映画評「見えない恐怖」
☆☆☆(6点/10点満点中)
1971年イギリス映画 監督リチャード・フライシャー
ネタバレあり
先日「暗くなるまで待って」(1967年)のリメイクとも言いたくなる「ブラインド・フィアー」という作品を観て映画ファンになりたての頃に観た本作を思い出したので、久しぶりに観てみた。
恐らく落馬の影響で失明したミア・ファローが退院して養父母である叔父夫婦の一家に邸(やしき)に戻って来る。その前、星印のついたブーツを履いた男に叔父の車が泥を撥ねるのが事の始まり。邸の庭師は彼女が落馬した時に骨折した馬が射殺されたことが不満そうである。
やがて彼女は厩舎を持つ恋人ノーマン・アシュリーに誘われ、半日遊んで邸に戻る。実はこの時点で既に娘を含めた叔父の一家は全員殺されていて、彼女もいればその憂き目に遭ったのであろうが、そうとは知らぬミアは呑気に過ごす。
カメラは何度も床を撮って彼女が事件に気付いていないことを強調し、サスペンスを丹念に醸成していく。事件が起きる前たいして意味のなさそうなところでズーム(アップ&バック)が多用されているが、これには後段でパンと併せてズームバックすると死体がフレーム・インしてくるというカメラワークの効果を強める意図があったようだ。
翌朝になっても彼女は暫く気が付かないが、アシュリーが帰った後に漸く気付いてパニックに陥り、助けを求めるうちにジプシーの居ついている場所にたどり着く。彼らも彼女の味方というわけではなくひどい目に遭うが、殺害犯は別の場所にいて、何とか邸に戻って来た彼女に犯人が遂に牙をむく。
昔の映画は後段のサスペンスの為にじっくり布石を積み重ね、或いはムード醸成のために丹念にショットや場面を積み重ねるのが主流であった。いきなり高いテンションから始まる作品に慣れた比較的若い人にはこういう作り方が退屈に映るようであるが、きちんと見ればそんなことはないことが解るであろう。
と書いたのは本作もその手法を踏襲しているからなのだが、この作品を弁護する為に書いたわけではない。犯人がブーツの男であることは解らせながらそれを誰だか特定させない見せ方が丹念すぎて、作者の案に反して緊張感が些か緩むところがあるのである。
これを思うと、Allcinemaのエディターは採点(最近はやっていない)・コメント共に少々誉め過ぎで、「暗くなるまで待って」より怖いなんてことはない。確かに、本作は犯人の異常性を強く押し出し中盤以降はサスペンスより恐怖に重心を置いた感があるので、情緒的な恐怖感では優るかもしれないものの、緻密さという点でかの傑作に比べればぐっと落ちる。
犯行理由が解らないというコメントを目にしたが、難しいことはない。泥を撥ねられた逆恨みである。これにはジプシーとそうでない人々の格差問題が背景にあるように思われる。ミアは早々に「彼らに害はない」と言っているのにお気の毒でした、というお話。
人間という生き物は御するのが難しいのだ。
1971年イギリス映画 監督リチャード・フライシャー
ネタバレあり
先日「暗くなるまで待って」(1967年)のリメイクとも言いたくなる「ブラインド・フィアー」という作品を観て映画ファンになりたての頃に観た本作を思い出したので、久しぶりに観てみた。
恐らく落馬の影響で失明したミア・ファローが退院して養父母である叔父夫婦の一家に邸(やしき)に戻って来る。その前、星印のついたブーツを履いた男に叔父の車が泥を撥ねるのが事の始まり。邸の庭師は彼女が落馬した時に骨折した馬が射殺されたことが不満そうである。
やがて彼女は厩舎を持つ恋人ノーマン・アシュリーに誘われ、半日遊んで邸に戻る。実はこの時点で既に娘を含めた叔父の一家は全員殺されていて、彼女もいればその憂き目に遭ったのであろうが、そうとは知らぬミアは呑気に過ごす。
カメラは何度も床を撮って彼女が事件に気付いていないことを強調し、サスペンスを丹念に醸成していく。事件が起きる前たいして意味のなさそうなところでズーム(アップ&バック)が多用されているが、これには後段でパンと併せてズームバックすると死体がフレーム・インしてくるというカメラワークの効果を強める意図があったようだ。
翌朝になっても彼女は暫く気が付かないが、アシュリーが帰った後に漸く気付いてパニックに陥り、助けを求めるうちにジプシーの居ついている場所にたどり着く。彼らも彼女の味方というわけではなくひどい目に遭うが、殺害犯は別の場所にいて、何とか邸に戻って来た彼女に犯人が遂に牙をむく。
