映画評「清須会議」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・三谷幸喜
ネタバレあり
高校では日本史は一般教養的に一年間付き合ったが、僕ら世界史クラス(世界史5クラス、日本史4クラスだったと思う)に属する生徒たちは授業中受験科目である世界史を勉強し、先生も暗黙の了解をしていたらしい。かくして僕の日本史知識は中学レベルで、安土桃山時代から江戸時代の流れくらいは一応知っているが、“清須会議”も名前を聞いたことがあるくらい。
天下統一にまっしぐらであった織田信長が本能寺の変で暗殺されて天下取りは中断、長男・信忠も亡くなった為に織田家に後継者争いが生じる。俊才ではあるが母親が下層階級出身である三男・信孝(坂東巳之助)を推す筆頭宿老・柴田勝家(役所広司)と、血筋はきちんとしているが愚鈍な次男・信雄(のぶかつ=妻夫木聡)を推す羽柴秀吉(大泉洋)が対立、尾張の清州(清須)城にて会議が開かれることになる。
他の家老・丹波長秀(小日向文世)が勝家寄りの為に彼に有利に働くかと思われたが、したたかで才長けた秀吉は新規に宿老に昇格させた池田恒興(佐藤浩市)をなびかせるべく色々と画策、その根回しはバランス感覚に優れた長秀にまで及び、(幼少でより御しやすい)信長の孫・三法師こそ・・・と推奨する後継者を変えた秀吉が全面勝利することになる。
というのは史実に沿った展開で、三谷幸喜としては比較的ストレートに扱って喜劇色を最小限に留めた印象はある。尤もこの印象には少々解説が要る。日本人は本来の意味での喜劇(コメディー)と笑劇(ファース)の区分が付いていない人が多いので、実はこの作品は珍プレイが大量に出て来る笑劇でないとしても、依然堂々たる喜劇である。笑劇と言えるのは、頭の弱い信雄が旗取り合戦で足の速さを見せつけ肝心の旗を取らない部分くらい。
武骨に過ぎる勝家も風見鶏の打算家・恒興もその性格に関して相当喜劇的な色付けをされており、終始大真面目な長秀を別にすると、意外や喜劇系の大泉演ずる秀吉が一番喜劇色が少ないというキャラクター作りが興味深い。但し、見た目は相当可笑しい。
秀吉が天下人となるのは誰でも知っていることだからお話の決着には感興が湧かないが、それでもその過程における様々な権謀術数は一応楽しめる。
ただ、僕がこの作品から受けた最大の印象は「女は怖いよ」である。浅田長政の妻だったお市の方(鈴木京香)は夫と息子を殺した秀吉に天下取りはさせじと好きでもない武骨な勝家と祝言を上げることにし、信長の長男である夫・信忠を失った松姫(剛力彩芽)はのんびりしたお姫様の仮面の下に出自の武田家を絶やすまいという信念により静かに画策を図っていたことが最後に判る。最後に見せる笑顔の不気味なことよ。
僕はこの女性たちと男性たちのバランスを少しいじるともっとアングルの付いたユニークな歴史劇になったと思うので惜しい気持ちが強い。但し、その場合は喜劇味は殆ど封印しないと奇妙なことになる。
時代劇は現代人の生活感情に照らして現代を反映する鏡であるはずなので、時代考証や史実に対する過剰な正確性は必要ないと思うが、秀吉の正妻・寧(中谷美紀)はまるで百姓。一応れっきとした武家の子女であるので他の妻女たちとの対照を図る目的があったとしても些か極端な気がしないでもないのだが、この対照(メイクの差)が三人の女性たちの性格を映し出してもいるのである。
信雄の墓所(の一つ)は、母の実家のすぐそばにあるそうだ。今度行ってみようかな。
2013年日本映画 監督・三谷幸喜
ネタバレあり
高校では日本史は一般教養的に一年間付き合ったが、僕ら世界史クラス(世界史5クラス、日本史4クラスだったと思う)に属する生徒たちは授業中受験科目である世界史を勉強し、先生も暗黙の了解をしていたらしい。かくして僕の日本史知識は中学レベルで、安土桃山時代から江戸時代の流れくらいは一応知っているが、“清須会議”も名前を聞いたことがあるくらい。
天下統一にまっしぐらであった織田信長が本能寺の変で暗殺されて天下取りは中断、長男・信忠も亡くなった為に織田家に後継者争いが生じる。俊才ではあるが母親が下層階級出身である三男・信孝(坂東巳之助)を推す筆頭宿老・柴田勝家(役所広司)と、血筋はきちんとしているが愚鈍な次男・信雄(のぶかつ=妻夫木聡)を推す羽柴秀吉(大泉洋)が対立、尾張の清州(清須)城にて会議が開かれることになる。
他の家老・丹波長秀(小日向文世)が勝家寄りの為に彼に有利に働くかと思われたが、したたかで才長けた秀吉は新規に宿老に昇格させた池田恒興(佐藤浩市)をなびかせるべく色々と画策、その根回しはバランス感覚に優れた長秀にまで及び、(幼少でより御しやすい)信長の孫・三法師こそ・・・と推奨する後継者を変えた秀吉が全面勝利することになる。
