映画評「イン・ザ・ヒーロー」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年日本映画 監督・武正晴
ネタバレあり
「百円の恋」でなかなか感覚が良いと感じた武正晴監督の前作。
戦隊ものでスーツの下で俳優の代わりにアクションを演じるスタントマンをスーツ・アクターと言うらしい。
その縁の下の力持ちを25年もやってきたベテラン唐沢寿明が、長年の夢が叶い顔と名前の出る映画に出演できると思ったのも束の間、売れ始めた若手俳優・福士蒼汰にその役を奪われてしまう。
しかもその若者が生意気だから腹も立つが、そんな若者にもアメリカ人の母親に捨てられた弟と妹を養うと同時にアカデミー賞を取って母親に語り掛けたいという夢の実現のために、日本でロケを敢行する予定のハリウッド製時代アクションに出演しハリウッド進出を果たす強い願望がある。
この設定がある為に前半徹底的に嫌味な若造に過ぎない彼を憎めないように設計されお話は進み、次の段階で入っていく。
つまり、一介の俳優で大したアクションも出来ない彼が、スーツアクターばか一代の唐沢に頭を下げて懇願し、このことから犬猿の仲でもあったアクション・クラブの連中との間に友情が育っていくのである。
しかし、これはあくまで傍流であり、主流は唐沢が、監督の危険すぎる要求に「やってられない」と帰ってしまった人気俳優の代わりに出演することになるエピソードである。監督の要求はCGもワイヤーアクションも使わないリアル指向。そこまでは結構だが、それをワン・カットで撮るというのがいかに無謀であるか或る程度映画を観てきた映画ファンなら誰しもわかる。
何故ならワン・カットで撮る限り、落下の時に下に置くマットは使えない。その他の怪我につながる不都合も起こりうる。これを俳優でやるのは“デタラメ”なわけで、スタントマンでも断るだろう。それができるのは俳優として映画に出るのが長年の夢である唐沢しかいない。
という流れでいよいよ危険千万な撮影シーンに入っていく、というのは僕らの世代では忘れられない作品の一つ「蒲田行進曲」(1982年)と非常に似通っている。恐らく脚本のお二人(水野敬也、李鳳宇)か監督若しくはその双方にかの作品への思い入れがあるのであろう。作品のトーンも断然昭和的であり、生意気盛りな若い俳優ならぬ映画ファンには受けないにしても、僕らの世代なら大概グッと来るはず。そうでない人とはお付き合いしたくないですなあ。
どの程度実際に即しているかどうか、僕ら部外者には解りようもないものの、裏方の中でもスーツアクターという特殊な分野を取り上げたところに面白さがある。個人的には彼らへの尊敬の念を強く感じたが、不思議なことにごく一部の人は全く別の感想を持っているようだ。
傍流の福士君がこの映画出演の結果赴くことになったアメリカで帽子を被った女性に気付くところもなかなか行ける。映画は彼女の顔を見せないが、彼の表情でそれが母親と判るのが良いのだ。ここもまたちょっとクラシックな味付けであります。
古い奴だとお思いでしょうが、古い奴はやはり古いものを求めるのでございます。
2014年日本映画 監督・武正晴
ネタバレあり
「百円の恋」でなかなか感覚が良いと感じた武正晴監督の前作。
戦隊ものでスーツの下で俳優の代わりにアクションを演じるスタントマンをスーツ・アクターと言うらしい。
その縁の下の力持ちを25年もやってきたベテラン唐沢寿明が、長年の夢が叶い顔と名前の出る映画に出演できると思ったのも束の間、売れ始めた若手俳優・福士蒼汰にその役を奪われてしまう。
しかもその若者が生意気だから腹も立つが、そんな若者にもアメリカ人の母親に捨てられた弟と妹を養うと同時にアカデミー賞を取って母親に語り掛けたいという夢の実現のために、日本でロケを敢行する予定のハリウッド製時代アクションに出演しハリウッド進出を果たす強い願望がある。
この設定がある為に前半徹底的に嫌味な若造に過ぎない彼を憎めないように設計されお話は進み、次の段階で入っていく。
つまり、一介の俳優で大したアクションも出来ない彼が、スーツアクターばか一代の唐沢に頭を下げて懇願し、このことから犬猿の仲でもあったアクション・クラブの連中との間に友情が育っていくのである。
しかし、これはあくまで傍流であり、主流は唐沢が、監督の危険すぎる要求に「やってられない」と帰ってしまった人気俳優の代わりに出演することになるエピソードである。監督の要求はCGもワイヤーアクションも使わないリアル指向。そこまでは結構だが、それをワン・カットで撮るというのがいかに無謀であるか或る程度映画を観てきた映画ファンなら誰しもわかる。
何故ならワン・カットで撮る限り、落下の時に下に置くマットは使えない。その他の怪我につながる不都合も起こりうる。これを俳優でやるのは“デタラメ”なわけで、スタントマンでも断るだろう。それができるのは俳優として映画に出るのが長年の夢である唐沢しかいない。
という流れでいよいよ危険千万な撮影シーンに入っていく、というのは僕らの世代では忘れられない作品の一つ「蒲田行進曲」(1982年)と非常に似通っている。恐らく脚本のお二人(水野敬也、李鳳宇)か監督若しくはその双方にかの作品への思い入れがあるのであろう。作品のトーンも断然昭和的であり、生意気盛りな若い俳優ならぬ映画ファンには受けないにしても、僕らの世代なら大概グッと来るはず。そうでない人とはお付き合いしたくないですなあ。
どの程度実際に即しているかどうか、僕ら部外者には解りようもないものの、裏方の中でもスーツアクターという特殊な分野を取り上げたところに面白さがある。個人的には彼らへの尊敬の念を強く感じたが、不思議なことにごく一部の人は全く別の感想を持っているようだ。
傍流の福士君がこの映画出演の結果赴くことになったアメリカで帽子を被った女性に気付くところもなかなか行ける。映画は彼女の顔を見せないが、彼の表情でそれが母親と判るのが良いのだ。ここもまたちょっとクラシックな味付けであります。
古い奴だとお思いでしょうが、古い奴はやはり古いものを求めるのでございます。
この記事へのコメント
映画の撮影で俳優と女優二人が手錠で繋がって急流を渡ろうとしておぼれ死んだという事件もありましたからね。
『鎌田行進曲』みたいなことがざらにあったのかもしれません。
大部屋歴何十年で無名のまま引退する俳優さんもいますからね。
TVでは無理でしょうが、昨今の映画では何でもかんでも関係した人の名前が出ますから、スタントマンやスタンドインの苦労も少しは報われるでしょうか。
あんなに名前が出ては関係者以外は読まないでしょうが。
>映画の撮影
「コンバット」のヴィック・モローが「トワイライト/異次元の体験」の撮影中にヘリコプター事故に巻き込まれて死んだ事故も痛ましく、その報道をよく記憶しています。