映画評「陸軍中野学校 密命」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1967年日本映画 監督・井上昭
ネタバレあり

戦争スパイ映画シリーズ第4作。
 ミステリー色にサスペンス性を加えてきたこのシリーズも4作目にして漸く本格的なアクション要素が加わった。益々大衆的になったと言える。

上海で陸軍中野学校第一期生・市川雷蔵が日本の憲兵隊に逮捕され、本国へ送り返される。英国に情報を流した容疑であるが、本人は何のことか解らない。留置場で親英派の元外相・山形勲と昵懇になった後釈放されると、上官・加東大介から二人を接近させる為の手段であったと背景を打明けられる。その目的は日本で暗躍している英国情報部極東地区キャプテンの“キャッツ・アイ”を捕まえるである。
 かくして、鍵を握っていると見られる元外相の家を訪れた市川は首尾よくボディガードとなり、早速開かれたパーティーで英国と関係の深い人物の中から退廃的な外交官未亡人・野際陽子に接近する。
 彼は後輩・山下洵一郎にクラブで演奏をしている不審な男・千波丈太郎を洗わせる一方、自らは彼女が英国・ドイツ双方に関連があることを知る。が、彼女は電話で“キャッツ・アイ”の正体を告げようとした矢先に殺されてしまい、予想外にも狂信的軍人に山形元大臣も殺され、いよいよ千波の追及を本格化しなければならなくなる。

というお話は今までで一番複雑にして欧米のスパイ映画に大分接近、超小型潜望鏡のような装置、煙草にしかけられた目潰し、ワイパーに仕掛けられた小型カメラというスパイ映画らしい小道具、車中での格闘アクションの畳み掛けといった要素でなかなか楽しませてくれる。

作り方としては第二作「雲一号指令」に近いミステリー型で、“キャッツ・アイ”の正体は意外だが、サスペンス性は些か乏しい。それをアクションで補填している形である。僕のご贔屓・三隅研次の弟子に当たる井上昭が監督をしているだけに、外での格闘はカットを細かく切らずかつロング・ショット(引き)で撮っている。今の若い人にはこういうじっくり型は迫力不足に感じてダメであろうが、僕には誤魔化しがないように思われ好感が持てる。

お話の追跡に懸命につき「眠狂四郎」のように画面を楽しむ余裕が余りなかったのが残念。

日本では、キャッツ・アイと聞けば、コミックやアニメを思い出す人が多いだろう。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年08月02日 07:17
地味な方がリアル感がでて怖いときもありますけどね。
オカピー
2015年08月02日 22:43
ねこのひげさん、こんにちは。

その意味で、本シリーズ第一作なんか怖かったなあ。

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