映画評「遥かなる勝利へ」

☆☆★(5点/10点満点中)
2011年ロシア映画 監督ニキータ・ミハルコフ
ネタバレあり

「太陽に灼かれて」(1994年)に始まるニキータ・ミハルコフ監督渾身の三部作最終作である。
 これを単独で観ても訳が解らない筈なので、未鑑賞の方は「太陽に灼かれて」からご覧されたし。僕は一応前二作は観ているが、二年前に観たばかりの第二作「戦火のナージャ」はともかく、第一作を観たのはもう20年近く前だから記憶も怪しい。

第一作で第二次大戦中にKGBのドミトリー(オリェグ・メンシコフ)により連行されて大佐の座から引きずり落とされたコトフ(ミハルコフご本人)がその後ドイツ軍の攻撃に乗じて脱走(第二作)した後のお話で、ドミトリーが一兵卒として働いているコトフを発見するところから始まる。
 片や、父親が生きていると知ったコトフの娘ナージャ(ナージャ・ミハルコヴァ)は従軍看護婦として働きながら父親を探している。

この二つが並行進行するが、今回は再びドミトリーに連れ戻されて中将にまで昇格したコトフが中心である。スターリンの命令により彼は一万五千人のにわか兵士を犠牲にするドイツ軍要塞突撃作戦の指揮を執らされる羽目になった挙句、ドイツ軍の要塞が“太陽に灼かれて”自滅する奇跡が起き、さらに娘が現れる。しかし、父を見て半狂乱になった彼女が地雷を踏みつけると、コトフは自ら犠牲になることで彼女の命を救う。

前作ほど宗教的な色彩を帯びていないものの、幕切れに見るように奇跡は随所に起こり、前作を観ていれば宗教的運命論的作劇と思えないこともない。同時に、スターリンの命令と戦争の不条理がこれでもかとばかりに展開し、非常に重苦しい気分になる。

「ヨーロッパの解放」シリーズ(1970~71)等ソ連がかつて放った戦争映画を思い出させるスペクタクル場面は迫力満点にして、前作ほど嫌な後味を残す酷烈な描写がないのが良い。また、ナージャが運転するトラックで妊婦が出産する場面の野趣や、彼が死んだと思っていた妻マルーシャ(ヴィクトリア・トルストガノーヴァ)を始めとする家族との再会における混乱ぶりにはミハルコフらしく、というかロシア的に、とぼけた感触の中に憂いが漂い味わいが滲み出ているのも魅力である。

ただ、今回は全体としてストレートな扱いで、色々と記号を散りばめて運命論的な色彩を打ち出し、また、スターリンへの嫌悪を露骨に表白した(ように思える)前作ほど面白味がないのは残念。いずれにしても、冒頭で述べたように、本作を単独で観るのは、ほぼ確実に内容を把握できないので避けるべし。

ナージャと母親役のヴィクトリアが何となく似ているのが面白い。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年11月30日 09:20
ロシア人は気が長いですね。
20年前の作品の続きを今頃作るか?ですね。
『外套』というアニメをいまだに作り続けている方もいますしね。
オカピー
2014年11月30日 17:44
ねこのひげさん、こんにちは。

やはり国土が広いと、悠揚迫らぬ心境になるのでしょうかねえ。
ロシア文学も長いのが多い。

>『外套』
ゴーゴリが原作ですね。好きな小説です。
ノルシュテインという方が、30年も作っているとか(@_@)

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