映画評「海と大陸」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2011年イタリア=フランス合作映画 監督エマニエーレ・クリアレーゼ
ネタバレあり

以前より多少情報を得た上で観ることにしているとは言え、せいぜいジャンルくらいなものだが、本作に関してはそれも知らずドキュメンタリーと思って観始めた。画面に現れたのは、紛うことなくネオ・レアリスモの系譜を引くドラマであった。ある程度年季を積んだ映画ファンならルキノ・ヴィスコンティ初期の傑作「揺れる大地」(1948年)を思い出すだろう。その60年後のようなお話である。

シチリアより南に位置するイタリアの小島リノーサ島、漁師の若者フィリッポ・プチッロが祖父ミンモ・クティッキオと漁をしている時にアフリカからの漂流難民を発見、当局に通報したものの、その間に泳いで船に近づいてきた数名の男女を救助、そのうちの臨月の女性ティムニット・Tと息子を家に匿う。彼の母親ドナテッラ・フィノッキアーノは冷たく突き放すふりをしてみても新たに生まれた乳児を含めた三人への心配は隠せない。頻発する不法入国のため当局が取り締まりを強化した為一家は通常のルートでの出国を諦めざるを得なくなり、前に難民を救うどころか蹴散らした罪悪感を覚える若者が単独で三人を乗せ、イタリア本土を目指して海に乗り出す。

島の漁師が主人公であり、敗北から新たな戦いに挑もうとする辺り、お話の構図自体が「揺れる大地」に似ている。違うのは、このリノーサ島が日本の地方に似て恐らく若者の流出などで漁師の人口が減り、漁業の代わりに観光業で食わんとしている現実が背景にあること、同時に北アフリカに近く中部アフリカから遥々と渡って来るアフリカ難民の問題が並立し、「揺れる大地」の時代よりぐっと複雑な社会的様相が現れていることである。

この作品の若者は、三人のエチオピア人を連れてイタリア本土、本作の言い方では“大陸”を目指す。あるいは母親の勧めに従って本土に根付く可能性もあり、新たな挑戦は本来の生業とは関係のないところにあるのかもしれず、作者は島が変わっていく現状を必ずしも憂えているわけではなさそうである。

脚本・監督は初めて観るエマニエーレ・クリアレーゼ。1940年代のネオ・レアリスモ諸作に比べると厳しさは足りないが、その時代の作品群を踏まえてきっちりと作劇した内容は94分と短尺ながら見応えがある。明るい陽光を取り込んでシャープでエッジの効いた画面も断然良い。

難民の流入より病気の流入の方が怖いです。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年09月07日 14:50
ヨーロッパとアフリカは近いですからね。
差別のひどさは日本の比ではなく、殺されそうになって逃げだしたサッカー選手もいます。

今週、『北国の帝王』『卒業』『猿の惑星』とBSで続きます。3本とも持っているけど、やっぱり観てしまうだろうな~(^^ゞ
オカピー
2014年09月07日 21:28
ねこのひげさん、こんにちは。

リノーサ島のある諸島はチュニジアから200~300kmくらいで割合近い(と言っても大変だろうなあ)ですし、そこから200km余りでシチリア島です。そのルートで本土に渡っていくのでしょう。

>「猿の惑星」
昔録画したDVDで見ようかなと思います。民放の衛星放送は中断があるので。上映のカットは最小限でしょうけど。
「北国の帝王」はブルーレイ保存版があるので、観るならこれにしようかな。

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