映画評「イングリッシュ・ペイシェント」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1996年アメリカ=イギリス合作映画 監督アンソニー・ミンゲラ
ネタバレあり
1996年度アカデミー賞主要9部門を制覇したアンソニー・ミンゲラの秀作。当時僕も相当感激したようで、ノートでの採点は☆☆☆☆相当なのにIMDbでは敢えて☆☆☆☆★を進呈している。
第二次大戦末期の北アフリカ、ベルギー出身の地理学者レイフ・ファインズがサハラ砂漠の地図作成に参加し、同行の人妻クリスティン・スコット・トーマスと熱烈な恋に落ちたが為に、それに気付いた夫君コリン・ファースに飛行機で殺されかける。夫君は地面衝突で即死、ファインズは同乗していて重傷を負った彼女を洞窟に避難させた後砂漠を歩いて救助を依頼しに出るが、ここでドイツ人と間違えられて捕えられて戻るのに時間がかかり彼女に死なれてしまう。
という悲劇が、後に乗っていた飛行機が撃ち落されて重度の火傷を負ったファインズがイタリアの戦火で壊れかけた修道院で面倒を見てくれているカナダ人看護婦ジュリエット・ビノシュに語る、という回想形式で展開する。
現在と過去を頻繁に往復する為流れが途絶えがちになるネガティヴな印象を回避できないものの、ジュリエットとインド人士官ナヴィーン・アンドリューズの関係を交えて恋の二重奏を奏でていくことによりファインズ側の悲劇性が強調されて感銘を深める効果がある。
不倫に対する道徳観で評価できない人もいるようであるが、我々は法律家ではないのだから道徳や法律の観点で映画を批評するのは頗る勿体ない。不倫ほど人間の本質に迫って面白味のある彩をなす素材は他に殆どないと思われる。
そういう意味もあって本作には「逢びき」(1945年)や「ライアンの娘」(1970年)という不倫をテーマに二傑作をものしたデーヴィッド・リーンを彷彿とするものがある。特に雄大な風景では後者を思い出させる。そもそも、フランソワ・トリュフォーの「隣の女」(1981年)など僕は不倫という側面から人間を見つめる映画に好きなものが多い。だから、恐らく17年前の僕は新作としては最高点に当たる採点を進呈したのだろう。撮影もリーンの映画に遜色ない。スパイ的行為を働いたファインズに復讐しようとしているウィレム・デフォーを加えた主演四人の演技合戦も見応え十分。
当然読んでいない(笑)マイケル・オンダーチェの原作はかなり立派な完成度らしい。しかし、原作との出来栄えの比較は余り意味がない。内容について比較するのは解釈の上で重要なので積極的にすべきだが、全体の出来栄えを比較するなら他の映画とすべし。あくまで映画評なのだから。
地理学者がカナダ人と記憶していた。再鑑賞したら大違いでした。
英語で、「我慢強い患者」は「ペイシェント・ペイシェント」と言うのだろうか?
