映画評「トワイライト ささらさや」
☆☆★(5点/10点満点中)
2014年日本映画 監督・深川栄洋
ネタバレあり
先日鶴屋南北の歌舞伎脚本「東海道四谷怪談」を読んだばかり。かつて日本の幽霊映画と言えば「お岩さん」ことその「四谷怪談」を筆頭とする怖い作品ばかりであったが、1980年代からは人情を幽霊ネタで描き出す作品がぼちぼちと作られるようになる。印象深いのはやはり大林宣彦監督「異人たちとの夏」(1988年)で、加納朋子の小説「ささら さや」を原作とする本作も同じグループに入れられる。
二流落語家の大泉洋が、似合わない美人・新垣結衣と結婚して子供を設けた矢先に交通事故死してしまう。妻がオロオロするのを見ていられない大泉は、師匠の小松政夫に憑依して自分が見守っていることを告げ、葬儀場で母の死に際して仕事を優先した為断絶していた父親・石橋凌が赤ん坊を跡継ぎにしようと企んでいるのを知って逃げるように諭す。
天涯孤独の彼女が選んだ逃亡先は死んだ叔母の家で「ささら」という町。そんな彼女に、宅配業者に勤める孫が盗んだ遺品を返しに彼女の家を訪れた老婦人・富司純子に落語家が憑依、自分の過去を話し出したりする。
かくして、落語家の霊が色々な人に憑依して頼りない新米母である妻を支えるうちに、彼女は強い母になっていき、孫を奪おうとした石橋もそれを認める。それを確認して彼は成仏する。
死んだ男が次々と憑依していく、という発想の幽霊コメディーは観た記憶がなく、本作一番の得点源。それを老若男女の俳優が大泉を真似て演ずるのが映画的なお楽しみであるが、このお楽しみが強すぎて後半は尻すぼみし、余り面白くなって行かない。
若い母親が成長するのを様々なエピソードで綴っていく人情噺ぶりは一定の出来栄えながら、このくらいの人情噺なら古今東西腐るほどあって寧ろマイナスにしかならない。
特に、大泉と父親・石橋凌との確執がやや謎解き的に説明される部分は期待に全く届かない紋切型。炭鉱の仕事があって臨終の妻を看取れなかった父親は、それに嫌気がさして家出し落語家になった息子の高座を陰から見守る、なんてのは正にその典型で、まるで90年前のサイレント映画「ステラ・ダラス」の幕切れを観るようで苦笑が洩れる。お話が型通りでも見せ方に工夫があれば何とかなるレベルだから勿体ない。父親の現在がよく解らないのも不満で、今や成功した実業家(それ以上にヤクザ)のように見えるが、20年くらい前の炭鉱で仕事をしている描写と上手く結びつかない。既に重要なホワイトカラーだったのであればそれらしく描写する必要があった。
時に挿入される町の俯瞰がミニチュアなのは、ファンタジーの性格を強調する為だろうが、ヒッチコックの「鳥」における鳥の視点ならぬ、天国に行けず中間でウロウロしている大泉の視点と理解してもあながち間違いではないだろう。しかし、ミニチュア使用を資金不足のせいと邪推するのはさすがに恥ずかしい。
同じく大泉主演「青天の霹靂」とかなり似ているで賞を進呈いたします。
2014年日本映画 監督・深川栄洋
ネタバレあり
先日鶴屋南北の歌舞伎脚本「東海道四谷怪談」を読んだばかり。かつて日本の幽霊映画と言えば「お岩さん」ことその「四谷怪談」を筆頭とする怖い作品ばかりであったが、1980年代からは人情を幽霊ネタで描き出す作品がぼちぼちと作られるようになる。印象深いのはやはり大林宣彦監督「異人たちとの夏」(1988年)で、加納朋子の小説「ささら さや」を原作とする本作も同じグループに入れられる。
二流落語家の大泉洋が、似合わない美人・新垣結衣と結婚して子供を設けた矢先に交通事故死してしまう。妻がオロオロするのを見ていられない大泉は、師匠の小松政夫に憑依して自分が見守っていることを告げ、葬儀場で母の死に際して仕事を優先した為断絶していた父親・石橋凌が赤ん坊を跡継ぎにしようと企んでいるのを知って逃げるように諭す。
天涯孤独の彼女が選んだ逃亡先は死んだ叔母の家で「ささら」という町。そんな彼女に、宅配業者に勤める孫が盗んだ遺品を返しに彼女の家を訪れた老婦人・富司純子に落語家が憑依、自分の過去を話し出したりする。
かくして、落語家の霊が色々な人に憑依して頼りない新米母である妻を支えるうちに、彼女は強い母になっていき、孫を奪おうとした石橋もそれを認める。それを確認して彼は成仏する。
死んだ男が次々と憑依していく、という発想の幽霊コメディーは観た記憶がなく、本作一番の得点源。それを老若男女の俳優が大泉を真似て演ずるのが映画的なお楽しみであるが、このお楽しみが強すぎて後半は尻すぼみし、余り面白くなって行かない。
若い母親が成長するのを様々なエピソードで綴っていく人情噺ぶりは一定の出来栄えながら、このくらいの人情噺なら古今東西腐るほどあって寧ろマイナスにしかならない。
特に、大泉と父親・石橋凌との確執がやや謎解き的に説明される部分は期待に全く届かない紋切型。炭鉱の仕事があって臨終の妻を看取れなかった父親は、それに嫌気がさして家出し落語家になった息子の高座を陰から見守る、なんてのは正にその典型で、まるで90年前のサイレント映画「ステラ・ダラス」の幕切れを観るようで苦笑が洩れる。お話が型通りでも見せ方に工夫があれば何とかなるレベルだから勿体ない。父親の現在がよく解らないのも不満で、今や成功した実業家(それ以上にヤクザ)のように見えるが、20年くらい前の炭鉱で仕事をしている描写と上手く結びつかない。既に重要なホワイトカラーだったのであればそれらしく描写する必要があった。
時に挿入される町の俯瞰がミニチュアなのは、ファンタジーの性格を強調する為だろうが、ヒッチコックの「鳥」における鳥の視点ならぬ、天国に行けず中間でウロウロしている大泉の視点と理解してもあながち間違いではないだろう。しかし、ミニチュア使用を資金不足のせいと邪推するのはさすがに恥ずかしい。
同じく大泉主演「青天の霹靂」とかなり似ているで賞を進呈いたします。
この記事へのコメント
吸血鬼物を思い出しますんでね。(^^ゞ
新垣結衣さんは、身長が180㎝あるというネット上のうわさがありましたが、先日テレビで169㎝と言っておりました。
あったら面白いということで流れていたんでしょうね。
無責任な事であります。
>トワイライト
右に同じ。
かのYAシリーズ第5作かと思いましたよ。
「ささらさや」というのも全く意味不明ですけどね。
>身長が180cm
さすがにそれはない。169cmが女性ならぎりぎりの線だなあ。
うちの姪がそれくらいありますが。
>無責任
比較的罪のないうわさですが、良くないですねえ。