映画評「わたしは目撃者」
☆☆★(5点/10点満点中)
1971年イタリア=フランス=西ドイツ合作 監督ダリオ・アルジェント
ネタバレあり
ダリオ・アルジェントは初期にはミステリー寄りであったらしく、第1作の「歓びの毒牙」に続いてかなり本格的なミステリーである。
右脳人間さんに評判がよろしい映像派のアルジェントは、左脳人間らしく論理的に整合性のある内容を求める僕には大いに不満を残す。それでも初期のミステリー・サスペンス群は、「サスペリア」(1977年)以降のスプラッター趣味のホラー群よりはずっと良い。
盲目のカール・マルデンがまだ幼い姪(チンジス・デ・カロリス)と歩いている時に車の二人の会話を耳にし、姪に人物を確認してもらう。元新聞社員の彼はパズルと謎解きに興味を持っていて、家の前にある遺伝研究所で起きた盗難事件、それと関連ありそうな遺伝学者列車轢死事件の推理にこの情報が役に立つ。
轢死事件は殺人であろうと推理する彼が記事を書いた記者ジェームズ・フランシスカスに写真について問い合わせるが、直後に写真の情報を提供する筈だったカメラマンが何者かに殺されてしまう。
やがてこの二人に、怪しい行動を取る所長の娘カトリーヌ・スパークが絡んできて、いよいよ本格ミステリーらしくなってくる。
本作でアルジェントは、犯人の目を大写ししながら主観ショットを大量にちりばめている。少なくとも、揺れる画面⇒ドキュメンタリーを髣髴⇒本物っぽいという観客の錯誤を利用した昨今の主観ショットもどきと違って比較的オーソドックスな主観ショットの扱いなのは良い。一応サスペンス醸成に役立っている。
ところが、この主観ショットが常に犯人側の立場でしかサスペンスに利用されていないものだから、観客は被害者側の立場としてヒヤヒヤすることがしにくい、という問題を生んでいて、アルジェントは映像言語のあり方への関心の低さを露呈する。
そんな中、毒の入った三角ミルク・パックの場面が本来のサスペンスとして唯一の見せ場になっている。アルジェントのヒッチコッキアンの立場としての「断崖」(1941年)へのオマージュなのかもしれないが、それ以上に“観客が知っていることを登場人物が知らない状況”というヒッチコックが推奨するサスペンスの作劇法がきちんと実行できているのが良い。
その代わりストーリー展開の整合性の低さは相変わらずで、「歓びの毒牙」に続いて犯人特定へのプロセスがまるでダメ、突然犯人が明らかになるのがつまらない。犯人解明の布石となるはずの霊廟での調査は結局何を調べに行ったのかよく解らない上に、それに関連して姪の誘拐事件が起きる箇所は具体的な描写がなく気が抜ける。そもそも姪は調査の間誰かに預けられている設定なのに何故霊廟で誘拐されるのであろうか?
大枠は本格ミステリーなのに関心があるのはサスペンス、ショックなのですな、アルジェント先生は。
1971年イタリア=フランス=西ドイツ合作 監督ダリオ・アルジェント
ネタバレあり
ダリオ・アルジェントは初期にはミステリー寄りであったらしく、第1作の「歓びの毒牙」に続いてかなり本格的なミステリーである。
右脳人間さんに評判がよろしい映像派のアルジェントは、左脳人間らしく論理的に整合性のある内容を求める僕には大いに不満を残す。それでも初期のミステリー・サスペンス群は、「サスペリア」(1977年)以降のスプラッター趣味のホラー群よりはずっと良い。
盲目のカール・マルデンがまだ幼い姪(チンジス・デ・カロリス)と歩いている時に車の二人の会話を耳にし、姪に人物を確認してもらう。元新聞社員の彼はパズルと謎解きに興味を持っていて、家の前にある遺伝研究所で起きた盗難事件、それと関連ありそうな遺伝学者列車轢死事件の推理にこの情報が役に立つ。
轢死事件は殺人であろうと推理する彼が記事を書いた記者ジェームズ・フランシスカスに写真について問い合わせるが、直後に写真の情報を提供する筈だったカメラマンが何者かに殺されてしまう。
やがてこの二人に、怪しい行動を取る所長の娘カトリーヌ・スパークが絡んできて、いよいよ本格ミステリーらしくなってくる。
本作でアルジェントは、犯人の目を大写ししながら主観ショットを大量にちりばめている。少なくとも、揺れる画面⇒ドキュメンタリーを髣髴⇒本物っぽいという観客の錯誤を利用した昨今の主観ショットもどきと違って比較的オーソドックスな主観ショットの扱いなのは良い。一応サスペンス醸成に役立っている。
ところが、この主観ショットが常に犯人側の立場でしかサスペンスに利用されていないものだから、観客は被害者側の立場としてヒヤヒヤすることがしにくい、という問題を生んでいて、アルジェントは映像言語のあり方への関心の低さを露呈する。
そんな中、毒の入った三角ミルク・パックの場面が本来のサスペンスとして唯一の見せ場になっている。アルジェントのヒッチコッキアンの立場としての「断崖」(1941年)へのオマージュなのかもしれないが、それ以上に“観客が知っていることを登場人物が知らない状況”というヒッチコックが推奨するサスペンスの作劇法がきちんと実行できているのが良い。
その代わりストーリー展開の整合性の低さは相変わらずで、「歓びの毒牙」に続いて犯人特定へのプロセスがまるでダメ、突然犯人が明らかになるのがつまらない。犯人解明の布石となるはずの霊廟での調査は結局何を調べに行ったのかよく解らない上に、それに関連して姪の誘拐事件が起きる箇所は具体的な描写がなく気が抜ける。そもそも姪は調査の間誰かに預けられている設定なのに何故霊廟で誘拐されるのであろうか?
大枠は本格ミステリーなのに関心があるのはサスペンス、ショックなのですな、アルジェント先生は。
この記事へのコメント
話の流れがいつも壊れてるから、ミステリーよりは「サスペリア」みたいなのが向いているのかもしれません。ああいうホラーだと理屈は二の次でもあまり気にならないですから。
>荻昌弘
珍しくも放映する作品の弱点などをきちんと解説された方でしたね。
早く亡くなりすぎました。
>ミステリーより
僕も、難点が目立つミステリーの方が好きだなんて、矛盾することを言っています(笑)
人体が損壊したりするのを見るのが余り好きでないのですよねえ。
「サスペリア」ももう一回くらいは観ても良いと思っていますが、今回WOWOWの特集には入っていず残念でした。
主演のジェシカ・ハーパーも(「ファントム・オブ・パラダイス」で今年再会していますが)久しぶりに見たいですし。
首を傾げるのが多い作品でありました。
僕はホラーよりミステリーの方が好きなので、アルジェントを見るなら初期なのですが、語りという点では本当にダメなのこの人(笑)