映画評「もうひとりの息子」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年フランス映画 監督ロレーヌ・レヴィ
ネタバレあり

是枝裕和監督による「そして父になる」と同工異曲のフランス映画である。しかし、舞台となるのがイスラエルとパレスチナであるから前述作品と違って人間探究以上に暗に示されるメッセージ性が強い。

テルアビブに住む18歳の少年ジョセフ(ジュール・シトリュク)が兵役検査でうけた血液検査の結果に母親(エマニュエル・ドボス)はびっくり。士官の夫との間では生まれない血液型だったからだ。
 出産した時現地は戦争で混乱、この時たまたま二人の赤子が同じ場所に避難していたことが病院側の説明で判明するが、母親たちは早めに事態を受け入れる一方、もう一人の息子ヤシン(マハディ・サハビ)が占拠地区に暮らすパレスチナ人として育てられていた為父親たちは露骨に拒否反応を示す。それでも、息子たちに真実が告げられる時がやってくる。彼らも父親たちと同様に男性であり、ショックを隠し切れない。

「そして父になる」でも女性たちの方が早く覚悟を決めるが、自分の腹を痛めた子供だけに親和性が強いのだろうか? まして、民族・宗教対立が激しい本作の男性陣にとって息子の或いは自分のアイデンティティーが違っていたという事実は日本に住む我々日本人の想像を超えた苦痛を与えるに違いない。女性に民族への思いがないということはないだろうが、少なくともこの作品では超民族・超宗教的な存在として扱われている。共同脚本も兼ねている監督ロレーヌ・レヴィが女性だけにこういう扱いになるのだろう。

子供たちは一時的にショックを受けながらも自らの新しいアイデンティティーに興味を持ち、かつての敵地へ難なく入っていく。ジョセフが「アイデンティティーには環境も入る」と言っているように、彼らは生まれついての民族・宗教に環境を付加することで、アイデンティティーを広げていくのである。だから家族愛が民族の壁を超えるという言い方もできるが、寧ろ、アイデンティティーを失わずに広げていく若者たちに人間の可能性を作者を見出しているのではあるまいか。そこに争いの絶えない現状へのアンチテーゼ、平和への希望がある。

微視的な「そして父になる」に比べると個人の心理面へのアプローチが少ないので物足りない人もいると思うが、その代わり人間そのものへのアプローチは力強い。どちらも狙えば【虻蜂取らず】になる可能性があることを考えれば、程良いバランスで描かれていると言うべし。

そして平和になる

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年10月19日 17:36
イギリスの二枚舌のおかげで60年以上も戦争を続けている国ですからね~
簡単に平和になるとは思えませんけどね。
期待はしたいですね。
ウンザリした若者たちがイスラエルから出ていっているそうですから・・・
オカピー
2014年10月19日 19:01
ねこのひげさん、こんにちは。

現実論としては平和は難しいでしょうね。人間というのは実に面倒くさい生き物です。

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  • もうひとりの息子 ★★★.5

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