一年遅れのベスト10~2014年私的ベスト10発表~
群馬の山奥に住み、体調も万全とは行かず、WOWOWを中心にした映画鑑賞生活ですので、僕の2014年私的ベスト10は皆様の2013年にほぼ相当する計算でございます。
スタンスとして初鑑賞なら新旧問わず何でも入れることにしていますが、今年も昨年同様新作・準新作のみということにしましょう。
2014年鑑賞本数は357本(統計上は361本、4本は大長編映画の分割放映の為実質マイナス4ということになります)、再鑑賞は56本でした。従って、本稿対象となる初鑑賞作品に関しては301本で、例年より40本がところ少なくなりました。2015年は300本を割るかもしれません。
激減の原因は度重なる事件と事故、自身の体調不良ということに加え、周囲の映画ファンの感想と同じく、年々新作映画がつまらなくなっている為意図的に鑑賞回避が増加していること。映画一本観ないことにより(鑑賞時間+映画評記述等に平均4時間くらいはかかるでしょうから)ある程度の長編小説が一編読めるので、最近はそちらを優先している形なのであります。
2015年こそ平穏無事な年であることを願って楽しく映画鑑賞の日々を過ごしたいと思いますが、恐らく新作鑑賞がさらに減り再鑑賞が増えることになるでしょう。ここ数年の動向から判断する限り面白い映画は増えそうもありません。
それでは、参りましょう。
1位・・・もうひとりのシェイクスピア
昨年新作で唯一☆☆☆☆★(9点/10点満点中)をつけた作品。芸術的に優れているかと言われると疑問が残りますが、史実を本歌という扱いをすれば実に上手く本歌取りした、娯楽性の高い快作でありました。2014年度で面白いと思った作品には多少ニュアンスが違うにしても虚実の間を我々観客を彷徨わせる作品が多くあり、この作品も不明の点も多い史実と限りなく事実に接近しているかもしれない空想の世界の狭間で楽しませてくれたのでした。
2位・・・プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命
“人間を見せる”ということが小説や映画の所期の目的であるとしたら、この作品は昨年度一番の手応えを感じさせてくれました。父親から引き継ぐ暗澹たる人生の流れを断ち切ろうとする若者を描いた終盤が見事で、同じようなテーマにアプローチする時日本映画ならとかく暗くなりがちなところを、スパッと、爽快とは言わないまでも明朗に描いたところを買いますね。
3位・・・歩いても 歩いても
是枝裕和監督の2007年作品。昨年は2013年の話題作「そして父になる」も観ましたが、何気ない日常から究極の普遍性を導き出した、極めて「東京物語」的な態度の本作の方が気に入りました。しかし、この“何気ない日常”に唯一長男息子の事故死という特殊性があり、その特殊性を日常に埋没させたところから物語が始まる点に凄みがあり、そこに僅かに人間の毒も垣間見せ、同時に、好きであってもなくても断ち切れない家族の絆を鮮やかに描出した点に心動かされました。
4位・・・アメリカン・ハッスル
大晦日の前日に滑り込んだアメリカ映画の秀作。近年、VFXを駆使した華美な作品が増えるのに反比例して、日本映画同様凋落の一途を辿るアメリカ映画がわがベスト10を賑わすことはなかったのですが、今年は5本入選と大健闘だったのがちょっと嬉しい。ちょっとに留まるのは全体の底上げが為されたのではなく、たまたま上位に食い込める作品があっただけの感があるから。コン・ゲームの様相を呈しているわけでないながら、すっかり作者にしてやられたという意味で「スティング」を想起しましたです。作者にだます気はなかったかもしれませんがね(笑)
5位・・・セデック・バレ
1930年頃台湾で起きた“抗日運動”の様子を即実的に描いた二部作構成の大作。自国・自国民の優秀性を説く余り日本人が迎える悲劇は、台湾原住民を二つに分ける悲劇でもありました。本作に登場する日本人男性は日本人の僕が観ても恥ずかしくなる程ですが、台湾の監督ウェイ・ダーションが日本人を悪と捉えずに歴史のダイナミズムの中にこの事件を描いたスタンスに好感が持てましたね。恐らく日本人の大多数には知られていない事件なので、少し残虐味がありますが、勉強のつもりで観るのも良いでしょう。