1996年アメリカ=イギリス合作映画 監督アンソニー・ミンゲラ
ネタバレあり
1996年度アカデミー賞主要9部門を制覇したアンソニー・ミンゲラの秀作。当時僕も相当感激したようで、ノートでの採点は☆☆☆☆相当なのにIMDbでは敢えて☆☆☆☆★を進呈している。
第二次大戦末期の北アフリカ、ベルギー出身の地理学者レイフ・ファインズがサハラ砂漠の地図作成に参加し、同行の人妻クリスティン・スコット・トーマスと熱烈な恋に落ちたが為に、それに気付いた夫君コリン・ファースに飛行機で殺されかける。夫君は地面衝突で即死、ファインズは同乗していて重傷を負った彼女を洞窟に避難させた後砂漠を歩いて救助を依頼しに出るが、ここでドイツ人と間違えられて捕えられて戻るのに時間がかかり彼女に死なれてしまう。
という悲劇が、後に乗っていた飛行機が撃ち落されて重度の火傷を負ったファインズがイタリアの戦火で壊れかけた修道院で面倒を見てくれているカナダ人看護婦ジュリエット・ビノシュに語る、という回想形式で展開する。
現在と過去を頻繁に往復する為流れが途絶えがちになるネガティヴな印象を回避できないものの、ジュリエットとインド人士官ナヴィーン・アンドリューズの関係を交えて恋の二重奏を奏でていくことによりファインズ側の悲劇性が強調されて感銘を深める効果がある。
不倫に対する道徳観で評価できない人もいるようであるが、我々は法律家ではないのだから道徳や法律の観点で映画を批評するのは頗る勿体ない。不倫ほど人間の本質に迫って面白味のある彩をなす素材は他に殆どないと思われる。
そういう意味もあって本作には「逢びき」(1945年)や「ライアンの娘」(1970年)という不倫をテーマに二傑作をものしたデーヴィッド・リーンを彷彿とするものがある。特に雄大な風景では後者を思い出させる。そもそも、フランソワ・トリュフォーの「隣の女」(1981年)など僕は不倫という側面から人間を見つめる映画に好きなものが多い。だから、恐らく17年前の僕は新作としては最高点に当たる採点を進呈したのだろう。撮影もリーンの映画に遜色ない。スパイ的行為を働いたファインズに復讐しようとしているウィレム・デフォーを加えた主演四人の演技合戦も見応え十分。
当然読んでいない(笑)マイケル・オンダーチェの原作はかなり立派な完成度らしい。しかし、原作との出来栄えの比較は余り意味がない。内容について比較するのは解釈の上で重要なので積極的にすべきだが、全体の出来栄えを比較するなら他の映画とすべし。あくまで映画評なのだから。
地理学者がカナダ人と記憶していた。再鑑賞したら大違いでした。
英語で、「我慢強い患者」は「ペイシェント・ペイシェント」と言うのだろうか?
この記事へのコメント
マルの「ダメージ」やグリーン原作の「情事の終り」
(リメイク「ことの終り」)らも加えさせて下さい。
取り返しのつかない罪を犯してまで惹かれる男女の姿に
見え隠れする人間の危うさに根ざした強い欲望と明暗。
対岸の人間凝視くらい面白いものはないわけですから、
それらを巧みな作り手と達者な俳優陣で、たっぷりと
観せていただけるこの幸せよ。(^^)
問題があるから面白いと言えるんですな~
>マルの「ダメージ」やグリーン原作の「情事の終り」
「ダメージ」は忘却の彼方。マルは好きな監督なので、再鑑賞したいと思っていますが、他力本願ではなかなか観られませんねえ。
「ことの終り」は観ましたが、最初の映画化は観ていないと思います。原作が読みたいんですよ、これは。
>対岸の人間凝視
さすがの表現。
それを同じ岸で見ようとすると、道徳的にどうのこうのといった野暮な意見になるのですなあ。
映画や小説に触れて、法律や道徳を出すのは基本的に野暮ですよね。
単純なジャンル映画ならともかく、人そのものを見せる作品でそれを言うのは問題外と思います。
僕もこの作品は大好きなのです!
空気感というか、砂漠の広大なムード醸成が。
『隣の女』も衝撃的でしたね。
もちろん、現実ではまだ?経験していませんが。
不倫ものでしたら、『危険な情事』も面白かったです。
邦画だと真っ先に『失楽園』が思い浮かびました。
「ライアンの娘」は砂漠ではないですが、砂浜の場面が印象的で、こうした雄大な景色の中で展開する不倫という人間ドラマ、たまらないものがありますね。
>『隣の女』
この映画は現在のバルザックではないのかなあ。
トリュフォーはバルザックが好きだったんですよね。
>『危険な情事』
なかなか上手かったです。
>『失楽園』
僕はこの作品を割合買っているのです。馬鹿にされるので、余り大きな声で言えないのですが^^
じつは私もそうなのですよ!>はこの作品を割合買っているのです
オカピーさんもそうだと知って心強い。小説ともども大ヒットしたのですから、肯定的な人がかなりいる筈なのですけれども、バカにする声の方が大きいのですよね。
『失楽園』は森田芳光監督がかなりしっかり作ったと感じましたが、普段は映画を観ない主婦層などが集まってヒットしたのではないでしょうか。
だから、映画マニア辺りの評価は概して低い。僕も勇気がないので堂々と言えずにいますが(笑)