映画評「アナと雪の女王」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督クリス・ベック、ジェニファー・リー
ネタバレあり
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの有名童話「雪の女王」は読んだかどうか記憶が定かではないが、それをアニメ映画化したソ連映画は観たことがある。
本作は前述童話をモチーフにしたディズニー製アニメで、昨年前半社会現象になるほど爆発的にヒットし、昨年度洋画興行収入の30%以上を記録したらしい。その頃僕は“雪の女王”のせいでつぶれた我が家を直すのに必死で、映画どころではなかった(と言いつつ、大体毎日観ていたのではあるが)。
このデータについては一か月ほど前「ネプリーグ」というクイズ番組のパーセント当てコーナーで知ったのだが、一ケタの回答をした人がネプチューンの一人に馬鹿にされていた。しかし、常識的には遠い回答をした彼の社会観のほうが正しいのであって、それを「馬鹿じゃないか」とくさす方の見識がおかしい(あの番組は「くさす」のを番組コンセプトとする困った番組。フジテレビ幹部であるT君に、今度同窓会で会ったら文句を言ってやる。しかし、奴は忙しいので滅多に来ない)。何しろ年に300本以上の洋画が公開されているのだから、いくらヒットしたとはいっても10%を超えないと判断するのが通常の感覚であろう。
閑話休題。
架空の王国アレンデールの王女エルサ(声:イディーナ・メンゼル)は物を凍らせる能力があって、少女時代に妹姫アナ(声:クリステン・ベル)の頭を傷つけたことがあり、以来部屋に閉じこもりアナとの交流もない。アナはトロールの長老により記憶を消されている。
数年後王と王妃はその魔力をなくすべく海外へ渡航して遭難死した為、成人したエルサが即位することになるが、この時出会ったその場で隣国の王子ハンス(声:サンティノ・フォンタナ)と婚約を決めたアナに怒りをぶつけた為に封印していた魔法が威力を発揮、側近たちに恐れられて山へ逃走するが、彼女の去った後も王国は冬のままである。
アナは国を元通りにしようとエルサを連れ戻す旅に出、途中で知り合った山男クリストフ(声:ジョナサン・グロス)や魔法の雪だるまオラフ(声:ジョシュ・ガッド)と共にエルサの居場所を目指す。が、エルスが申し出を断る際に発揮された魔法がアナの心臓を直撃した為にアナは衰弱し、それを溶かすべく【真実の愛】が必要とされる。
全体として特に新味がある部類とは言えないものの、定石を少しずらしたところに本作のうまみがある。一つは雪の女王を悪役にしなかったこと。もう一つは、王子ハンスと山男クリストフの存在で、従来のディズニーであればこの両者のどちらかが【真実の愛】ということになり、ハンスの姦計が発覚した時点で結論が見えるのに対し、本作ではこの両者のさや当てがミスリードとして機能してそうならないのである。さて、【真実の愛】とは誰若しくは何であったのでありましょうか。
少女時代二人が作った雪だるまが活躍したり(童話的幻想と言うべし)、その時代に交錯したトロールたち、クリストフ、となかいのスヴェンが後半再登場するのもそこはかとなく気が利いている。ジェニファー・リーという脚本家(本作では兼共同監督)は「シュガー・ラッシュ」でも上手かったし、なかなかの才人と思う。
歌曲は、それ以上に優秀で、佳曲と言うべきものが幾つかあるが、やはりご案内(承知)の、エルサが魔法封印からの解放を宣言する場面で歌われる「レット・イット・ゴー」が断然光る。日本人はミュージカル嫌いであるが、ミュージカル・ファン育成に、のべ1600万人も呼び込んだ効果あれかし。アニメは別と言う勿れ。
評判の良い吹き替え版も暇があったらチェックしてみましょう。
