映画評「永遠の0」
☆☆★(5点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・山崎貴
ネタバレあり
軍備を持たない太平洋の小国を「泥棒も入らない貧乏長屋(文章は変更)」と揶揄してから百田尚樹氏がすっかり嫌いになった。ナショナリズムをベースにした持論を展開するのは良しとして、我が国との利害関係の少ない国家名をわざわざ具体的に出す必要はなかっただろう。だから、馬鹿みたいに売れているらしい原作を映画化した本作も観たくはなかったが、VFX映画に関しては実績のある山崎貴が監督をしていることだし、後学のために観ておくことにした。原作は未来永劫読まない。つまり、永遠の0である。
司法浪人中の佐伯健太郎(三浦春馬)が、祖母・松乃(戦時中:井上真央)の死に際し、祖父と思っていた賢一郎(夏八木勲)が実の祖父ではなく、太平洋戦争で戦死した実の祖父がいたことを知り、その人物・宮部久蔵(岡田准一)について関係者を訪ね回ることになる。
典型的な歴訪型の展開で、現在とその回想との往復がやや五月蠅い印象は回避できていないが、一種の謎解きの要素もあってそれなりの興味を持って観ることが出来る。揃って「臆病者」と言われる久蔵が何故最後に特攻を志願するに至ったか、という謎である。教官だったり小隊長という立場であった為、「臆病者」とは別の証言をするのはかつての教え子であり部下である。
途中は飛ばすとして、彼が死を回避しようとしていたのは妻子を思ってのことであり、翻意して特攻を志願するのは部下たちが無駄に死んでいくのに耐えきれなくなったからだが、それでもかなり意図的に(天の配剤を見込んで)、故障の判明した自分の機と賢一郎(若き日は染谷将太)の古い型のゼロ戦と交換することで自分は特攻で死に、賢一郎の生き残る道を選ぶ。言わば、彼は自分の死後に妻子の面倒をきちんと見てくれる人物と見込まれたのであり、久蔵にとっては一挙両得を果たす可能性のある唯一の道だったわけである。
これにヤクザの景浦(現在:田中泯、戦時:新井浩文)が絡むことで、主人公の合理的な考え方を浮き彫りにしようという作品の方向性が見えて来る。しかも、景浦と賢一郎の部分では同じ場面が夫々のアングルから語られるという箇所があり、本格的な戦争映画では珍しい。
内容は意外にもニュートラルな作りで、その辺は一応好感を覚えたと言っておこう。但し、久蔵と若き日の賢一郎の話の中で“未来”について言及するところに作者の、現在における“左派の平和ボケ”を糾弾したい、おためごかしの本音が透けて見えるようで、不快に感じないでもない。左派の人から言わせれば、憲法を変えようなどと言う右派の方が“平和ボケ”らしいが。
いずれにしても、この映画はあくまでニュートラルなのであって、決して反戦的な立場ではない。これが戦後作られた大半の戦争映画とはちがうところだ。若い人に戦争を知ってもらうにはなかなか良い素材と思うが、現在の右がかった若者が主人公の当時としては非常にリベラルな精神性(最後は結局自己犠牲精神的になる)ですら“国を愛せよ”と曲解する可能性は否定できず、余りに主人公の人物造形がファンタジー的にすぎて案外不気味な印象が残る。
VFX(及びSFX)はかなり上出来で迫力あり。
特攻隊員が自爆テロを行う狂信者と一番違う点は、決して喜んで死んでいったとは言えないことだろう。
2013年日本映画 監督・山崎貴
ネタバレあり
軍備を持たない太平洋の小国を「泥棒も入らない貧乏長屋(文章は変更)」と揶揄してから百田尚樹氏がすっかり嫌いになった。ナショナリズムをベースにした持論を展開するのは良しとして、我が国との利害関係の少ない国家名をわざわざ具体的に出す必要はなかっただろう。だから、馬鹿みたいに売れているらしい原作を映画化した本作も観たくはなかったが、VFX映画に関しては実績のある山崎貴が監督をしていることだし、後学のために観ておくことにした。原作は未来永劫読まない。つまり、永遠の0である。
司法浪人中の佐伯健太郎(三浦春馬)が、祖母・松乃(戦時中:井上真央)の死に際し、祖父と思っていた賢一郎(夏八木勲)が実の祖父ではなく、太平洋戦争で戦死した実の祖父がいたことを知り、その人物・宮部久蔵(岡田准一)について関係者を訪ね回ることになる。
典型的な歴訪型の展開で、現在とその回想との往復がやや五月蠅い印象は回避できていないが、一種の謎解きの要素もあってそれなりの興味を持って観ることが出来る。揃って「臆病者」と言われる久蔵が何故最後に特攻を志願するに至ったか、という謎である。教官だったり小隊長という立場であった為、「臆病者」とは別の証言をするのはかつての教え子であり部下である。
途中は飛ばすとして、彼が死を回避しようとしていたのは妻子を思ってのことであり、翻意して特攻を志願するのは部下たちが無駄に死んでいくのに耐えきれなくなったからだが、それでもかなり意図的に(天の配剤を見込んで)、故障の判明した自分の機と賢一郎(若き日は染谷将太)の古い型のゼロ戦と交換することで自分は特攻で死に、賢一郎の生き残る道を選ぶ。言わば、彼は自分の死後に妻子の面倒をきちんと見てくれる人物と見込まれたのであり、久蔵にとっては一挙両得を果たす可能性のある唯一の道だったわけである。
