映画評「夜の騎士道」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1955年フランス映画 監督ルネ・クレール
ネタバレあり
アヴァンギャルド映画「幕間」(1924年)以降日本で劇場公開されたルネ・クレール監督作品は全部観ているが、ブログを始めてからは「悪魔の美しさ」(1949年)の再鑑賞だけのようだ。
ジュリアン・デュヴィヴィエも少ないし、ジャン・ルノワールにしても大した数をこなしていない。マルセル・カルネもジャック・フェデーもない。ハイビジョン映像を中心に選んでいることに加え、「ブログの訪問者を意識して選んでいるところがあるかもしれない、これでは映画鑑賞の目的と本末転倒ではないか」と反省して、クレールのこの戦後作を久しぶりに観る。但し、バイビジョン映像であります。そのうちぼけぼけビデオ映像でしか持っていない、戦前のフランス映画も再鑑賞することにしよう。
19世紀末か20世紀初め(所謂ベル・エポック)のフランス、女たらしの竜騎兵中尉ジェラール・フィリップが仲間たちと、30日後の大演習出発までに誰でもよいから美人をものにする、という賭けをする。紆余曲折を経てその相手に選ばれたのがパリから舞台となる地方都市にやってきたミシェル・モルガン。彼女には既に金持ちの良い人ジャン・ドザイーがいるが、それを何とかするのが生きがいとばかりに張り切るフィリップに傾いていく。最初は単なる賭けのつもりだった彼も罰で出された小演習から帰って来ると本気になる。しかし、その間に彼の賭けのことを知った彼女の冷えた心は戻らず、彼が彼女の赦しの証拠とした窓を開けず、静かに彼の出陣を見送る。
恋心のすれ違いをシニカルに処理した、フランス的或いは19世紀末の人気作家モーパッサン的な幕切れという印象を受けるが、厳密に言うと、彼女は怒ったままではなかったのかもしれない。自らの恋心を封印した悲しい別れだったのではないかという余韻を、閉められた窓からカーテン越しに出陣する彼を見送るヒロインの佇まいが、漂わせているような気がするのである。
彼に直接絡んでくるのは他に可愛い女給ダニー・カレルだけだが、彼の戦友イヴ・ロベールの恋人として新人時代のブリジット・バルドー、歌手役のマガリ・ノエル等の女優陣が出番はそれほど多くなくても非常に賑やかで華やかなムードを醸し出し、なかなか楽しめる。
クレールであるから基本的には明快なライト・コメディーで、ルノワールの「恋多き女」(1956年)の婉曲的なシニカルさに比べればぐっと解りやすい。暗転とフィルムをもの凄いスピードで横に移動させたような手法による場面転換が小気味良く、二人の動向を町の人々が噂話をする形式で紹介する中盤も話術的に大変洒落ている。クレールの作品としては中の下くらいの出来ながら、さすがでござる。
温故知新。昔の映画を観ない人は映画ファンとは言えない。若い方々、ご覧になっていますか? 但し、1980年代なんて昔のうちに入りませんからね^^
1955年フランス映画 監督ルネ・クレール
ネタバレあり
アヴァンギャルド映画「幕間」(1924年)以降日本で劇場公開されたルネ・クレール監督作品は全部観ているが、ブログを始めてからは「悪魔の美しさ」(1949年)の再鑑賞だけのようだ。
ジュリアン・デュヴィヴィエも少ないし、ジャン・ルノワールにしても大した数をこなしていない。マルセル・カルネもジャック・フェデーもない。ハイビジョン映像を中心に選んでいることに加え、「ブログの訪問者を意識して選んでいるところがあるかもしれない、これでは映画鑑賞の目的と本末転倒ではないか」と反省して、クレールのこの戦後作を久しぶりに観る。但し、バイビジョン映像であります。そのうちぼけぼけビデオ映像でしか持っていない、戦前のフランス映画も再鑑賞することにしよう。
