映画評「恋人たちは濡れた」
☆☆☆(6点/10点満点中)
1973年日本映画 監督・神代辰巳
ネタバレあり
桑田佳祐が中村雅俊に提供した「恋人も濡れる街角」というタイトルは、“雨に濡れる”というイメージを持たせつつセックスを暗示する。本作はにっかつロマン・ポルノであるから勿論セックスを明示しながら、“(海)水に濡れる”との掛詞になっている。
久しぶりに故郷へ戻って来た若者・大江徹は、勤め始めた映画館館主夫人・絵沢萌子と懇ろになる。愛人を持っている館主はそれを歓迎するに留まらず、けしかける。
自分が自分であることを町民に否定しながら町をぶらりとする若者は、堀光一と中川梨絵の野外セックスを覗いて二人と知り合い(別の男性同様に堀が同級生という説もあるが、よく解らない)、彼から薊千露を紹介されるが、苛立ちからレイプでしか関係を結ぶことができない。梨絵嬢を挟んで堀と奇妙な三角関係に陥った大江は彼女に「20万円で殺人をした」と告白するが、その直後被害者の関係者らしい男に刺され乗った自転車ごと海に沈没してしまう。
海が出て来るからというわけではないが、主題歌が大好きだった青春映画「八月の濡れた砂」(1971年)を思い出す。性の欲動を描いても日本映画はウェットである。
展開には不明の部分が多い。例えば、主人公を刺した男が堀なのか、別の男なのか、或いは堀が殺すのを狙っていたのかよく解らない為、左脳人間の僕にはモヤモヤするところもあるが、そうした不明瞭さを重ねることよりシュールな印象が醸成され、主人公が変な歌を歌ったり各所に出没するナンセンスな描写と相まって、学生運動終焉時代に多くの若者が味わっていたであろう閉塞感が伝わってくる。
ロマンポルノは欧米の作品とは違い、性を通して生を描く純文学的スタンスの作品が大勢を占め、本作を監督した神代辰巳はその中でも鬼才として知られていた。本作でもジャンプカットや長回しを使うなどしてシネフィルを納得させる実力を示し、画面的に楽しめる部分が多い。断ち切るような幕切れが特に秀逸。
一人の女性を挟む友情溢れる二人の男性という関係性から言えば、「冒険者たち」もあるかもしれないが、自転車相乗りを考えると「明日に向って撃て!」のほうが色濃い幕切れでした。
1973年日本映画 監督・神代辰巳
ネタバレあり
桑田佳祐が中村雅俊に提供した「恋人も濡れる街角」というタイトルは、“雨に濡れる”というイメージを持たせつつセックスを暗示する。本作はにっかつロマン・ポルノであるから勿論セックスを明示しながら、“(海)水に濡れる”との掛詞になっている。
久しぶりに故郷へ戻って来た若者・大江徹は、勤め始めた映画館館主夫人・絵沢萌子と懇ろになる。愛人を持っている館主はそれを歓迎するに留まらず、けしかける。
自分が自分であることを町民に否定しながら町をぶらりとする若者は、堀光一と中川梨絵の野外セックスを覗いて二人と知り合い(別の男性同様に堀が同級生という説もあるが、よく解らない)、彼から薊千露を紹介されるが、苛立ちからレイプでしか関係を結ぶことができない。梨絵嬢を挟んで堀と奇妙な三角関係に陥った大江は彼女に「20万円で殺人をした」と告白するが、その直後被害者の関係者らしい男に刺され乗った自転車ごと海に沈没してしまう。
海が出て来るからというわけではないが、主題歌が大好きだった青春映画「八月の濡れた砂」(1971年)を思い出す。性の欲動を描いても日本映画はウェットである。
展開には不明の部分が多い。例えば、主人公を刺した男が堀なのか、別の男なのか、或いは堀が殺すのを狙っていたのかよく解らない為、左脳人間の僕にはモヤモヤするところもあるが、そうした不明瞭さを重ねることよりシュールな印象が醸成され、主人公が変な歌を歌ったり各所に出没するナンセンスな描写と相まって、学生運動終焉時代に多くの若者が味わっていたであろう閉塞感が伝わってくる。
ロマンポルノは欧米の作品とは違い、性を通して生を描く純文学的スタンスの作品が大勢を占め、本作を監督した神代辰巳はその中でも鬼才として知られていた。本作でもジャンプカットや長回しを使うなどしてシネフィルを納得させる実力を示し、画面的に楽しめる部分が多い。断ち切るような幕切れが特に秀逸。
一人の女性を挟む友情溢れる二人の男性という関係性から言えば、「冒険者たち」もあるかもしれないが、自転車相乗りを考えると「明日に向って撃て!」のほうが色濃い幕切れでした。
この記事へのコメント
『明日に向かって撃て』のラストは映画史に残ろ傑作と言われておりますね。
この後、無事に故郷に帰って岩山でひっそりと暮らしたという伝説が、いまでもアリゾナで語り継がれているそうであります。
>『明日に向って撃て」
多分、この作品からストップモーションで終わる作品が増えたと思いますよ。
>伝説
源義経など、死んで欲しくないと思われる人には、生存伝説が必ずありますね。
それが人情なんだなあ。