映画評「バンクーバーの朝日」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2014年日本映画 監督・石井裕也
ネタバレあり
野球が絡む映画となれば必ず観る。かつて年間300試合くらい野球中継を見た僕である。
日本ではかつてプロ野球選手が自ら出演する伝記映画が作られたが、それらを別にして野球を素材に作られたドラマ映画で印象に残るのは「瀬戸内少年野球団」(1984年)か「バッテリー」(2007年)くらいで、アメリカに優れた野球映画が多いのとは対照的。
日中戦争(僕らが習った時は勿論“日華事変”だった)が起き、日本にプロ野球が発足したというニュースが出て来るので時は1936年、場所はヴァンクーヴァー。
製材所労務者や漁師やホテルのベルボーイとして働きながらアマチュア・リーグ(後述するように実際にはプロ野球だったらしい)で野球に勤しんでいる若者たちが、白人たちから言われなき侮辱と差別を受けながら、体力に劣り今まで殆ど勝ったことのなかった白人たちに頭脳野球で対抗、バントや盗塁でかき回して勝つようになる。それが差別的であった白人たちにも共感を呼び、少なくともフェアな野球ができるようになって遂に優勝する。
Wikipediaによると、1914年に結成され優勝したこともあったから映画に描かれたような草野球レベルではない。本作を観ていてどういうリーグに属するのか一向に解らなかったが、実際にはMLB傘下のマイナー・リーグらしく、プロ野球である。
内野手の妻夫木聡がビーンボールまがいの内角球を避けそこなってゴロになったのをヒントにバント作戦を思いつくという格好になっているのはいかにも映画的、実際には監督が編み出したものと考えられる。日本が伝統的にお得意とするスモール・ベースボールだ。
映画は野球におけるアンフェアな扱いと、妻夫木の妹・高畑充希が日本人故に奨学金を利用できないといった社会におけるアンフェアさとを一体としながら描き、野球におけるほど社会における地位は上がらなかったにしてもこのチームが地域住民に与えた活力は大きかったことを浮かび上がらせていく。
不運だったのは1941年の日本の開戦によりアメリカ同様彼らは敵性外国人として収容所に送られ、日本人・日系人がカナダにおいてある程度きちんと待遇されるようになるのがずっと先延ばしされることだ。
内戦も辛いが、国家間戦争で本国が敵対する国に暮らす人々の辛さは想像を絶する。二世である彼らは日本に行ってもまた差別を受けるのだ。僕はナショナリストではないからこういうことが非常に馬鹿らしいと思えて仕方がない。
【Allcinema】より世評という意味では参考になる【Yahoo!映画】での評価は低いが、民族性維持と対立する同化の問題に苦悩し理不尽な差別と闘いながら移住した先で野球に希望を見出す人々の生き方には感銘を覚えさせるものがある。特に、高畑充希ちゃんが自分が受けた差別を念頭に「私を野球に連れて行って」を歌う場面は、間延びした印象を禁じ得ないと思いつつ、じーんとさせられた。
反面、野球の見せ方は全く上手くなく物足りない。尤も、これはすっかりメジャー映画を任されるようになった石井裕也監督が敢えて抑制的に撮ったと弁護できないこともない。
野球経験のある亀梨和也(投手役)と上地雄輔(高校時代のポジション捕手役)の他、勝地涼、池松壮亮が主たるチームメンバーとして出演。
移民により国が混乱するか、国が栄えるか、判断するのはなかなか難しい。個人的に人口減やむなしと思うが、移民を必要以上に抑制すべきでないとも考える。保守層はダブル・スタンダードを弄し、安保の時は「隣の火事を見て助けなくて良いのか」と言っていた同じ連中が、現在欧州が被っている難民問題の鎮火には目を瞑る。
2014年日本映画 監督・石井裕也
ネタバレあり
野球が絡む映画となれば必ず観る。かつて年間300試合くらい野球中継を見た僕である。