6位・・・塀の中のジュリアス・シーザー
これが即ち昨年度に多かった虚実の狭間を彷徨わせる最たる作品。イタリアには毎年一度演劇を上演する刑務所がある。これは実。囚人を演じる役者は本物の囚人。但し、演じるのであるから実であると同時に虚である。演じられる戯曲はシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」であり、実話に基づいた虚である。作品のアプローチも極めてドキュメンタリー・タッチであり、徹底して嘘を上手く見せる劇映画の面白味こそ薄いとは言え、そのアンチテーゼの作品として実に興味深かった。タヴィアーニ兄弟、まだ老け込んでいませんでしたなあ。
7位・・・危険なプロット
創作に関する僕好みの内容で、作文という本来は実でなければならない要素に創作が交えることで、これもまた観客を虚実の狭間に彷徨わせて楽しませてくれる作品。監督フランソワ・オゾンの術中に嵌って恐らく感じなくても良い心理的圧迫を覚える作品と言えるでしょう。映画は話術ということを痛感します。タッチとしては話題作「愛、アムール」を作ったミヒャエル・ハネケに似ている印象でした。その「愛、アムール」は凄みに圧倒されましたが、嫌な苦みがあるので選外と致しました。
8位・・・バックコーラスの歌姫たち
そもそもバックコーラスが最盛期であったと思われる1960年代~70年代のロックやソウル(R&B)が大好物なので、ある意味ニッチな対象であるバックコーラスを取り上げたというだけで妙に嬉しかった。扱われる女性たちは知る人ぞ知るレベルであり、全く無名でもない代わりに、彼女たちがバックを務めた人々に比べれば知名度はぐっと低い。それでも実力はメイン・シンガーでも十分やっていけるものがある。敢えて言えば彼女たちには欲がなく、華もない印象。ドキュメンタリーとしてアングルがぶれず、非常に楽しめました。
9位・・・25年目の弦楽四重奏
音楽のアンサンブルを人生のそれに重ねていく、という図式自体はダスティン・ホフマンが監督した「カルテット! 人生のオペラハウス」と類似しますし、もの凄く新味のある狙いでもないですが、実にうまく作っていたと思います。文字通り役者のアンサンブルにより秀作となった作品でしょう。
10位・・・素敵な相棒~フランクじいさんとロボットヘルパー
SF的な設定を借りた、これも親子の映画でしょうかねえ。短い尺で、含ませるところも多く、そこはかとなく温かい映画でした。
次点・・・ランナウェイ/逃亡者
お話には色々ご都合主義的なところもありましたが、ロバート・レッドフォードが監督だけに端正で落ち着いた画面・展開ぶりが良かったなあ。
ワースト・・・ムービー43
下品さで笑わせるのは文字通り下の下であると思う。アメリカ映画で激増中の下ネタ喜劇の中でも突出して下品であり、くだらない。
****適当に選んだ各部門賞****
監督賞・・・是枝裕和~「歩いても 歩いても」「そして父になる」
男優賞・・・フィリップ・シーモア・ホフマン~「25年目の弦楽四重奏」「ザ・マスター」「ハンガー・ゲーム2」
(追悼の意をこめて)
女優賞・・・ジェニファー・ローレンス~「アメリカン・ハッスル」「ハンガー・ゲーム2」(その対照ぶりに)
脚本賞・・・デレク・シアンフランス、ベン・コッチオ、ダリウス・マーダー~「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」
撮影賞・・・ファビオ・チャンケッティ~「海と大陸」
音楽賞・・・原田智英~「愛のむきだし」
特別賞・・・映画評論家・品田雄吉氏の長年の功労を称えたいと思います(昨年12月に死去。ご苦労様でした。
オーソドックスな映画観が好きでした)