これにヤクザの景浦(現在:田中泯、戦時:新井浩文)が絡むことで、主人公の合理的な考え方を浮き彫りにしようという作品の方向性が見えて来る。しかも、景浦と賢一郎の部分では同じ場面が夫々のアングルから語られるという箇所があり、本格的な戦争映画では珍しい。
内容は意外にもニュートラルな作りで、その辺は一応好感を覚えたと言っておこう。但し、久蔵と若き日の賢一郎の話の中で“未来”について言及するところに作者の、現在における“左派の平和ボケ”を糾弾したい、おためごかしの本音が透けて見えるようで、不快に感じないでもない。左派の人から言わせれば、憲法を変えようなどと言う右派の方が“平和ボケ”らしいが。
いずれにしても、この映画はあくまでニュートラルなのであって、決して反戦的な立場ではない。これが戦後作られた大半の戦争映画とはちがうところだ。若い人に戦争を知ってもらうにはなかなか良い素材と思うが、現在の右がかった若者が主人公の当時としては非常にリベラルな精神性(最後は結局自己犠牲精神的になる)ですら“国を愛せよ”と曲解する可能性は否定できず、余りに主人公の人物造形がファンタジー的にすぎて案外不気味な印象が残る。
VFX(及びSFX)はかなり上出来で迫力あり。
特攻隊員が自爆テロを行う狂信者と一番違う点は、決して喜んで死んでいったとは言えないことだろう。
この記事へのコメント
この監督は「三丁目の夕日」撮った方でしたかね。当時の東京の様子が現実とちがってるといわれて「あれはSFですから」と答えたそうです。この映画も、戦時中という設定ですが、物語の舞台として借景しているということなのでしょう。題材が題材だけに、政治的メッセージを読み取られていろいろ言われてますが、そういうのではなくて登場人物のドラマを描いたのだと見ています。だから、観て感動して泣いたという人がわかってないとかいうのはどうかと思いましたね(そういうことをいっている評が出てましたが)
>最近の娯楽映画は時間が長い
全く仰る通りですね。
ハリウッド映画は大作と小品の区分けが出来て、100分を切る作品が多くなりましたが、日本はメジャー系は殆ど120分を超え、大した大作でもないのに140分を超える作品もちらほら見かけます。
本当に腰が引けます。だから、最近日本映画の鑑賞が減りましたよ。
>「三丁目の夕日」・・・「あれはSFですから」
確かに本作もちょっとパラレル・ワールドの戦時中という感じがしないでもなかったですね。
>政治的メッセージ
基本的に中立的で、特になかったと思います。
個人的には“未来”について語る、本作の中で一番良いかもしれないシーンが気になりましたが、原作者に対する僕の先入観が入っているので、実際はそんなことはないのかもしれません。
>登場人物のドラマ
そうだと思います。
泣き虫の僕が泣かなかったのだからどこかに問題があると思います(笑)が、泣ける人がいても不思議とは思いません。
仰る通りですね!
この作品が、反戦を謳っていなくても、それ自体はかまわない・・。
然しながら、畢竟、ぼくには、今はやりの戦争エンタメという印象しか持てません。
ぼくが子どものころは、第二次大戦の戦記物や、ちばてつやの「紫電改の鷹」といった、反戦思想の名作マンガもありました。
史実に裏打ちされたそれらの作品は、非常にレベルの高いもので、永遠のゼロは、過去の戦記物の格好いいところを繋ぎ合わせたもの、というのがぼくの見方です。
特撮の戦争映画といえば、1960年のフランキー堺主演の「世界大戦争」を思い出します。
特撮自体は、今みれば可愛いものですが、ドラマ部分も見ごたえのある本当にすぐれた作品だと思います。
永遠のゼロで、プロフェッサーが、泣けなかったというのも、やはり、肝心なところが抜け落ちているからではないでしょうか?
思想はどうであれ、右左に偏った映画もバランスの取れた映画も結構。
個人的にはどちらかの思想に偏った映画の方が好みですね。
狙いがストレートですから評価し易い。
憲法云々は、外国みたいにポンポン変えろとは言いませんが、時代に合わせて柔軟に対応する事は大切ですね。
>戦争エンタメ
今世紀に入って作られた日本の戦争映画は概ねそんな感じですね。
恰好だけという印象を受けることが多かったです。
それにしても、浅野さんは、戦記もの・戦争映画にお詳しいですね。
僕は子供の頃から割合コミックを読まなかった方ですし、日本映画も監督で観ていたので結構知らなかったりします^^;
>泣けなかった
主人公の妻や娘といった家族の反応に理解しがたいところがありました。
それが理由かどうかは自分でも分析できませんが。
>感情的
日本人は同じ東洋人の中で謙虚なのが良い(確かに損をすることも多い)と思っていましたから、当事国同士についてはともかく、殆ど関係のない国を比較の為に出すのは残念でしたね。
そういうのを前提に観始めましたから、言ってみました。
僕は(特に国に関わる問題では)プロパガンダは苦手だから中立的なのが好きですね。評価は仰るように難しくなるかもしれません。
>憲法
西洋の憲法は日本のものより具体的なので変更が多いそうですね。
憲法が余り具体的なのもどうかと思います。
ベストセラーになるほどの作品ではないですが、いまの時代にうまく乗っかるというのは、テレビで培ってきた能力なんでしょうね。
確かに構成(尤も映画版ですが)は王道的ながら工夫されていました。
読んでいないので小説そのものについては何とも言えませんが、作者自身がどうも・・・という感じです。