映画評「チチを撮りに」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年日本映画 監督・中野量太
ネタバレあり
中野量太という新人監督が作った73分の長編第一作。ちと忙しいので73分という上映時間の短さで選んだようなものだが、題名にもそそられるものがあった。
十何年か前に女を作って離婚した元旦那(二階堂智)が臨終の時を迎えているとその弟・遠藤賢一から電話を受けた40代のシングル・マザー渡辺真起子は、自分が見舞う代わりに長女の柳英里紗(20歳)と次女の松原菜野花(17歳)を遠く離れた地方の病院に送り出す。養育費等を断った気の強い母親は写真撮影を依頼して曰く、「末期の写真を見て笑ってやる」と。
彼女たちが到着する前日に父親は亡くなっていた為目的は葬式参列に変わるが、小学生3年生くらいの異母弟・小林海人君が迎えに来る。
弟の妻から「遺産相続の為に来たのだろうが、遺産はありません」と釘をさされると、姉娘は「葬式に来たのでそんなつもりは毛頭ない」と応える。焼き場への参列を見送ると、今度は優しい弟からも「怨んでいるのだろうから、当然だな」と言われる。今度は姉も黙っている。しかし、母親がチチを怨まないように育てたことを誇りに思っている妹はこれが不満で、結局二人も骨拾いを果たす。
かくして二つの家族は穏便に別れ、娘たちは焼き場での写真と指の骨を母に届ける。少ししんみりしたように見えた母親は、しかし、骨を川(若しくは海?)に投げてしまう。
小品ながら細かい部分に味わいがある作品なので、物語は比較的詳細に記すことにした。この一作でどうのこうのは言えないものの、「川の底からこんにちは」の石井裕也監督から少しくどさと油っ気を取り去ったような軽やかな印象で、このまま伸びていけば石井監督より将来性があるような気さえする。
特にユーモアとヒューマニティーの配合が絶妙で、姉娘が母親の気の強さを受け継いでいるのは一見して解るのに対して、妹のマグロ好きが父親の遺伝と判る場面には笑わせながら血を意識させて少々しんみりさせるものがあり、なかなか侮りがたい才能を感じさせる。
最終的に浮き彫りになるのは、娘たちが母親が父親を怨ませない育て方をしたことに誇りを持っていることを自覚(多くの方が妹が姉をなじる場面に一番胸を打たれると思う)し、母親は娘たちが立派に育ったことに満足していること、即ち母娘のほのぼのとした絆(に気付くこと)である。
序盤の姉による「(妹が)マグロに復讐される」という台詞を受け、捨てられた父親の骨がマグロに食べられてしまうのは少々ふざけすぎのような気がする。これが本当の「川の底からこんにちは」じゃね。
やたらに「乳」の話題が出て来るので、チチ違いかと思いましたが、やはり「父」でした(笑)。
2012年日本映画 監督・中野量太
ネタバレあり
中野量太という新人監督が作った73分の長編第一作。ちと忙しいので73分という上映時間の短さで選んだようなものだが、題名にもそそられるものがあった。
十何年か前に女を作って離婚した元旦那(二階堂智)が臨終の時を迎えているとその弟・遠藤賢一から電話を受けた40代のシングル・マザー渡辺真起子は、自分が見舞う代わりに長女の柳英里紗(20歳)と次女の松原菜野花(17歳)を遠く離れた地方の病院に送り出す。養育費等を断った気の強い母親は写真撮影を依頼して曰く、「末期の写真を見て笑ってやる」と。
彼女たちが到着する前日に父親は亡くなっていた為目的は葬式参列に変わるが、小学生3年生くらいの異母弟・小林海人君が迎えに来る。
弟の妻から「遺産相続の為に来たのだろうが、遺産はありません」と釘をさされると、姉娘は「葬式に来たのでそんなつもりは毛頭ない」と応える。焼き場への参列を見送ると、今度は優しい弟からも「怨んでいるのだろうから、当然だな」と言われる。今度は姉も黙っている。しかし、母親がチチを怨まないように育てたことを誇りに思っている妹はこれが不満で、結局二人も骨拾いを果たす。
かくして二つの家族は穏便に別れ、娘たちは焼き場での写真と指の骨を母に届ける。少ししんみりしたように見えた母親は、しかし、骨を川(若しくは海?)に投げてしまう。
小品ながら細かい部分に味わいがある作品なので、物語は比較的詳細に記すことにした。この一作でどうのこうのは言えないものの、「川の底からこんにちは」の石井裕也監督から少しくどさと油っ気を取り去ったような軽やかな印象で、このまま伸びていけば石井監督より将来性があるような気さえする。
特にユーモアとヒューマニティーの配合が絶妙で、姉娘が母親の気の強さを受け継いでいるのは一見して解るのに対して、妹のマグロ好きが父親の遺伝と判る場面には笑わせながら血を意識させて少々しんみりさせるものがあり、なかなか侮りがたい才能を感じさせる。
最終的に浮き彫りになるのは、娘たちが母親が父親を怨ませない育て方をしたことに誇りを持っていることを自覚(多くの方が妹が姉をなじる場面に一番胸を打たれると思う)し、母親は娘たちが立派に育ったことに満足していること、即ち母娘のほのぼのとした絆(に気付くこと)である。
序盤の姉による「(妹が)マグロに復讐される」という台詞を受け、捨てられた父親の骨がマグロに食べられてしまうのは少々ふざけすぎのような気がする。これが本当の「川の底からこんにちは」じゃね。
やたらに「乳」の話題が出て来るので、チチ違いかと思いましたが、やはり「父」でした(笑)。
この記事へのコメント
血ですかね・・・・
人には理解しがたい物がありますですね。
母親については文句なし、父親は会社へは真面目に行きましたが家でも何もしない無精な人でしたが、憎むことはありませんでしたね。
僕は、父の真面目で小心者の性格を継いで損はしているなあと思ってはいるものの、親孝行は生きている時には出来ないものというのが正に実感であります。