映画評「特捜部Q 檻の中の女」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年デンマーク=スウェーデン=ドイツ=ノルウェー合作映画 監督ミケル・ノルガード
ネタバレあり
「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」の映画化もあって近年北欧ミステリーが注目されている。実は1970年代にもちょっとしたブームがあって「マシンガン・パニック」や「刑事マルティン・ベック」といった映画化作品が公開された。
こういうのは良い傾向と言うべきだが、なかなかきちんとした公開体制とまでは行かず、デンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンによる刑事ミステリー・シリーズの映画化第一弾である本作も<未体験ゾーンの映画2015>という催し物で紹介されたに過ぎない。
デンマーク。殺人課刑事カール(ニコライ・リー・コス)が同僚を失う捜査を起こして特捜部Qという迷宮入り事件の資料整理を行う窓際に左遷され、アラブ人のアサド(ファレス・ファレス)が助手に付く。
という設定は、日本の人気TVシリーズ「相棒」を彷彿とするが、もっと地味で生活感情を伴う扱いと言って良い。主人公は右京さんと違って天才肌ではなく「砂の器」の刑事の如き足で歩く地道派である。ただ、アサドとの異民族同士ならではの交流ぶりがそこはかとなく醸し出すユーモアには共通するものがあるかもしれない。
そんな二人が注目したのは二年ほど前に会議のあったスウェーデンからデンマークに帰国するフェリーから消えて自殺と思われている美人女性議員ミレッド(ソニア・リクター)の事件で、精神障害のある弟を連れて行った人間が自殺をするだろうかという疑問が元である。
かくして、資料整理という任務を超えて施設にいるその弟の許に足繁く通い、口を利かない彼の反応を探ることで真相に迫ろうとする。彼が激しく反応した男の写真を持ってスウェーデンに渡り解ったのは、その男が友人の名前を名乗っている事実。彼の居た孤児院から得た情報で、カールが直感した通り実はまだ生きていたミレッドの居場所を掴んでいく。
ミレッドが加圧室の中で生かされているという犯人側の設定に刺激的な要素があり、これが具体的に描写され始めてから俄然ミーハー的興味が湧く次第であるが、それが始まっても只管(ひたすら)地味な刑事側の捜査模様も、堅実であるが故に変な刺激を求めないタイプのファンには却って面白く観られる筈。
カールが不器用千万で、柔らか味のあるアサドが精神障害のある弟に当たるといった部分が、北欧映画らしく寒そうな空気におけるユーモア醸成に寄与して味わい深い。「相棒」の映画版もかく地味に作っても良いのではないかと思う。素材のスケールが小さいと「映画向きでない」と言う大衆が多いが、スクリーンに堪える作品であるかどうか決めるのは素材ではなく、それを扱う技量である。
全日本的に配収は増えているらしいが、映画好きは減っている。さもなくば、この作品は全国的にきちんと公開されていただろう。
2013年デンマーク=スウェーデン=ドイツ=ノルウェー合作映画 監督ミケル・ノルガード
ネタバレあり
「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」の映画化もあって近年北欧ミステリーが注目されている。実は1970年代にもちょっとしたブームがあって「マシンガン・パニック」や「刑事マルティン・ベック」といった映画化作品が公開された。
こういうのは良い傾向と言うべきだが、なかなかきちんとした公開体制とまでは行かず、デンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンによる刑事ミステリー・シリーズの映画化第一弾である本作も<未体験ゾーンの映画2015>という催し物で紹介されたに過ぎない。
デンマーク。殺人課刑事カール(ニコライ・リー・コス)が同僚を失う捜査を起こして特捜部Qという迷宮入り事件の資料整理を行う窓際に左遷され、アラブ人のアサド(ファレス・ファレス)が助手に付く。
という設定は、日本の人気TVシリーズ「相棒」を彷彿とするが、もっと地味で生活感情を伴う扱いと言って良い。主人公は右京さんと違って天才肌ではなく「砂の器」の刑事の如き足で歩く地道派である。ただ、アサドとの異民族同士ならではの交流ぶりがそこはかとなく醸し出すユーモアには共通するものがあるかもしれない。
そんな二人が注目したのは二年ほど前に会議のあったスウェーデンからデンマークに帰国するフェリーから消えて自殺と思われている美人女性議員ミレッド(ソニア・リクター)の事件で、精神障害のある弟を連れて行った人間が自殺をするだろうかという疑問が元である。
かくして、資料整理という任務を超えて施設にいるその弟の許に足繁く通い、口を利かない彼の反応を探ることで真相に迫ろうとする。彼が激しく反応した男の写真を持ってスウェーデンに渡り解ったのは、その男が友人の名前を名乗っている事実。彼の居た孤児院から得た情報で、カールが直感した通り実はまだ生きていたミレッドの居場所を掴んでいく。
ミレッドが加圧室の中で生かされているという犯人側の設定に刺激的な要素があり、これが具体的に描写され始めてから俄然ミーハー的興味が湧く次第であるが、それが始まっても只管(ひたすら)地味な刑事側の捜査模様も、堅実であるが故に変な刺激を求めないタイプのファンには却って面白く観られる筈。
カールが不器用千万で、柔らか味のあるアサドが精神障害のある弟に当たるといった部分が、北欧映画らしく寒そうな空気におけるユーモア醸成に寄与して味わい深い。「相棒」の映画版もかく地味に作っても良いのではないかと思う。素材のスケールが小さいと「映画向きでない」と言う大衆が多いが、スクリーンに堪える作品であるかどうか決めるのは素材ではなく、それを扱う技量である。
全日本的に配収は増えているらしいが、映画好きは減っている。さもなくば、この作品は全国的にきちんと公開されていただろう。
この記事へのコメント
なかなか面白いですよ。
周りの人間との関係が面白いですね。
アサドは、まだまだ謎がおおそうです。
>『特捜部Q』シリーズの小説
おーっ!
僕が読むのはまだまだ先ですが、古典の合間に第一作くらいは読んでも良いかもですね。