日本ではかつてプロ野球選手が自ら出演する伝記映画が作られたが、それらを別にして野球を素材に作られたドラマ映画で印象に残るのは「瀬戸内少年野球団」(1984年)か「バッテリー」(2007年)くらいで、アメリカに優れた野球映画が多いのとは対照的。
日中戦争(僕らが習った時は勿論“日華事変”だった)が起き、日本にプロ野球が発足したというニュースが出て来るので時は1936年、場所はヴァンクーヴァー。
製材所労務者や漁師やホテルのベルボーイとして働きながらアマチュア・リーグ(後述するように実際にはプロ野球だったらしい)で野球に勤しんでいる若者たちが、白人たちから言われなき侮辱と差別を受けながら、体力に劣り今まで殆ど勝ったことのなかった白人たちに頭脳野球で対抗、バントや盗塁でかき回して勝つようになる。それが差別的であった白人たちにも共感を呼び、少なくともフェアな野球ができるようになって遂に優勝する。
Wikipediaによると、1914年に結成され優勝したこともあったから映画に描かれたような草野球レベルではない。本作を観ていてどういうリーグに属するのか一向に解らなかったが、実際にはMLB傘下のマイナー・リーグらしく、プロ野球である。
内野手の妻夫木聡がビーンボールまがいの内角球を避けそこなってゴロになったのをヒントにバント作戦を思いつくという格好になっているのはいかにも映画的、実際には監督が編み出したものと考えられる。日本が伝統的にお得意とするスモール・ベースボールだ。
映画は野球におけるアンフェアな扱いと、妻夫木の妹・高畑充希が日本人故に奨学金を利用できないといった社会におけるアンフェアさとを一体としながら描き、野球におけるほど社会における地位は上がらなかったにしてもこのチームが地域住民に与えた活力は大きかったことを浮かび上がらせていく。
不運だったのは1941年の日本の開戦によりアメリカ同様彼らは敵性外国人として収容所に送られ、日本人・日系人がカナダにおいてある程度きちんと待遇されるようになるのがずっと先延ばしされることだ。
内戦も辛いが、国家間戦争で本国が敵対する国に暮らす人々の辛さは想像を絶する。二世である彼らは日本に行ってもまた差別を受けるのだ。僕はナショナリストではないからこういうことが非常に馬鹿らしいと思えて仕方がない。
【Allcinema】より世評という意味では参考になる【Yahoo!映画】での評価は低いが、民族性維持と対立する同化の問題に苦悩し理不尽な差別と闘いながら移住した先で野球に希望を見出す人々の生き方には感銘を覚えさせるものがある。特に、高畑充希ちゃんが自分が受けた差別を念頭に「私を野球に連れて行って」を歌う場面は、間延びした印象を禁じ得ないと思いつつ、じーんとさせられた。
反面、野球の見せ方は全く上手くなく物足りない。尤も、これはすっかりメジャー映画を任されるようになった石井裕也監督が敢えて抑制的に撮ったと弁護できないこともない。
野球経験のある亀梨和也(投手役)と上地雄輔(高校時代のポジション捕手役)の他、勝地涼、池松壮亮が主たるチームメンバーとして出演。
移民により国が混乱するか、国が栄えるか、判断するのはなかなか難しい。個人的に人口減やむなしと思うが、移民を必要以上に抑制すべきでないとも考える。保守層はダブル・スタンダードを弄し、安保の時は「隣の火事を見て助けなくて良いのか」と言っていた同じ連中が、現在欧州が被っている難民問題の鎮火には目を瞑る。
この記事へのコメント
俺の母国はどこだと悩んだそうであります。
今朝、小説家の宇江佐理恵さんの訃報あり。
ガックリ。
>ハーフ
そうしたものらしいですね。
アイデンティティというのは、悩ましいものです。
>宇江佐理恵さん
真理さんですね。
時代劇小説家ですか。僕は知らなかったです。
66歳ですと、現在では夭折の部類。残念ですね。
ついつい、やってしまいます(+o+)
フィールド・オブ・ドリームス、ナチュラルといった名作中の名作はいうに及ばず、メジャーリーグ、さよならゲーム、エンジェルスなどの佳作が目白押し。
プリティ・リーグは、音楽もキャロル・キングとマドンナでご機嫌!