昔の映画は後段のサスペンスの為にじっくり布石を積み重ね、或いはムード醸成のために丹念にショットや場面を積み重ねるのが主流であった。いきなり高いテンションから始まる作品に慣れた比較的若い人にはこういう作り方が退屈に映るようであるが、きちんと見ればそんなことはないことが解るであろう。
と書いたのは本作もその手法を踏襲しているからなのだが、この作品を弁護する為に書いたわけではない。犯人がブーツの男であることは解らせながらそれを誰だか特定させない見せ方が丹念すぎて、作者の案に反して緊張感が些か緩むところがあるのである。
これを思うと、Allcinemaのエディターは採点(最近はやっていない)・コメント共に少々誉め過ぎで、「暗くなるまで待って」より怖いなんてことはない。確かに、本作は犯人の異常性を強く押し出し中盤以降はサスペンスより恐怖に重心を置いた感があるので、情緒的な恐怖感では優るかもしれないものの、緻密さという点でかの傑作に比べればぐっと落ちる。
犯行理由が解らないというコメントを目にしたが、難しいことはない。泥を撥ねられた逆恨みである。これにはジプシーとそうでない人々の格差問題が背景にあるように思われる。ミアは早々に「彼らに害はない」と言っているのにお気の毒でした、というお話。
人間という生き物は御するのが難しいのだ。
この記事へのコメント
ドキュメンタリーではないのに12年かけて作ったとか、年代に合わせて画面の大きさが変化するとか・・・・新味をだそうと苦労しているようですな~
ジブリのかぐや姫もノミネートされているようで・・・
まさに人間は御しがたいようであります。
「6畳間でも映画館!お手軽ホームシアター」というサイトの運営しております、
新井と申します。
突然のメールで失礼いたします。
本日は、貴サイトと相互リンクをさせて頂ければと思い、
ご連絡をさせていただきました。
お願いに先立ちまして、
すでに私のサイトからリンクを掲載させて頂いております。
下記URLの106番目になります。
(相互リンクのサイトページを整理した場合、掲載順位が変動する場合もあります。)
http://otegaruhometheater.com/link/link1/
「プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]」というサイト名で掲載しております。
相互リンクして頂けるのであれば
以下の当サイト情報をご参考にリンクをお願いいたします。
―――――――――――――――
サイト名:シアターライトって必要ですか?
サイトURL:http://otegaruhometheater.com/theaterlight/
サイト説明:お好きな紹介文を掲載してください。宜しくお願いいたします。
―――――――――――――――
(加筆修正して頂いて構いません。)
誠に恐れいりますが、相互リンクして頂けましたら
一言、ご一報頂けますと助かります。
サイトデザインは未熟ですが記事の内容はしっかりと書きました。
何卒、ご検討のほど宜しくお願いいたします。
━-━-━-━-━-━-━-━-━-━-━-━-━
サイト管理人:新井
サイト:http://otegaruhometheater.com/
メール:greengreengreen794@gmail.com
>新味
内容にも、作り方にも新しいものはないのではないかと諦めていますが、映画人は無駄な努力(笑)をしているようですなあ。
な~んて新味で映画を評価してきた僕が言ってはいけませんか(笑)
いずれにしても、新味は後発作品のせいですぐみ鮮度が落ちますし、刺激的な新味のある作品は後の作品に悪い影響を残すので良し悪しとも思っています。「シックス・センス」しかり、「パルプ・フィクション」しかり。
「パルプ」はキューブリックと黒澤明の折衷で、僕にとっては新味はなかったのですが、世間では新鮮だったようですね。
>「かぐや姫」
そろそろTVに出ないかなあ。
ジブリは日本テレビ独占なので、(NHK若しくは有料衛星放送と違って)CMに邪魔されるのが嫌なんですけどね。いつになったら衛星放送で完全版が観られるのかなあ。完全版が観たい人はブルーレイを買えということですか(笑)