スタンスとして初鑑賞なら新旧問わず何でも入れることにしていますが、今年も昨年同様新作・準新作のみということにしましょう。
2014年鑑賞本数は357本(統計上は361本、4本は大長編映画の分割放映の為実質マイナス4ということになります)、再鑑賞は56本でした。従って、本稿対象となる初鑑賞作品に関しては301本で、例年より40本がところ少なくなりました。2015年は300本を割るかもしれません。
激減の原因は度重なる事件と事故、自身の体調不良ということに加え、周囲の映画ファンの感想と同じく、年々新作映画がつまらなくなっている為意図的に鑑賞回避が増加していること。映画一本観ないことにより(鑑賞時間+映画評記述等に平均4時間くらいはかかるでしょうから)ある程度の長編小説が一編読めるので、最近はそちらを優先している形なのであります。
2015年こそ平穏無事な年であることを願って楽しく映画鑑賞の日々を過ごしたいと思いますが、恐らく新作鑑賞がさらに減り再鑑賞が増えることになるでしょう。ここ数年の動向から判断する限り面白い映画は増えそうもありません。
それでは、参りましょう。
1位・・・もうひとりのシェイクスピア
昨年新作で唯一☆☆☆☆★(9点/10点満点中)をつけた作品。芸術的に優れているかと言われると疑問が残りますが、史実を本歌という扱いをすれば実に上手く本歌取りした、娯楽性の高い快作でありました。2014年度で面白いと思った作品には多少ニュアンスが違うにしても虚実の間を我々観客を彷徨わせる作品が多くあり、この作品も不明の点も多い史実と限りなく事実に接近しているかもしれない空想の世界の狭間で楽しませてくれたのでした。
2位・・・プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命
“人間を見せる”ということが小説や映画の所期の目的であるとしたら、この作品は昨年度一番の手応えを感じさせてくれました。父親から引き継ぐ暗澹たる人生の流れを断ち切ろうとする若者を描いた終盤が見事で、同じようなテーマにアプローチする時日本映画ならとかく暗くなりがちなところを、スパッと、爽快とは言わないまでも明朗に描いたところを買いますね。
3位・・・歩いても 歩いても
是枝裕和監督の2007年作品。昨年は2013年の話題作「そして父になる」も観ましたが、何気ない日常から究極の普遍性を導き出した、極めて「東京物語」的な態度の本作の方が気に入りました。しかし、この“何気ない日常”に唯一長男息子の事故死という特殊性があり、その特殊性を日常に埋没させたところから物語が始まる点に凄みがあり、そこに僅かに人間の毒も垣間見せ、同時に、好きであってもなくても断ち切れない家族の絆を鮮やかに描出した点に心動かされました。
4位・・・アメリカン・ハッスル
大晦日の前日に滑り込んだアメリカ映画の秀作。近年、VFXを駆使した華美な作品が増えるのに反比例して、日本映画同様凋落の一途を辿るアメリカ映画がわがベスト10を賑わすことはなかったのですが、今年は5本入選と大健闘だったのがちょっと嬉しい。ちょっとに留まるのは全体の底上げが為されたのではなく、たまたま上位に食い込める作品があっただけの感があるから。コン・ゲームの様相を呈しているわけでないながら、すっかり作者にしてやられたという意味で「スティング」を想起しましたです。作者にだます気はなかったかもしれませんがね(笑)
5位・・・セデック・バレ
1930年頃台湾で起きた“抗日運動”の様子を即実的に描いた二部作構成の大作。自国・自国民の優秀性を説く余り日本人が迎える悲劇は、台湾原住民を二つに分ける悲劇でもありました。本作に登場する日本人男性は日本人の僕が観ても恥ずかしくなる程ですが、台湾の監督ウェイ・ダーションが日本人を悪と捉えずに歴史のダイナミズムの中にこの事件を描いたスタンスに好感が持てましたね。恐らく日本人の大多数には知られていない事件なので、少し残虐味がありますが、勉強のつもりで観るのも良いでしょう。
