映画評「アメリカン・ハッスル」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督デーヴィッド・O・ラッセル
重要なネタバレあり、未見の方は要注意。
一年間僕を失望させてきたアメリカ映画が年末になってやっと喜ばせてくれた。
監督をしたデーヴィッド・O・ラッセルは「アメリカの災難」「スリー・キングス」「ハッカビーズ」と暫く癖の強い作品を作っていたが、復帰作「ザ・ファイター」で正攻法の作風・内容に転身し、1970年代末に実際にあった政治スキャンダルに材を求めた本作も、アングルとしては面白いところがあるものの、初期の作品と比較すれば正統派の部類に入れて良いだろう。
美術店(但し贋作)を営む一方で大金を貸すと言って十分の一の手付金を預かる詐欺を行っているクリスチャン・ベールが、知り合ったばかりの自称英国婦人エイミー・アダムズと意気投合して詐欺商売を拡大するが、FBIの囮捜査官ブラッドリー・クーパーから小切手を受け取った為にエイミーが現行犯で逮捕されてしまう。
クーパーはベールが妻子持ちであることを告げて彼女を動揺させ、ベールには4人同業者を売ってくれれば不問に処すと司法取引を持ち出す。
諸事情に鑑みて応じざるを得なくなった二人は、カジノ産業で町を良くしようと考えている市長ジェレミー・レナーにアラブ人シークが資金を用意してくれると話を持ち掛け、思いがけずギャングの親玉ロバート・デニーロまで巻き込む大ごとに発展、引き返すことが出来なくなり、クーパーも政治家の逮捕による栄誉に目がくらんで、意外な幕切れに突き進むことになる。
実話ベースであるから趣きこそ全然違え、詐欺映画の中でも「スティング」系列に入れたい内容で、日本での評価以上に楽しめる。二人が栄誉を求めるクーパーの軍門に下り唯々諾々と計画を進めているように見え、実はクーパーを見事にはめていたことが判明するという流れが大いに気に入った。そうした展開を予期していた賢い鑑賞者におかれては何ということはないであろうが、額面通り素直に観ていた僕は見事に「してやられた」と、クーパーと同じように衝撃(ちょっと大げさですな)を受けたわけである。この部分の扱いがさりげなく、実力相応に着目された方が少ない為に世評が特に日本で伸び切らないのだろう。
しかし、同じ囮捜査でも麻薬捜査と違って、これは詐欺を利用した文字通りの当局による詐欺であり、レナーの市長など可哀想に思えて来る。それでもかなり善的な部分を持っている主人公が被害を最小限にしようと努力をし、市民の血税が犠牲にならなかったと理解できるので、後味はさほど悪くない。これには勿論、成功と出世をもくろんだクーパー捜査官の野望が水泡に帰し、彼の個人的詐欺行為について自業自得と言える帰結になっていることも含む。
それ以上に印象を残すのは、これまでのイメージを大きく変える五人の主演者の化けっぷりである。デブでハゲのベール、ひげずらでパンチ・パーマのクーパー、胸もとを大きく示す衣装が目立つエロ気路線のエイミー、健気な少女役が多いジェニファー・ローレンスが奇行の目立つあばずれ主婦、神妙な市長役のレナーといった具合で、この五人を一塊にして努力演技賞を進呈したくなった。ついでに、ハゲでメガネのロバート・デニーロは鑑賞中全く解らず、しかも力の抜けた演技を披露して強い印象を残している。
ごく個人的には、70年代のお話らしく70年代のポップスが大量にかかるのが嬉しい。アメリカ「名前のない馬」、スティーリー・ダン「ダーティ・ワーク」、トッド・ラングレン「アイ・ソー・ザ・ライト」、エルトン・ジョン「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」、ウィングス「死ぬのは奴らだ」、ビー・ジーズの「傷心の日々」、サンタナ「エヴィル(イーヴル)・ウェイズ」等々。
"hustle"に詐取の意味があるとは知らなんだなあ。
2013年アメリカ映画 監督デーヴィッド・O・ラッセル
重要なネタバレあり、未見の方は要注意。
一年間僕を失望させてきたアメリカ映画が年末になってやっと喜ばせてくれた。
監督をしたデーヴィッド・O・ラッセルは「アメリカの災難」「スリー・キングス」「ハッカビーズ」と暫く癖の強い作品を作っていたが、復帰作「ザ・ファイター」で正攻法の作風・内容に転身し、1970年代末に実際にあった政治スキャンダルに材を求めた本作も、アングルとしては面白いところがあるものの、初期の作品と比較すれば正統派の部類に入れて良いだろう。
美術店(但し贋作)を営む一方で大金を貸すと言って十分の一の手付金を預かる詐欺を行っているクリスチャン・ベールが、知り合ったばかりの自称英国婦人エイミー・アダムズと意気投合して詐欺商売を拡大するが、FBIの囮捜査官ブラッドリー・クーパーから小切手を受け取った為にエイミーが現行犯で逮捕されてしまう。