19世紀末か20世紀初め(所謂ベル・エポック)のフランス、女たらしの竜騎兵中尉ジェラール・フィリップが仲間たちと、30日後の大演習出発までに誰でもよいから美人をものにする、という賭けをする。紆余曲折を経てその相手に選ばれたのがパリから舞台となる地方都市にやってきたミシェル・モルガン。彼女には既に金持ちの良い人ジャン・ドザイーがいるが、それを何とかするのが生きがいとばかりに張り切るフィリップに傾いていく。最初は単なる賭けのつもりだった彼も罰で出された小演習から帰って来ると本気になる。しかし、その間に彼の賭けのことを知った彼女の冷えた心は戻らず、彼が彼女の赦しの証拠とした窓を開けず、静かに彼の出陣を見送る。
恋心のすれ違いをシニカルに処理した、フランス的或いは19世紀末の人気作家モーパッサン的な幕切れという印象を受けるが、厳密に言うと、彼女は怒ったままではなかったのかもしれない。自らの恋心を封印した悲しい別れだったのではないかという余韻を、閉められた窓からカーテン越しに出陣する彼を見送るヒロインの佇まいが、漂わせているような気がするのである。
彼に直接絡んでくるのは他に可愛い女給ダニー・カレルだけだが、彼の戦友イヴ・ロベールの恋人として新人時代のブリジット・バルドー、歌手役のマガリ・ノエル等の女優陣が出番はそれほど多くなくても非常に賑やかで華やかなムードを醸し出し、なかなか楽しめる。
クレールであるから基本的には明快なライト・コメディーで、ルノワールの「恋多き女」(1956年)の婉曲的なシニカルさに比べればぐっと解りやすい。暗転とフィルムをもの凄いスピードで横に移動させたような手法による場面転換が小気味良く、二人の動向を町の人々が噂話をする形式で紹介する中盤も話術的に大変洒落ている。クレールの作品としては中の下くらいの出来ながら、さすがでござる。
温故知新。昔の映画を観ない人は映画ファンとは言えない。若い方々、ご覧になっていますか? 但し、1980年代なんて昔のうちに入りませんからね^^
この記事へのコメント
昔、テレビで初めて観て、名作座での再鑑賞・・・・懐かしいですね~
定番と言えば定番的な作品でありますが・・・日本にも『籠の鳥とかいう作品がありましたな~
いまは、情報が溢れかえってますからね~なかなか昔の作品にまで目がいかないというのもあるでしょうが、観て欲しいものでありますね。
>ルネ・クレール
昔NHK教育で「世界名画劇場」というのがあって、戦前の映画を放映していて「巴里祭」や「自由を我等に」はこれで観ましたね。
「幕間」は京橋のフィルムセンターで「イタリア麦の帽子」と一緒に見ました。「イタリア麦」は大傑作だけど、正式には日本で公開されていない幻の名画。
衛星映画劇場も凄いラインアップでしたが、2005年くらいから急にダメになったなあ。今はもっとダメ。観たいものが大分減りました。なるべくハイビジョンで放映したいという意向があるのかもしれないけど、DVD画質で結構だからもっと昔の映画やって(笑)。
今の映画は似たようなものばかりだから、却って昔の映画のほうが表現豊かで面白いと思いますがねえ。若い人でも、志のある人なら、面白いと思うでしょう^^
この映画をNHK教育が初めて放映したのは記憶があります。でも、その時は観なず、何年か後クレールやジェラール・フィリップをよく知ってから観たと思います。
僕もまだ新米映画ファンで、それほどフィリップの作品を観ていなかった時代ですね。
>「花咲ける騎士道」
楽しい映画でした。リメイクもされましたが、フィリップ版と比べるとがっかり、という出来栄え。
>品
そうですね、フィリップが夭逝した後、アラン・ドロンがフランスの二枚目として台頭しましたが、フィリップにはどこか夢幻的なところがあり、ドロンが市井的・現世的であるのと対照的な印象を持っています。