戦前エカチェリーナ二世の不倫を描いた「恋のページェント」が尊皇思想を理由にズタズタにカットされて公開された事実を思い出しながら観ていた。戦前の日本なら女王が山に追いやられるこの作品は観られなかっただろう。
2013年アメリカ映画 監督クリス・ベック、ジェニファー・リー
ネタバレあり
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの有名童話「雪の女王」は読んだかどうか記憶が定かではないが、それをアニメ映画化したソ連映画は観たことがある。
本作は前述童話をモチーフにしたディズニー製アニメで、昨年前半社会現象になるほど爆発的にヒットし、昨年度洋画興行収入の30%以上を記録したらしい。その頃僕は“雪の女王”のせいでつぶれた我が家を直すのに必死で、映画どころではなかった(と言いつつ、大体毎日観ていたのではあるが)。
このデータについては一か月ほど前「ネプリーグ」というクイズ番組のパーセント当てコーナーで知ったのだが、一ケタの回答をした人がネプチューンの一人に馬鹿にされていた。しかし、常識的には遠い回答をした彼の社会観のほうが正しいのであって、それを「馬鹿じゃないか」とくさす方の見識がおかしい(あの番組は「くさす」のを番組コンセプトとする困った番組。フジテレビ幹部であるT君に、今度同窓会で会ったら文句を言ってやる。しかし、奴は忙しいので滅多に来ない)。何しろ年に300本以上の洋画が公開されているのだから、いくらヒットしたとはいっても10%を超えないと判断するのが通常の感覚であろう。
閑話休題。
架空の王国アレンデールの王女エルサ(声:イディーナ・メンゼル)は物を凍らせる能力があって、少女時代に妹姫アナ(声:クリステン・ベル)の頭を傷つけたことがあり、以来部屋に閉じこもりアナとの交流もない。アナはトロールの長老により記憶を消されている。
数年後王と王妃はその魔力をなくすべく海外へ渡航して遭難死した為、成人したエルサが即位することになるが、この時出会ったその場で隣国の王子ハンス(声:サンティノ・フォンタナ)と婚約を決めたアナに怒りをぶつけた為に封印していた魔法が威力を発揮、側近たちに恐れられて山へ逃走するが、彼女の去った後も王国は冬のままである。
アナは国を元通りにしようとエルサを連れ戻す旅に出、途中で知り合った山男クリストフ(声:ジョナサン・グロス)や魔法の雪だるまオラフ(声:ジョシュ・ガッド)と共にエルサの居場所を目指す。が、エルスが申し出を断る際に発揮された魔法がアナの心臓を直撃した為にアナは衰弱し、それを溶かすべく【真実の愛】が必要とされる。
全体として特に新味がある部類とは言えないものの、定石を少しずらしたところに本作のうまみがある。一つは雪の女王を悪役にしなかったこと。もう一つは、王子ハンスと山男クリストフの存在で、従来のディズニーであればこの両者のどちらかが【真実の愛】ということになり、ハンスの姦計が発覚した時点で結論が見えるのに対し、本作ではこの両者のさや当てがミスリードとして機能してそうならないのである。さて、【真実の愛】とは誰若しくは何であったのでありましょうか。
少女時代二人が作った雪だるまが活躍したり(童話的幻想と言うべし)、その時代に交錯したトロールたち、クリストフ、となかいのスヴェンが後半再登場するのもそこはかとなく気が利いている。ジェニファー・リーという脚本家(本作では兼共同監督)は「シュガー・ラッシュ」でも上手かったし、なかなかの才人と思う。
歌曲は、それ以上に優秀で、佳曲と言うべきものが幾つかあるが、やはりご案内(承知)の、エルサが魔法封印からの解放を宣言する場面で歌われる「レット・イット・ゴー」が断然光る。日本人はミュージカル嫌いであるが、ミュージカル・ファン育成に、のべ1600万人も呼び込んだ効果あれかし。アニメは別と言う勿れ。
評判の良い吹き替え版も暇があったらチェックしてみましょう。
戦前エカチェリーナ二世の不倫を描いた「恋のページェント」が尊皇思想を理由にズタズタにカットされて公開された事実を思い出しながら観ていた。戦前の日本なら女王が山に追いやられるこの作品は観られなかっただろう。
