映画評「猿の惑星:新世紀(ライジング)」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年アメリカ映画 監督マット・リーヴズ
ネタバレあり

「猿の惑星」新シリーズは、40年前の旧シリーズと違って宇宙には全く関心がない。言わば、パフォーマンス(モーション)・キャプチャーを駆使して旧シリーズ第3作以降を拡大版化した形である。

前作からおよそ10年後、人間に恨みを抱いて反旗を翻した頭脳チンパンジー、シーザー(パフォーマンス:アンディ・サーキス)が仲間を率いて山の森林地帯にコミュニティを作っている。一方の人類は猿インフルエンザと言われる感染症で9割が死に、残る人々がやはり点々とコミュニティを作り、マルコム(ジェースン・クラーク)の所属する一グループは管理者不在でメルトダウンした原子力発電に代えて水力発電ダムを有効ならしめる為に山に足を踏み入れた時類人猿たちと遭遇し、一頭を殺してしまう。
 人類を恨むも理性的なシーザーは山を侵犯しないことを条件に無傷で帰すが、人類側同様猿側にもいるタカ派コバ(パフォーマンス:トビー・ケベル)がシーザーに不満を覚え、人類側から強奪したライフルでシーザーを襲撃、人類のせいにして戦争を始める。
 人類に救われたシーザーは人への愛を取り戻し、賛同者と共にコバと闘うことを決意する。

何年か後に中国に海上封鎖されて原油(本作で言えばダム発電)が輸入(利用)できなくなった日本の辿る道であろうか? この作品は武器・武力は抑止力にならないという立場である。タカ派とタカ派が角をつき合わせれば戦争になるしかない、と言うのである。当然至極。シーザーは平和派マルコムを遠くに去らせ、タカ派・武闘派の人類と闘う覚悟を決める。実際の戦争では国という概念で戦う以上、平和派でもマルコムのように立ち去るわけには行かない。

作者が人類VS類人猿という構図で見せようとしたのは、旧シリーズがアメリカ社会風刺即ち白人VS有色人種の対立であったのに対し、もっと普遍的な人類の底なしの愚かさである。平和派(のシーザー)と言えども、将来攻撃を仕掛けて来る相手には反撃せざるを得ないのである(個別的自衛権)。戦いの場面が時間的に多く時に退屈するが、安保法案が色々と沙汰されている我が国の現在を考えても、なかなか興味深く観られる政治的寓話と言うべし。

視覚的には、パフォーマンス・キャプチャー方式とCGの組み合わせによる類人猿の描写は益々本物に肉薄し、数年前までの「動物の質感はCGでは永久に無理なのではないか」という僕の考えを吹き飛ばすレベル。

次回作があっても戦闘シーンが多くなってつまらなくなるのではないかと予想する。それを裏切る秀逸なアイデアが生まれるか?

「マッド・マックス」「ターミネーター」も復活したし、ネタがないんだねえ。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年07月05日 10:33
第二次大戦に日本が参戦したのも、欧米により石油を封鎖されたためという説もありますからね。
世界中でタカ派が台頭してきてますからね~(*‘ω‘ *)
いずれ、本当に戦争になったら連中がどういう態度に出るかは目に見えてますけどね。

『アベンジャーズ/エイジ.オブ.ウルトロン』も人類がいなくなれば地球に平和が訪れるのだ!という話であります。
本当にそうだったら悲しいことであります。
オカピー
2015年07月05日 19:02
ねこのひげさん、こんにちは。

>欧米により
僕もそう思っていますよ。
しかし、そうなるように仕向けたのも日本ではないかとも思っているので、日本は「悪くない」とは言い切れないと考えています。
これも歴史のダイナミズムであって、日米が別の努力をしても、多分戦争になったのだろうと思いますね。

>『アベンジャーズ/エイジ.オブ.ウルトロン』
映画人や文化人は個人主義者が多いですから、どうしても厭世的になる人が多いですね。

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