映画評「紙屋悦子の青春」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・黒木和雄
ネタバレあり

黒木和雄は僕にとって「竜馬暗殺」(1974年)の監督というイメージが強かったが、晩年は戦争絡みの作品が多くなった。遺作となった本作も1945年春の鹿児島が舞台であるから、県内に基地のある特攻が絡んでくるのは推して知るべし。

上京中の両親を東京空襲で失った鹿児島の紙屋家では、兄夫婦と妹が三人で暮している。
 妹・原田知世は、技術者の兄・小林薫から縁談があると聞かされる。相手は、彼女が慕っている少尉・松岡俊介の友人である少尉・永瀬正敏である。しかも、恋する松岡の紹介であるというから、彼女は内心ひどくショックを受ける。か、彼女にしてもこれにより彼が特攻隊員として果てることを決意したのを知り、その彼から後を託された永瀬を夫に迎えるのを逡巡はしない。

というお話が、恐らく50年後くらい老夫婦となった二人が、桜の花により45年の春を想起させられ、病院の屋上で語り合う回想形式で進行する。

原作戯曲を書いた松田正隆氏が母親の経験から着想したお話であるそうで、「永遠の0」の男女関係に似ているところもあるが、こちらはかの作品のようなヒロイズムとは全く無縁で、只管秘めた恋心を巡る切ないお話として実感を伴う内容となっている。
 互いに恋心を感じながらそれを告白しないのに解り合えてしまう心理の交錯。そこから「戦争は嫌なものだなあ」という思いが滲み出るのである。

およそ大衆的な作りではないし、序盤から舞台そのものを観るような固定カメラによる長回しであるから、単調に思えて退屈する方も少なからず出て来るように思うが、兄夫婦(妻=本上まなみ)と悦子の会話や少尉同士の会話には暗い世相を背景にしているにも拘わらず可笑し味が感じられるところがあり、そこにまた却ってじーんとさせられるものがあって捨てがたい。
 これについては原作由来の味に依る部分が多いのだろうと推量されるとは言え、黒木監督のベテランならではの技術がきっと発揮されているのだと思う。

しかし、WOWOWとNHKに頼っていたらこんなに遅くなってしまった。「美しい夏キリシマ」(2003年)「父と暮せば」(2004年)はすぐに出てきたのだが。

昨年夏は安倍政権に遠慮したのか、戦争(絡みの)映画が全くTVで観られないという、TVの映画放映が始まって以来恐らく初めての珍現象が起きたが、打って変わって今夏は終戦70周年につき7月から8月終わりまで大量に放映される。戦争について幾ら考えても、不安定要素が多すぎる安保法案が廃案になるわけではないが、観ないよりは良い。かの法案が戦争法案であるかどうかは早ければ数年後遅くても20年後には歴史が教えてくれるだろう。

20年後・・・生きているかなあ。

この記事へのコメント

十瑠
2015年08月02日 11:42
「TOMORROW 明日」は観ているので、今年は「父と暮らせば」を観ようと、数日前から考えていたところでした。
これも良さそうだし、迷っちゃうなぁ。
本上まなみの演技も見たことが無いので興味倍増です。
ねこのひげ
2015年08月02日 13:46
生きている間に戦争をやっている日本を見たくはないね~
自衛のためにしてもね。
なんとか外交努力で片づけて欲しいですね。
オカピー
2015年08月02日 23:32
十瑠さん、こんにちは。

親しみやすいのは「父と」のほうかなあ。
これもそこはかとなく可笑しいところもあるのですが。

>本上まなみ
少し現在的な感じはしました。
オカピー
2015年08月02日 23:38
ねこのひげさん、こんにちは。

米国と中国は戦争しないという人が多いですね。
その意味で、いくらおべっかを遣っても、日本が中国と交戦しても米国は助けないだろう、と言う人もいますね。
僕はまったく解りません。

>外交努力
そのための政治家ですからね。

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