この記事へのコメント
吹き替え版の松たか子さんの日本語が美しいと海外で評判でありました。
大ヒット・・・・ちょっと、騒ぎ過ぎの感がありますがね。
実写版の『シンデレラ』も公開されておりますが、最近のデイズニーは自社の作品をちょっとひねって作品にするのがお好きのようですね。
よくいってくださいました! テレビ、80年代頃からなのでしょうけど、おかしくなったままですよね。70年代は今みたいではなかった記憶が。映画、見ない人は見ないですから、知らない人ふつうにいますよね。私もサッカーやテニスは見ないので全然知らない、スポーツニュースで見かけた有名選手の顔と名前はかろうじて知ってるかな程度で。
「アナと雪」ですが、話題になってたし、テレビ放映があったら見ようと思っていたのに見逃した orz
おとぎ話は、動物や妖怪など、人間ではないものが主人公のおはなしが好きなせいもあって、こういうプリンセスものには縁遠いです。
YouTubeで見られた松たか子の歌はたしかにすばらしかった。日本語の歌詞もよかったですよ。ありのままの~、という、あの歌です。
これだけハマれば、もちろん昨年度マイベストです。
最初は「レット・イット・ゴー」に惹かれましたが、アナと王子のデュエット「とびら開けて」を、ほぼ1年以上、毎日のようにYouTubeで愛聴(&愛視?)。
われながらハマりぶりに驚きです。(笑)
洋画のヒットは日米共に経済的恩恵があるので良いことですが、まさかこんなに当たっていたとは。
家族連れとリピーターの多さでしょう。
>ちょっとひねって
変わり映えしないのも困りますが、余り背伸びしなくても良いとは思うんですよね。
このくらいで丁度良い。
ディズニー・アニメの影響力は我々の考えている以上に大きく、「白雪姫」なんてディズニーのお話が本物と信じ込んでいるので、グリム兄弟が泣いています(笑)。
僕は洋楽ファンにつき一時期は全く観ていなかった紅白歌合戦を近年観るようにしていますが、顔どころか名前も知らない人が多いですし、知っていても曲を全く知らない。ベテラン歌手が昔の歌を歌ってくれるとやっと知っている曲に出会えます。その洋楽についても新しいのはもう聴いていませんし。
多くの芸能人は、中学レベルの常識を全く知らないくせに、ゲームや料理や店の名前を知らなかったりすると馬鹿にしますが、どちらが恥ずかしいのだ、と僕は心の中で怒っていますよ(笑)。
僕は本作をWOWOWで観たのですが、最近地上波でディズニーは余りやらないような気がしています。錯覚かな?
日本語版はまた後日放送があるので、録画しておいて観るつもりです。
>松たか子
何曲かヒット曲を持つ歌手でもありますね。
ディズニー映画のナンバーは余り良い曲と思ったケースが少ないのですが、今回は良かったです。
9回ですか。
昔映画館が入れ替え制でない頃は、続けて二回観たなんてこともよくありましたが、最近は殆どないですね。二回目見るのは十年くらいたってからかなあ(笑)
ボーさんは、嬉しいことにミュージカル・ファン!
これがきっかけになってミュージカル好きの人口が増えると良いのですが、無理ですかね。
アメリカは昔から、アニメは実写に、実写はアニメに、近づこう近づこうと腐心している気配がありましたが、CGの発達でほんとうに一体化してしまいそうです。良し悪しというより、日本人とは求めているものが根本で異なっているのかなあと想像したりしてしまいます。
>アニメ
立体感、質感など日進月歩で、20世紀の終りに見た時「トイ・ストーリー」にびっくりしましたけど、最近は水などが本物に見えたりして唖然です。
>アニメは実写に、実写はアニメに
これは何年か前に映画評の中で指摘しました。「だからアニメがごく一般的な物語を描いても不思議ではないのだ」と結論めいたものを書いたことがあります。