映画評「この自由な世界で」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年イギリス=イタリア=ドイツ=スペイン合作映画 監督ケン・ローチ
ネタバレあり

ケン・ローチの作品はコンスタントにWOWOWに登場しているのかと思っていたら、2007年に製作され翌年日本でもきちんと劇場公開されている本作は未放映であった。

英国の就職斡旋会社で働くカーストン・ウェアリングは、ポーランドまで出かけて安い賃金で働かせることのできる労働者を確保するが、上司のセクハラ行為に逆らった為に帰国するや首になる。シングルマザーで息子(ジョー・シフリート)を両親に預けることの多い彼女は、それでは自分で斡旋会社を作ってやる・・・と親友ジュリエット・エリスを誘って起業する。事務所はなく屋外で集めた合法移民を選り分けてバンに詰め込むだけだが、初めは不当とは言えない程度にピンハネする程度だったのが、さらに儲かるウクライナの不法移民斡旋に食指を動かされる。あくどい連中にはめられて賃金を払えなくなった彼女は紹介した移民たちに暴力を振るわれるようになり、その賃金を賄うためにもウクライナの仕事は必要となっていく。

原題にも邦題にも使われている“自由”は言わば新自由主義の自由である。自分が自由を享受する為に他人の自由を侵しているということに気付かない、程度の低い自由である。

ヒロインが当初生きる為に、息子と一緒にいられるようになる為に始めた仕事が、幾つかの不運も重なって、弱者を食い物にする仕事に変っていく。彼女を首にした斡旋会社と同じレベルのことを自らやるようになる。しかし、我々はヒロインを単純には責められまい。彼女にしても弱肉強食の社会の枠の中で懸命に生きる弱者にすぎない。大企業やマフィアの悪徳とは違うのである。

ローチは、そうした悪徳を拡大再生産する不条理渦巻く社会の現状を問題として提示する。勿論、彼女の行為は褒められず、社会の問題だけに帰することは不可、ローチとてその行為を擁護しはしない。もっと広い視野で物事を考えることができれば、ジュリエット・エリスの親友が諫めたように、法に触れること、或いは自ら弱い立場でありながら不法移民の居場所を当局に連絡するという、ヒューマニズムに反することはしないものである。
 その因果応報は既に劇中でも示されているし、もっとひどい目に遭うだろう。とかくこの世は住みにくい。ため息が出て来る。

8年前の製作につき、2015年の英国社会と違う部分があるかもしれないが、概ね現在の英国の空気をよく伝える佳作と言えると思う。

弱きもの、汝の名前は人間なり。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年11月15日 09:22
人間の未来はどうなっていくんでしょうね・・・
オカピー
2015年11月15日 19:00
ねこのひげさん、こんにちは。

>人間の未来
パリでまた同時テロが起こってしまいましたねえ。
英国に始まる欧米の中近東政策が現在の混乱やテロリストを生んだと思います。
テロには屈しないは良いけれど、日本はこれに巻き込まれてはダメですよ。今の状態なら東京で自爆テロはまず起こらない。

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