映画評「コン・ティキ」

☆☆★(5点/10点満点中)
2012年イギリス=ノルウェー=デンマーク=ドイツ合作映画 監督ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ
ネタバレあり

小学校の学級図書に「コンチキ号漂流記」なる本があり、その著者であるトール・ヘイエルダールの名前も記憶していた。「コン・ティキ」がそのコンチキと同じとは思わずに観始めたら、そのコンチキでありました。

お話は頗る単純で、ヘイエルダール(ポール・スヴェーレ・ハーゲン)はポリネシア人はアジアから渡って来たとする通説に対して、南米(ペルーのインカ帝国)からやって来たのではないかという仮説を実証する為に、仲間5名を擁して当時の技術のみでこしらえたイカダに乗って8000km彼方のポリネシアを目指す、というだけである。

これまで観た海洋映画同様に、嵐といった自然やサメやクジラによる脅威がメンバーを襲うのは当然のことであり、航海を始めてから面白味が薄くなる。子供時代にはこの手の冒険ものにはわくわくしたものだが、現在の僕にはお話の新味という観点からは余り買えない。但し、(恐らく実写を基に)最新のVFX技術を大いに生かした画面は迫力満点、“映画館で観たらば”という条件をつければ★二つ分がとこ余計に進呈する価値が十分にある。

もう少し細かい点に関しては、場面の構成に少々ぎこちないところがあり、例えば、オウムがサメに食われ、食べたサメを釣り上げ、血迷ったメンバーが海に落ちて集まって来たサメの犠牲になりかける、といった辺りの流れがよく解らない。あの短い間にサメは何故捉えられたのでありましょう? 

それから、演じている俳優を全く知らないせいもあって、メンバーが全員ひげ面になった結果識別が難しくなるのも、メンバーの不協和音が生じる際の理解に関して少々ネックとなる。今の映画はリアリズム基調だからこういう問題が起こりやすいのだ。総じてアカデミー外国語映画賞候補作としてはちょっと弱いと思う。

因みに、折角の冒険敢行による仮説証明も、現在の科学者によりほぼ否定されているらしい。お気の毒だが、共通項が多いというだけでは仮説の根拠として弱いのは僕も認めねばならない。何故ならポリネシアから南米に渡って交流したことも考えられるからである。現在にはDNA鑑定という恐ろしい道具もあり、民族の関係性分析に大きな威力を発揮する。しかし、たとえ否定されたにしても、彼が命を賭して仮説を実証しようとしたこと自体にそれ以上の人間的な意味があるのだ。
 同時に、この件についてはともかく、科学者の「科学的に言って」には、ハンナ・アーレントではないが、多くの場合思考停止があると思う。

小学生時代を少し思い出しました。コンチキ号の冒険は、まだたった20年くらい前の出来事だったんだな。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年02月08日 11:28
このコン・ティキ号の冒険物語は本で読んで感激した覚えがあります。
ポリネシアの島に到着した時に、島の住民に、ご先祖様が来たかとビックリされたそうでありますけどね。
ヘイエルダールは否定されてもいまだに信じているそうでありますけどね。
オカピー
2015年02月08日 21:31
ねこのひげさん、こんにちは。

インカ帝国の人々も、侵略しにやって来たスペイン人を伝説でまたやって来ると言われている白人と思い込んで、抵抗する間もなく殺されてしまったそうです。この映画の物語とも少し関係があるのですが。

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  • コン・ティキ ★★★.5

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