6位・・・塀の中のジュリアス・シーザー
これが即ち昨年度に多かった虚実の狭間を彷徨わせる最たる作品。イタリアには毎年一度演劇を上演する刑務所がある。これは実。囚人を演じる役者は本物の囚人。但し、演じるのであるから実であると同時に虚である。演じられる戯曲はシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」であり、実話に基づいた虚である。作品のアプローチも極めてドキュメンタリー・タッチであり、徹底して嘘を上手く見せる劇映画の面白味こそ薄いとは言え、そのアンチテーゼの作品として実に興味深かった。タヴィアーニ兄弟、まだ老け込んでいませんでしたなあ。
7位・・・危険なプロット
創作に関する僕好みの内容で、作文という本来は実でなければならない要素に創作が交えることで、これもまた観客を虚実の狭間に彷徨わせて楽しませてくれる作品。監督フランソワ・オゾンの術中に嵌って恐らく感じなくても良い心理的圧迫を覚える作品と言えるでしょう。映画は話術ということを痛感します。タッチとしては話題作「愛、アムール」を作ったミヒャエル・ハネケに似ている印象でした。その「愛、アムール」は凄みに圧倒されましたが、嫌な苦みがあるので選外と致しました。
8位・・・バックコーラスの歌姫たち
そもそもバックコーラスが最盛期であったと思われる1960年代~70年代のロックやソウル(R&B)が大好物なので、ある意味ニッチな対象であるバックコーラスを取り上げたというだけで妙に嬉しかった。扱われる女性たちは知る人ぞ知るレベルであり、全く無名でもない代わりに、彼女たちがバックを務めた人々に比べれば知名度はぐっと低い。それでも実力はメイン・シンガーでも十分やっていけるものがある。敢えて言えば彼女たちには欲がなく、華もない印象。ドキュメンタリーとしてアングルがぶれず、非常に楽しめました。
9位・・・25年目の弦楽四重奏
音楽のアンサンブルを人生のそれに重ねていく、という図式自体はダスティン・ホフマンが監督した「カルテット! 人生のオペラハウス」と類似しますし、もの凄く新味のある狙いでもないですが、実にうまく作っていたと思います。文字通り役者のアンサンブルにより秀作となった作品でしょう。
10位・・・素敵な相棒~フランクじいさんとロボットヘルパー
SF的な設定を借りた、これも親子の映画でしょうかねえ。短い尺で、含ませるところも多く、そこはかとなく温かい映画でした。
次点・・・ランナウェイ/逃亡者
お話には色々ご都合主義的なところもありましたが、ロバート・レッドフォードが監督だけに端正で落ち着いた画面・展開ぶりが良かったなあ。
ワースト・・・ムービー43
下品さで笑わせるのは文字通り下の下であると思う。アメリカ映画で激増中の下ネタ喜劇の中でも突出して下品であり、くだらない。
****適当に選んだ各部門賞****
監督賞・・・是枝裕和~「歩いても 歩いても」「そして父になる」
男優賞・・・フィリップ・シーモア・ホフマン~「25年目の弦楽四重奏」「ザ・マスター」「ハンガー・ゲーム2」
(追悼の意をこめて)
女優賞・・・ジェニファー・ローレンス~「アメリカン・ハッスル」「ハンガー・ゲーム2」(その対照ぶりに)
脚本賞・・・デレク・シアンフランス、ベン・コッチオ、ダリウス・マーダー~「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」
撮影賞・・・ファビオ・チャンケッティ~「海と大陸」
音楽賞・・・原田智英~「愛のむきだし」
特別賞・・・映画評論家・品田雄吉氏の長年の功労を称えたいと思います(昨年12月に死去。ご苦労様でした。
オーソドックスな映画観が好きでした)
この記事へのコメント
80年代の『ロッキーホラーショー』の舞台がリメイクされているそうで、より過激に下品度が増しているそうです。(*_*)
下品が全て悪いわけではないですが、下ネタで笑わそうという魂胆は好きではないですね。
下品とはさみは使いようです(?)