルーレイに手が伸びない・・・というのを繰り返し、遂に観ましたよ。
嫌味な富豪令嬢ロイス・チャイルズが一応友達らしいミア・ファローから奪った青年サイモン・マッコーキンデイルとナイル川をエジプトからスーダンまで上る新婚旅行に出る。金持ちの老婦人ベティー・デーヴィスと付き人マギー・スミス、スキャンダラスな女流作家アンジェラ・ランズベリーとその娘オリヴィア・ハッシー、オリヴィアと恋に落ちるマルクス主義者ジョン・フィンチ、ロイスの管財人ジョージ・ケネディー、彼女に悪口を言われて面白くない医師ジャック・ウォーデン、退役軍人デーヴィッド・二ヴン、ロイスの家政婦ジェーン・バーキン、執拗に二人を追いかけるミア、そしてピーター・ユスティノフ扮する名探偵エルキュール・ポワロが乗り合わせる。そして、就寝中のロイスが拳銃で頭部を撃たれて射殺される。
「オリエント急行殺人事件」と甲乙つけがたい豪華メンバーを観るだけでも映画ファンならご馳走様と言いたくなるくらいで、時代背景となる1930年代らしい風俗に加え、エジプトから始まるナイル河岸の風景を眺めるお楽しみもある。映画のパッケージとして文句なしである。
ポワロと退役軍人以外に全員犯行動機と機会があり、ポワロはどうトリックを見破り真犯人を突き止めるか、というミステリーとしてアンソニー・シェイファーの脚色が断然よろしく、ジョン・ギラーミンも華やかに映像化、パーフェクト・ゲームと言って良い。
クリスティー(というか本格ミステリー全般)の映画版として対抗馬となるのはやはり「オリエント急行」だが、同作のシックな見せ方に対しパノラマのような絢爛豪華さを買って商業映画としては本作を上位に置きたい。ポワロを演ずるアルバート・フィニーとユスティノフの好悪で評価の分かれる可能性もある。
細かい点では、二か所出て来る主観ショットの扱いが印象深い。最初の主観ショットは誰のものか解らない。新婚夫婦を狙って巨石を落とす犯人のものだから、ミステリー故に当然主観の主は解らない。サスペンスの場合に主が解って初めて主観ショットの効果が出て来るのとは対照的な扱い。しかも後段においてポワロの推理の中で上手く再利用されている。もう一つは仮想犯人の主観ショット。こちらは犯人を仮定しているので誰の主観かはっきり解らせた上で進められる。この辺りの見せ方は本格ミステリーのお手本と言うべし。
真犯人の扱いも上手く、どんでん返しの為のインチキが映像にない。当たり前のことながら、案外出来ていないミステリーが多いので、これも見習いたい。
映画館で鑑賞していた時のこと、後ろに座ったカップルの男のほうが相手の女性に犯人を教えているのを聞いてしまった。それまでニコニコ観ていたのに全くの台無し。映画館での鑑賞中にこれほど頭に来たことはない。
1978年イギリス映画 監督ジョン・ギラーミン
ネタバレあり
「オリエント急行殺人事件」(1974年)のヒットで映画界にアガサ・クリスティーのブームが巻き起こった。「アガサ 愛の失踪事件」(1979年)というご本人を主役にした秀作も作られた。そのピークに作られた本作は、映画館で観て面白いのが解り切っているので再鑑賞を何度も試みたが、140分という長尺にブルーレイに手が伸びない・・・というのを繰り返し、遂に観ましたよ。
嫌味な富豪令嬢ロイス・チャイルズが一応友達らしいミア・ファローから奪った青年サイモン・マッコーキンデイルとナイル川をエジプトからスーダンまで上る新婚旅行に出る。金持ちの老婦人ベティー・デーヴィスと付き人マギー・スミス、スキャンダラスな女流作家アンジェラ・ランズベリーとその娘オリヴィア・ハッシー、オリヴィアと恋に落ちるマルクス主義者ジョン・フィンチ、ロイスの管財人ジョージ・ケネディー、彼女に悪口を言われて面白くない医師ジャック・ウォーデン、退役軍人デーヴィッド・二ヴン、ロイスの家政婦ジェーン・バーキン、執拗に二人を追いかけるミア、そしてピーター・ユスティノフ扮する名探偵エルキュール・ポワロが乗り合わせる。そして、就寝中のロイスが拳銃で頭部を撃たれて射殺される。
「オリエント急行殺人事件」と甲乙つけがたい豪華メンバーを観るだけでも映画ファンならご馳走様と言いたくなるくらいで、時代背景となる1930年代らしい風俗に加え、エジプトから始まるナイル河岸の風景を眺めるお楽しみもある。映画のパッケージとして文句なしである。
ポワロと退役軍人以外に全員犯行動機と機会があり、ポワロはどうトリックを見破り真犯人を突き止めるか、というミステリーとしてアンソニー・シェイファーの脚色が断然よろしく、ジョン・ギラーミンも華やかに映像化、パーフェクト・ゲームと言って良い。
クリスティー(というか本格ミステリー全般)の映画版として対抗馬となるのはやはり「オリエント急行」だが、同作のシックな見せ方に対しパノラマのような絢爛豪華さを買って商業映画としては本作を上位に置きたい。ポワロを演ずるアルバート・フィニーとユスティノフの好悪で評価の分かれる可能性もある。
細かい点では、二か所出て来る主観ショットの扱いが印象深い。最初の主観ショットは誰のものか解らない。新婚夫婦を狙って巨石を落とす犯人のものだから、ミステリー故に当然主観の主は解らない。サスペンスの場合に主が解って初めて主観ショットの効果が出て来るのとは対照的な扱い。しかも後段においてポワロの推理の中で上手く再利用されている。もう一つは仮想犯人の主観ショット。こちらは犯人を仮定しているので誰の主観かはっきり解らせた上で進められる。この辺りの見せ方は本格ミステリーのお手本と言うべし。
真犯人の扱いも上手く、どんでん返しの為のインチキが映像にない。当たり前のことながら、案外出来ていないミステリーが多いので、これも見習いたい。
映画館で鑑賞していた時のこと、後ろに座ったカップルの男のほうが相手の女性に犯人を教えているのを聞いてしまった。それまでニコニコ観ていたのに全くの台無し。映画館での鑑賞中にこれほど頭に来たことはない。
この記事へのコメント
なつかしいなあ。職人監督になるのでしょうがこういう人がいないとねえ。
クリスティのこういう話はオールスター映画にできるんですよね。
>インチキが映像にない
これ大事ですよね。でも大事なことが忘れられている。
職人監督でしょうね、ギラーミンは。
脚本にもよりますが、良い本にあたると本当に素晴らしい仕事をした印象があります。
>クリスティ
特にポワロものは、容疑者が多く、観光要素もあり、映画向きでした。
>インチキ
結構まかり通っていると思います。
1970年代後半からずっと放映されているTVのミステリーはどうなんでしょうかねえ。相当ありそうですが・・・
TVではあれほど製作されているのに、映画における本格ミステリーが少ないのも残念です。
犯人・・・・・まぁ・・・アガサでありますからね。
ねこのひげは、小説を読んで知っておりますからしゃべられても気にはならないですが・・・・
しかし、その男・・・彼女に逃げられたでありましょうな~(*_*)
絢爛豪華で面白かったぁ。
この犯人は、アガサの設定では、比較的まともなほうでしょう^^
>彼女に逃げられたでありましょうな~(*_*)
しかるべき女性なら逃げるでしょう(笑)
逃げなければ「男を見る目がないと言うべし」です^^