クーパーはベールが妻子持ちであることを告げて彼女を動揺させ、ベールには4人同業者を売ってくれれば不問に処すと司法取引を持ち出す。
諸事情に鑑みて応じざるを得なくなった二人は、カジノ産業で町を良くしようと考えている市長ジェレミー・レナーにアラブ人シークが資金を用意してくれると話を持ち掛け、思いがけずギャングの親玉ロバート・デニーロまで巻き込む大ごとに発展、引き返すことが出来なくなり、クーパーも政治家の逮捕による栄誉に目がくらんで、意外な幕切れに突き進むことになる。
実話ベースであるから趣きこそ全然違え、詐欺映画の中でも「スティング」系列に入れたい内容で、日本での評価以上に楽しめる。二人が栄誉を求めるクーパーの軍門に下り唯々諾々と計画を進めているように見え、実はクーパーを見事にはめていたことが判明するという流れが大いに気に入った。そうした展開を予期していた賢い鑑賞者におかれては何ということはないであろうが、額面通り素直に観ていた僕は見事に「してやられた」と、クーパーと同じように衝撃(ちょっと大げさですな)を受けたわけである。この部分の扱いがさりげなく、実力相応に着目された方が少ない為に世評が特に日本で伸び切らないのだろう。
しかし、同じ囮捜査でも麻薬捜査と違って、これは詐欺を利用した文字通りの当局による詐欺であり、レナーの市長など可哀想に思えて来る。それでもかなり善的な部分を持っている主人公が被害を最小限にしようと努力をし、市民の血税が犠牲にならなかったと理解できるので、後味はさほど悪くない。これには勿論、成功と出世をもくろんだクーパー捜査官の野望が水泡に帰し、彼の個人的詐欺行為について自業自得と言える帰結になっていることも含む。
それ以上に印象を残すのは、これまでのイメージを大きく変える五人の主演者の化けっぷりである。デブでハゲのベール、ひげずらでパンチ・パーマのクーパー、胸もとを大きく示す衣装が目立つエロ気路線のエイミー、健気な少女役が多いジェニファー・ローレンスが奇行の目立つあばずれ主婦、神妙な市長役のレナーといった具合で、この五人を一塊にして努力演技賞を進呈したくなった。ついでに、ハゲでメガネのロバート・デニーロは鑑賞中全く解らず、しかも力の抜けた演技を披露して強い印象を残している。
ごく個人的には、70年代のお話らしく70年代のポップスが大量にかかるのが嬉しい。アメリカ「名前のない馬」、スティーリー・ダン「ダーティ・ワーク」、トッド・ラングレン「アイ・ソー・ザ・ライト」、エルトン・ジョン「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」、ウィングス「死ぬのは奴らだ」、ビー・ジーズの「傷心の日々」、サンタナ「エヴィル(イーヴル)・ウェイズ」等々。
"hustle"に詐取の意味があるとは知らなんだなあ。
この記事へのコメント
あっ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
で、「スティング」をも髣髴とさせるとなっては、俄然観る気満々になりましたな。
随分前に他の方の紹介記事でも惹かれたんですが、その後あんまり(ネットで)お目にかかる作品じゃなかったので忘れ去るところでした。
エロ気もあるみたいだし、早く観たくなりやした。
よろしくお願い申し上げます。
これ面白かったですね。
「ハッカビーズ」では逃げ出した私でしたが
これは見逃さなくて正解でした。
「こんなのもできます作れます」っていうのは
どの世界でも強いはず。次回作も楽しみ。(^^)
ハッスルに詐欺の意味があろうとは・・・・
邦題を付けた方がよかった映画でありますね。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
>どんでん返し
いや、これはこちらのミスです<(_ _)>
少なくとも、冒頭の部分で「重要なネタバレあり」と強調しておくべきでした。すんまそん。その後加筆しましたが、十瑠さんには後の祭りでしたね。
「スティング」ほど痛快な感じはないですが、観客として同じように「してやられた」わけです。洒落っ気も少し足りないかな。
しかし、現在のアメリカ映画の水準を考えると、上等でしたよ。
こちらこそよろしくお願い申し上げます。
ラッセル監督は、「ハッカビーズ」は大いにズッコケでその後しばらく干されたわけですが、復活してから快調なようですね。
作風の幅も広げたようですし、確かに次にも期待したくなります。
最近は、一見原題通りかと思わせるカナカナ邦題が目立ちますが、これは本当に原題通りでしたね。
僕は下手くそでも、日本語の邦題を希望します。アメリカン・ハッスルで詐欺の映画と分かった人は相当の英語通ですよ。