翻って、邦画は、プロフェッサーの挙げられた2作品でやっと水準策でしょうか。
この作品も、感動というところまではいきませんが、かなり楽しめたし
、元甲子園経験者の上池を筆頭に、亀梨や勝地は、さすがにユニフォームが様になってました。
僕らの子供のころの今時分の楽しみは読売新聞主催の日米野球で、2年おきに、全米チームや、オリオールズなどの単独チームが来日し、巨人や全日本と試合してましたね。
親善試合だし、今から見れば花相撲だったのでしょうが、それでも、助っ人外人とは比べ物にならない、本物の大リーガーたちのすごさは十分にぼくら子供に伝わりました。
日本勢は全く歯が立たず、レッズとやったときなど、2勝14敗(笑)
長嶋はすでに引退していて晩年の王も、トム・シーバーら投手陣にキリキリ舞いさせられましたが、王だけには向こうの投手も敬遠してくるので溜飲が下がったのを覚えています。
全般的に、日米野球では日本の投手陣が健闘していて、江川なんかも、シーズン中は投げる唯一の変化球であるカーブを封印し、直球だけでけっこう抑えていたものの、ジョニー・ベンチだったかにスタンドインされ首をかしげてました(笑)
日米野球で僕が驚いたのは、打撃よりも彼らの守備でして、いつだったか、捕手が座ったまま投手にボールを返したと見せかけて、ピッチャーがそれをスルー。ボールは、二塁ベース近くに寄っていたショートのグラブに吸い込まれ、油断していた二塁ランナーはあえなくタッチアウト。
日本人ではマネのできないプレーでした。
今は、日本のレベルも底上げされましたが、まだまだ・・。
仮にソフトバンクが大リーグに入って戦ったなら、一番弱い地区で首位争いに食い込めたら上出来でしょう。
宇江佐理恵(りえ)さんというアナウンサーがいらっしゃいましたので、訂正させて戴きました。悪しからず。
僕など、一年間に何度も記事中にとんでもないミスをしてこっそり直していますよ(笑)
おやっ、野球にもお詳しいのですね。
さすが前高だなあ(笑)
余り知られていない中では「さよならゲーム」は結構好きでした。今回WOWOWで再放映されましたので「プリティ・リーグ」と共にブルーレイに保存決定!
今は、大リーグへ行った日本人選手の活躍、さらにWBSや今回始まったプレミア12が楽しみですが、僕らの少年時代は数年に一度日本にやって来る大リーガーたちとの試合は楽しみでしたね。
僕が最も強いインパクトを受けたのは、浅野さんも言及しているレッズの強打ですね。単独チームだけに却ってオールスター・チームより強いという印象があります。最初のうちに日本チームも2勝した後、彼らが調子を上げた後は全く歯が立ちませんでした。
これは何とかなると思ったのは、今年も頑張ったロイヤルズ。レッズに比べるとパワー・ヒッターが少なかったので、何とか試合になっていました(日本側から見て7勝9敗1分)。
昔から投手は結構健闘したんですよね。
それは今でも通じて、松井以降MLBに進出して完全に成功したと言える野手はいませんね。ロドリゲスが休場している間とはいえシーズンの半分近くヤンキーズの4番を張った松井秀喜が僕の誇りでした。下肢の怪我はともかく、腕の骨折が余分だったなあと思います。
日米試合で屈辱的だったのは、日本側の攻撃の時に守備位置が極端に前に来ること。高校野球より前だったでしょう。彼らによく知られていた松井だけが普通の守備位置だったような?
しかし、飛ばない球で鍛えられた最近の若者なら、もっと後ろで守ってもらえるかも。
>ソフトバンク
多分そうでしょう。中部地区なら何とかなるかな。
しかし、昔ならそれさえ無理だったと思いますよ。
実際、大リーグ機構は、JPBを取り込むか、日本にチームを作る計画もあったような記憶がありますが、どうなったのかなあ。
昨日韓国に勝った全日本チームなら、東地区・西地区でも優勝を争えるかも。