映画評「トランス」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2013年イギリス=アメリカ合作映画 監督ダニー・ボイル
ネタバレあり

メーカー勤めをしていた僕にはトランスと言えば変圧器(トランスフォーマー)がまず頭に浮かぶのであるが、こちらは恍惚状態などを意味するほうのトランスである。

美術競売人ジェームズ・マカヴォイは賭博にはまって借金を重ね、返金の為にヴァンサン・カッセル率いるギャング・グループと組んでゴヤの名画「魔女たちの飛翔」を盗む計画を立てるが、何を思ったか土壇場でカッセルに抵抗した為ひどく痛め付けられて記憶を失ってしまう。
 カッセルが意気揚々と持ち出したバッグを開けてみると額だけが残されて肝心の名画がなく、マカヴォイに聞こうとするが、記憶をなくしているので在り処がを聞き出せない。そこでカッセルは催眠療法で記憶を辿ることにし、彼に選ばせた結果黒人美女ロザリオ・ドースンの世話になることになる。

こう書いてきたお話の半分くらいがそもそもその施術の結果で判明するわけなのだが、だまし絵のような構図のお話において「記憶がない」という設定ではどういうお話もできてしまう。これが問題。一般ドラマと違って「記憶がない」と告げる主人公に本当に記憶がないのか、記憶のないふりをしているのか定かではないからである。映画の中の医者が証言したとして記憶に関しては何の証拠にもならない。

全体の構成を見れば記憶は確かになさそうであるが、僕の理解が及ぶ限りでは、ロザリオ嬢が手玉に取る(マカヴォイや)カッセルと最初から組んでいない限りこのお話は成立しそうもない。何となれば、カッセルが用意した三人の専門家の中からマカヴォイ君が彼女を選ぶのは偶然に頼り過ぎている、からである。彼女が事前にマカヴォイ君がそうするように仕向けているのだろうという解釈は成り立つが、それにはカッセルが事前に用意する三人の中に彼女を入れておかねばならない。舞台となるロンドンに催眠療法士が三人しかいなければ別だが(そうなのかな?)。

それ以外はとにかく額面通りに理解しないと混乱して訳が解らなくなるので、観たとおりに理解しておくことにする。

といった具合にかなりインチキ臭いお話ながら、ダニー・ボイルがそれなりにがっちり作っているので、カビ臭さならぬインチキ臭さもそこそこ抑えられている。

コン・ゲームに記憶喪失を入れたら文字通りコンがらがるです。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年09月11日 18:11
記憶喪失が本当かどうかというところで、話を複雑化というかサスペンスを持たせようとしたんでしょうが、ちょいと無理があったような・・・
最後に大どんでん返しで驚かされた作品もありましたが・・・タイトル忘れました('◇')ゞ
トランス状態になり切れなかったでありますな~
マカヴォイは、弁護士がお似合い(*^▽^*)
オカピー
2014年09月11日 18:44
ねこのひげさん、こんにちは。

最初に夢落ちをやった人は、びっくりされたでしょうが、今夢落ちをやったら酷評ですね。「シックス・センス」は考えてみれば夢落ちみたいなものなのに、世間は受け入れました。僕もうまく作ってあるとは思いましたが・・・
あの作品が21世紀初頭のサスペンスをダメにした映画なのは確かだと思います。観客のサスペンスに対する意識を変えすぎました。今でも後遺症はあって、サスペンスを軸にした作品(の過程)を額面通りに見ない人が増えていますよね。

つまらなくはなかったけど、落ち着かない映画でしたわ(笑)

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