映画評「ヴァリエテ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1925年ドイツ映画 監督E・A・デュポン
ネタバレあり

高校で知り合った映画友達K君に勧められて買った本に脚本家・猪俣勝人氏が著した「世界映画名作全史」というのがある。【戦前編】と【戦後編】に分かれた文庫本で、当時情報の乏しかった為に特に【戦前編】は随分参考にさせて貰った。その中で紹介された一本にこのE・A・デュポンの作品があり、1927年度【キネマ旬報】第2位となった名作と知り、長いこと観たい作品であった。

これもまた図書館から借りて来たわけだが、残念ながら現在日本で観られるのはオリジナル版ではない。およそ10巻(100分強)あったと思われるものを前半の4巻(約40分)ほどを省いて回想形式にしたアメリカ公開版である。

省略されたのは、空中サーカスの曲芸師ボス(エミール・ヤニングス)が相棒の細君が太った為に商売が出来なくなり、新たに発掘した美女ベルタ(リア・デ・プチ)と駆け落ちするまで。
 従って、この版ではボスの回想で彼らの曲芸が評判になるところから始まる。やがて、相棒の兄を失って芸が出来なくなった有名空中ブランコ乗りアルティネリ(ヴォルウィック・ヴァルト)がこのペアに活路を見出してトリオを結成する。ボスは、若いベルタが若くてハンサムなアルティネリと懇ろになったのに気付き、彼を殺してしまう。

このアメリカ版には些か構成に問題があって、服役中の回想ということでトリオを組んだ時点で100%終盤の展開が予想できてしまう。勿論先が解っても面白い映画は幾らでもあるが、オリジナルを改悪したのでは余り誉められない。で、仮釈放が待っているということで、オリジナルの絶望的な幕切れから多少明るさが感じられる内容になっているのは如何にもアメリカ向けという感を強くする。

が、お話は公開当時からインテリには型通りだったようで、眼目は今見ると断然幻想的と言いたくなる空中ブランコの描写と、新星リア・デ・プチの魅力であったらしい。リアの魅力は今ではよく解らないが、空中ブランコの描写は確かに幽玄で魅惑的。
 また、ボスがアルティネリを殺す場面も秀逸で、ナイフを握ったアルティネリの手だけが映る最後のショットが効き、鮮やかな殺人描写となっている。

エミール・ヤニングスは5年後に「嘆きの天使」で似たような役をやっている。それを考えると、本作を製作順に従って先に観ていたらあの作品の初見時の強烈な印象も少し変わったかもしれない。

1920年代がドイツ映画の全盛期でした。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年11月30日 09:12
これもアテネ・フランセかどこかでやっていた上映会で観たような記憶があります。
あのころは、上映する側も情熱的でありましたね。
オカピー
2014年11月30日 17:56
ねこのひげさん、こんにちは。

>アテネ・フランセ
やっていたような気がしますね。
「ならなぜ観なかった」と言われそうですが・・・

ここでアラン・レネの「戦争は終った」やルイス・ブニュエルの「小間使の日記」など貴重な作品を観ました。
隣の駅(御茶ノ水?)には日仏学院というのもありましたが、こちらで観たフランソワ・トリュフォーの「突然炎のごとく」は立ち見で英語字幕だった(字幕が下で良く読めなかったのもつらい)ので、本文で紹介したK君と「こりゃ、観たことにならんな」と顔を見合わせて苦笑いしたのを思い出します。

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