映画評「陽だまりの彼女」

☆☆★(5点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・三木孝弘
重要なネタバレあり

題名からフォーク・グループ、クラフトの名曲「僕にまかせてください」を思い出した人は50代の方だろう。この映画に使われる音楽はビーチ・ボーイズだけど。

若者向けと思われる邦画に食指を動かされなくなって何年か経つが、すっとぼけたところに面白味がある上野樹里が主演なので観ることにした。

広告会社の若手社員・奥田(松本潤)がクライアントの会社を訪問し、その担当社員が中学時代の同級生・渡来真緒(上野樹里)と知って驚く。中学時代いじめられていた彼女を必死に守った仲だが、彼が途中で転校していって以来の再会だ。
 仕事を通じて彼女との交流を復活させていった彼は、彼女がおよそ13年間の記憶を持っていないことを養父から知らされた上で結婚を果たすが、彼女は徐々に弱っていく様子を示す。

「やっぱりそうなるか」とがっかりしていたら、裏をかかれた。死病ものでも難病ものでもないと判明した後、途中で「人魚姫」(+「鶴の恩返し」)の猫ヴァリエーションであることに気付く。僕の場合は75分辺りで閃いたが、その十分後くらいには誰でも解るように説明されてしまうので、わが勘も大分衰えたと嘆息。
 序盤から随所に伏線が忍ばせてある。中学での奇妙な自己紹介でピンとくれば大したものだ。さすがにそこで気付く人は殆どいないだろうが、60分より前に気付けば勘が良いと言うべし。

いずれにせよ、他愛ないファンタジーで、こういう小説(越谷オサム)がベストセラーになるのも「何だかなあ」と思う老骨の身とは言え、映画では余りお目にかかっていない内容なので案外楽しめる(僕が観ていないだけか?)。
 少なくとも序盤の難病恋愛映画かと予想させる雰囲気を見事に裏切る進行ぶりは悪くないし、上野樹里のとぼけた感じがいかにも猫っぽくてヨロシイ。彼女が消えると関係者の記憶が消えるという設定の中、主人公の心底に何か残っていると思わせる部分の扱いも良い。

猫だから後8回生きられるわけ(西洋の諺A cat has nine lives.による)で、最後にそれを思わせる一幕もあり、何となく幸せな気分になれる。「他愛ない」と言っても僕の場合貶していないことが多いので、要注意であります。

伏線の中で嬉しかったのは、彼女の好きな曲がビーチ・ボーイズの「素敵じゃないか」ということ。この歌詞の内容は余り記憶になかったが、この曲が入っているLPのタイトルが「ペット・サウンズ」なのが意味深長なのである。本来は、多分「好きな音・音楽」といった意味でありましょうがね。

真緒という名前も猫の鳴き声「ミャオ」から来ているのでは?

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年08月31日 07:48
ねこのひげは、ビーチボーイズのほうであります。
上田樹里は猫を思わせる味わいのある女優さんでありますね。
うってつけの役どころでありました。

なんだかな~と思う小説・・・・宮崎駿さんがアカデミー賞の名誉賞をもらう時代でありますからね。
我々のガキのころは漫画やアニメなんて馬鹿にされていたもので、軽蔑の対象でしかなかったですからね~
時代は変わるものであります。
オカピー
2014年08月31日 17:23
ねこのひげさん、こんにちは。

ねこのひげさんは、すぐにピンと来たのではないですか?

>宮崎駿さん
確かに僕の父親など死ぬまで漫画を馬鹿にしていましたが、僕自身もある年齢以降はTVアニメは観なくなったものの、毎回同じ展開の「水戸黄門」より鑑賞に堪えるのではないの?とは思っていました。
いや、「水戸黄門」を馬鹿にしているわけではないです。わざわざ時間を割いてまで観る価値はないなあと。観ていると割合退屈はしなかったです、実際。

しかし、宮崎アニメは確かに質が高いですし、良かったのではないですか。
ただ、サッカーW杯での報道のように、今日本人が日本人を誉める傾向にあるのは、台頭しているナショナリズムと無関係ではないようですので、余り浮かれないようにしませんと(笑)。

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