映画評「マタ・ハリ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1931年アメリカ映画 監督ジョージ・フィッツモーリス
ネタバレあり

最近の若い人はともかく、僕ら昭和半ば生まれ世代となるとマタ・ハリという名前を聞いたことのある人が結構いるだろう。オランダ出身の女スパイで、第1次大戦中の1917年にフランスで銃殺刑に処された。実際にはスパイという呼称から想像される派手な存在ではなく、ドイツ軍の片棒を担がされた素人らしい。

パリ。踊子マタ・ハリ(グレタ・ガルボ)が、ドイツの情報部幹部アドリアニ(ルイス・ストーン)の指示で、ロシアのシュービン将軍(ライオネル・バリモア)を靡かせてスパイ行為に協力させている最中、独軍に必要な情報をロシアのロサノフ少尉(ラモン・ノヴァロ)から情報を奪おうとするうちに恋に落ちる。
 フランス当局のデュボワ(C・ヘンリー・ゴードン)は彼女と少尉の仲を知らせることで彼女の魅力に参っている将軍を揺さぶって証拠を得ようとし、マタ・ハリは脅迫してきた将軍をやむを得ず射殺するが、結局捕えられ有罪となってしまう。ロシアへの帰還途上で撃墜されて失明したロサノフの罪を回避させた彼女は、病院と偽って愛する人と再会した後、処刑場の露と消える。

同じ年にジョゼフ・フォン・スタンバーグがマレーネ・ディートリッヒ主演で作ったスパイ・ロマンス映画「間諜X27」に対抗して作られたものだが、卓越した映画的センスを誇る絶頂時のスタンバーグを向こうに廻したのでは、既に中堅実力派だったとは言え、ジョージ・フィッツモーリスが勝負するのは少し厳しく、出来栄えは大分落ちる。

それでも、マタ・ハリの同業者が恋に落ちて殺される場面で特殊な靴を履いた殺害者の特徴を強調しておいて、後段マタ・ハリが町でその男を見かけて(映るのは靴だけ)上手くまく辺りは極めて映画的な工夫が為されているし、その後タクシーに乗って一安心と思いきやその車にデュボワが乗っていて一巻の終わりというシークエンスは呼吸が良く、サスペンス映画としてもそう馬鹿にしたものではない。

が、やはり眼目はロマンスで、5年後にグレタがロバート・テイラーと共演する「椿姫」のような悲哀を感じさせる終幕は女性陣の紅涙を絞るに十分。前述したように、ロマンスとサスペンスのバランスがもっと拮抗し互いにそれを強調し合って抜群の完成度だった「間諜X27」に比べてロマンスに重心がある為に映画としては甘いと言わざるを得ないが、この時代の映画的ムードを味わうだけでかなり満足、最近の映画ばかり見ていると、ご馳走に思えて来る。

神秘的と言われたグレタ・ガルボは、それだけに本作のようなトーキーよりサイレントのほうが向いていると思っている。それでも、独特の声は魅力的で、スウェーデン訛りもまた良しと言ったところ。

女スパイと言えば、日本なら川島芳子。彼女の最期も銃殺刑だった。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年12月23日 10:02
何度も観ましたが、グレタ・ガルボの魅力に尽きる映画でありましょう。
最近のハリウッド映画は、粗悪なファーストフードでありますから・・・
来年は、『スターウォーズ』『ターミネーター』などの大作がめじろ押しのようでありますが、どうなりますことやら・・
オカピー
2014年12月23日 17:42
ねこのひげさん、こんにちは。

>粗悪なファーストフード
仰る通りですねえ。
今世紀に入ってから悪化の一途を辿っていて、あと何年新作を観るだろうかと思っていましたが、今年の後半から大分旧作鑑賞に切り替わってきました。
それでもまだ頑張って見ている方でしょう。
日本映画はヒットするようになりましたが、こちらはお子様ランチですか(笑)

>『スターウォーズ』『ターミネーター』などの大作
どちらも「もういいや」という感じです。
一応は観ますが^^
それより、切れのあるサスペンスや気の利いたコメディーなんか観たいですけど、今の状況ではちと無理みたいですTT

この記事へのトラックバック