というのは史実に沿った展開で、三谷幸喜としては比較的ストレートに扱って喜劇色を最小限に留めた印象はある。尤もこの印象には少々解説が要る。日本人は本来の意味での喜劇(コメディー)と笑劇(ファース)の区分が付いていない人が多いので、実はこの作品は珍プレイが大量に出て来る笑劇でないとしても、依然堂々たる喜劇である。笑劇と言えるのは、頭の弱い信雄が旗取り合戦で足の速さを見せつけ肝心の旗を取らない部分くらい。
武骨に過ぎる勝家も風見鶏の打算家・恒興もその性格に関して相当喜劇的な色付けをされており、終始大真面目な長秀を別にすると、意外や喜劇系の大泉演ずる秀吉が一番喜劇色が少ないというキャラクター作りが興味深い。但し、見た目は相当可笑しい。
秀吉が天下人となるのは誰でも知っていることだからお話の決着には感興が湧かないが、それでもその過程における様々な権謀術数は一応楽しめる。
ただ、僕がこの作品から受けた最大の印象は「女は怖いよ」である。浅田長政の妻だったお市の方(鈴木京香)は夫と息子を殺した秀吉に天下取りはさせじと好きでもない武骨な勝家と祝言を上げることにし、信長の長男である夫・信忠を失った松姫(剛力彩芽)はのんびりしたお姫様の仮面の下に出自の武田家を絶やすまいという信念により静かに画策を図っていたことが最後に判る。最後に見せる笑顔の不気味なことよ。
僕はこの女性たちと男性たちのバランスを少しいじるともっとアングルの付いたユニークな歴史劇になったと思うので惜しい気持ちが強い。但し、その場合は喜劇味は殆ど封印しないと奇妙なことになる。
時代劇は現代人の生活感情に照らして現代を反映する鏡であるはずなので、時代考証や史実に対する過剰な正確性は必要ないと思うが、秀吉の正妻・寧(中谷美紀)はまるで百姓。一応れっきとした武家の子女であるので他の妻女たちとの対照を図る目的があったとしても些か極端な気がしないでもないのだが、この対照(メイクの差)が三人の女性たちの性格を映し出してもいるのである。
信雄の墓所(の一つ)は、母の実家のすぐそばにあるそうだ。今度行ってみようかな。
この記事へのコメント
『バリーリンドン』を思い出しましたよ。
女性陣の雰囲気が特に面白かったですね。
剛力彩芽さんは不気味でしたね。
三谷さんはうまいですね。
>『バリー・リンドン』
確かに、あの作品にもとぼけた味がありましたね。
>三谷さん
その演劇臭さが苦手という人も結構いらっしゃいますが、1950年代ならともかく、今や【演劇臭さ=非映画的】という時代でもないのですけどねえ^^;
本能寺の変 ボッパぁ~ツゥゥ~~
英ちゃん(→篠井英介)演じた ”御屋形様”信長 死んじゃった~
千歳一隅の チャァァ~ンスッだぜぇい!!! 浅野っち(→浅野和之) 光秀 打ち取ったりぃ~ っと 大手柄のイズミン(大泉洋) ご満悦!!!
さぁって こんどは御屋形様の跡目争いじゃ~(まるで 仁義なき戦いじゃな!)
今度のライバルは役所ン(→役所広司)勝家!
妹君えんじた お京姐さん(→鈴木京香)の お歯黒顔!!! マジ キモ~イ(゜▽゜) 役者魂こもっとるわ~ (ホメてます)
お京姐さんのご機嫌取りにらっきょうですよ!らっきょう!!!
くっせえだろ!くっせえ~ と お京姐さんが ブーイング ・・(汗)
”ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・ ”の 優柔不断ぶりを演じきった コーイチ(→佐藤浩市)も 役所んとイズミン 両方からに引っ張られてやんの!
ここでも失敗ぽしゃったのは役所ん・・・越前のカニを毎年贈るって・・・オイオイ(汗;)
それに反して イズミンは 尼崎を任せると領地配分! カニと領地・・ そりゃ 明暗わかれるってぇ~
極めつけは バカ殿信雄を見事に演じきった ブッキー(妻夫木聡)!
なんじゃ~こりゃあ~な ダメダメぶりをいかんなく発揮し過ぎ(>Δ<)!!!
コヒさん(→小日向文世)長秀も 役所んにアドバイスしまくってたに 途中からイズミンに 乗り換えちゃった(あたりめーじゃ!!)
決め手は、6代目勘ちゃん(→6代目中村勘九郎 )の幼い三法師坊ちゃんのあやし術を ケン坊(→松山ケンイチ)から習得した イズミンが ふさわしいと みんなナットク
ミッタニー 食えない面々を見事に 演出で 味付けしまくっとッたわ!
こういう映画評も面白いと思います。
zebraさんは、ブログはやられていられないのですか?
>ミッタニー
三谷幸喜という人は、一部映画マニアから演劇的すぎると厳しい評価を受けていますが、僕は素晴らしく映画的なところもあると思っていて、かなり好きですね。