映画評「ルートヴィヒ」

☆☆★(5点/10点満点中)
2012年ドイツ映画 監督マリー・ノエル、ペーター・ゼア
ネタバレあり

19世紀後半ドイツ統一なる前のバイエルン国4代目国王ルートヴィヒ2世の生涯を取り上げたドイツ映画。この王様についてはルキノ・ヴィスコンティが「ルートヴィヒ 神々の黄昏」(1972年)において耽美的な鬼気迫るタッチで取り上げているが、本場ドイツから発表された本作はTVの教養番組みたいな味気無さである。ドイツ史を高校以上のレベルで勉強したい方に向いている。

父マクシミリアン2世の急死により19歳で王位を継承したルートヴィヒ(サビン・タンブレア)は、心酔しているオペラ「ローエングリン」を作曲したワーグナーを革命逃亡先から招聘してオペラ上演に精力を集中、巻き込まれる形で参戦した普墺戦争について弟オットー(トム・シリング)にほぼ任せるなど殆ど政治に関心を示さない。結局この戦争によりバイエルンは宰相ビスマルクが牛耳っているプロイセンのリードの下にドイツ帝国に吸収される。かくして権力を奪われ政治に益々やる気をなくした彼はオペラの後は城の建設に没頭し、国の財政を圧迫した結果大臣たちから精神異常の烙印を押されて幽閉されると、主治医を油断させて外出し隙を見て湖に飛び込み入水自殺する。

という概略は、ヴィスコンティ作が定説通りに彼の最期を“謎の死”扱いにしていること以外は、さほど違わない。
 しかし、この作品における物語説明の平明さは即ち確固たる目標のない製作態度の反映であり、人物探究という点からも芸術的アングルからも平凡をしか意味せず、お話の行間から湧き出で感銘を呼び起こすものがない。

呼び物の一つになるであろう景観(城の数々)は確かに美しいが、映画的なレベルでの美しさと言えるかどうか。2世は大食が災いして後年太った為に若き日を新人タンブレア、晩年をセバスチャン・シッパーという俳優が演じているが、どちらも魅力薄し。ヴィスコンティ作のヘルムート・ベルガーには遠く及ばず、他の俳優陣も見劣りする。
 本文を書いていて今はっと気づいたが、かの作品で好演したロミー・シュナイダーは生涯二度目のエリザベート王妃役であった。勿論最初はオーストリア時代の「プリンセス・シシー」(1955年)シリーズである。

まあヴィスコンティの大作は長くてなかなか再鑑賞もできないわけですがねえ。最初の邦題は「ルードウィヒ」で濁点の位置が違っていました。ド→ト、ウ→ヴとなっています。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年02月08日 11:17
ルートヴィヒの浪費によりバイエルンは破産しそうになったけど、現代ではこの城が稼ぎ頭となり、バイエルンの財政を支えているのは皮肉なことでありますね。
しかし美しいであります。
景色としてはね。
オカピー
2015年02月08日 21:50
ねこのひげさん、こんにちは。

そういう皮肉な現象はままありますよね、この世の中。
天国にいるか地獄にいるか知りませんが、ルートヴィヒ2世もびっくりしているでしょう^^

教養番組レベルとは言い過ぎにしても、良く言ってもTVドラマの域に留まる印象でしたねえ。

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  • ルードヴィヒ(2012)

    Excerpt: 4時間もあってやたら長いけれどもやはりヴィスコンティの傑作 「ルードヴィヒ 神々の黄昏」(1972年)を知る映画ファンの私から すればいかに本国ドイツとはいえ何を今更あ ... Weblog: 映画と暮らす、日々に暮らす。 racked: 2015-02-07 16:36
  • 14-005「ルートヴィヒ」(ドイツ)

    Excerpt: 王は永遠に謎のままがいい   19世紀半ば、戦乱のヨーロッパ。15歳の時に観た歌劇『ローエングリン』に心奪われ、ワーグナーを崇拝するようになったルートヴィヒ2世。  父の急死によってわずか18歳で王位.. Weblog: CINECHANが観た映画について racked: 2015-02-08 01:51