映画評「蠢動-しゅんどう-」

☆☆★(5点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・三上康雄
ネタバレあり

徳川八代将軍・吉宗の時代、山陰は因幡藩。
 城代・若林豪は、公儀からの多摩川治水助成金の要請に頭を抱える。飢饉を乗り越えたばかりで、隠し田により備蓄した資産はあるが、改易になる可能性があるのでこれをおいそれと出すわけにはいかない。先般より内偵させていた者より、剣術指南役として江戸よりやってきた目黒祐樹が実は藩の内情を探りに来た公儀の密偵という報告が入って来る。公儀の正式の使いも近々訪れることが決まる。
 思案の末城代は、指南役を何者かに殺させ、それを修業を巡るいざこざという名目で若い一本気な脇崎智史の犯行にでっち上げ、本当の実行犯である平岳大らを討手として送り出す。

監督の三上康雄が1982年に16mmで撮った時代劇のセルフ・リメイクとの由。知る人ぞ知る監督ということになる。

1960年代に流行った武士道残酷物語に分類される内容だが、封建制理不尽物語と言った方がより近い。善悪二元論的に言えば、城代は小藩の内部では悪役の位置にあるが、勧善懲悪ものではない本作は城代も悩んだ末の方策であったという方向性を強く打ち出すことで、幕政の理不尽を訴えるわけである。作者の狙いにあったかどうかはともかく、そこに現代サラリーマンの悲哀をオーヴァーラップさせる鑑賞者も少なからずいらっしゃるであろう。

彩度を極端に下げたモノクロに近い画面は厳しい。また、場面は60年代時代劇に似て断裁的な印象を残しつつ次に繋ぎられるところが多く、低彩度の画面と相まって厳しい空気がしっかり醸成されている。しかし、ひたすら真面目な作劇、進行ぶりだから映画的な面白味があるほうとは言い難い。

それに加えて演技陣が不調で、若林、目黒、中原丈雄らのベテラン勢はまあまあとしても、若手には口跡のぎこちなさが目立つ。脇崎の姉に扮するさとう珠緒にも無理がある。大量の星を進呈できなかったのはほぼこの点に尽きる。

殺陣については、ロングショットを使って流れが解りやすいのはクラシックで良いが、もう少しアップやミドルとの組み合わせで見せて貰いたかった。

新作邦画鑑賞激減中にあって時代劇の方が無難と思って観ることが多いですが。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年02月22日 10:45
小説も時代物が多いですね。
現代物やSFを書いていた作家が次々と転向して書いております。
売れなくなっているけど、時代物はまだ需要があるという事でしょうかね。
オカピー
2015年02月22日 19:21
ねこのひげさん、こんにちは。

「模倣犯」を書いた宮部みゆき女史も結構時代物を書いているようですね。
古くてすみませんが、「銭形平次捕物控」や「半七捕物帳」の第一作を読もうかなと思っておりますよ。

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  • 蠢動 -しゅんどう-/平岳大、若林豪

    Excerpt: 監督の三上康雄さんが1982年に自身で手掛けた16ミリ作品『蠢動』をセルフリメイクした時代劇映画です。予告編の印象だと映像的にちょっと低予算な作品かなという感じがしちゃいまし ... Weblog: カノンな日々 racked: 2015-02-16 18:22