映画評「大空港」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1970年アメリカ映画 監督ジョージ・シートン
ネタバレあり

後に「エアポート」シリーズに発展していく第一作、という以上にパニック映画の嚆矢と言って良い秀作。この作品から「ポセイドン・アドベンチャー」(1972年)が生まれ、「タワーリング・インフェルノ」(1974年)が生まれたと言って過言ではない。
 アーサー・ヘイリーの大ベストセラーをジョージ・シートンが脚色、映画化したが、シートンとしては生涯一番の出来栄えではないかと思う。

主な舞台はアメリカはイリノイ州スプリングフィールド市にあるリンカーン空港。
 突然の大雪に空港長バート・ランカスターは大わらわ、整備責任者のジョージ・ケネディーを呼び出して動けなくなった飛行機の問題に対処する一方、愛人関係にある航空会社の接客主任ジーン・シーバーグの連れて来た無銭乗車常習者の老婦人ヘレン・ヘイズの相手もしなければならないし、妹バーバラ・ヘイル(後に有名になるウィリアム・カットのお母さん)の夫である機長ディーン・マーティンの非難もうまくかわさなければならない。マーティンが試験官を務める飛行機には、ノイローゼの労務者ヴァン・ヘフリン(遺作)が搭乗する。

というのが前半のお話だが、積雪で飛行機が立ち往生する事態が終盤のパニック場面におけるサスペンスを大いに盛り立てることになるし、この部分で「グランド・ホテル」形式に則って航空関係者の相関図が頗る簡潔にして鮮やかに説明される。このスムーズな流れがあるが故に中盤以降にわかに高まるサスペンスが大いに機能することになるのである。

些かクラシックなコメディ・リリーフとして前半を楽しませるヘレンおばさん(戦前の名作「戦場よさらば」のヒロイン女優)が後半も意外なほど活躍する。狂言回しでもある彼女の配置が実に上手い。ジーンや税関責任者ロイド・ノーランらの細部の記憶によりヘフリンが爆弾を機内に持ち込んだ危険な人物であることが徐々に判明していく中盤の倒叙ミステリー的展開も相当面白く楽しめる。

かくして折角ヘフリンの危険性にたどり着いたのに“善人”たちに邪魔され、爆破は起きる。後はいかに後部に穴の開いた飛行機が雪で立ち往生する空港へ着陸するか・・・に特化、空港側と飛行機側が織り成すサスペンスにより手に汗を握らせることになる。

多分40年ぶりくらいの再鑑賞だが、前回の記憶よりずっと楽しんだ。あの時は中学生くらいだったから布石部分が今回のように楽しめなかったのかもしれない。家庭不和に陥っているランカスターとジーンの関係、女癖の悪いマーティンとスチュワーデス、ジャクリーン・ビセットの不倫関係というドラマ部分は、パニック映画の定石となっていくサスペンスの合間を繋ぐパテみたいなもので、本作の中ではなくて良い部分ではあるものの、だらだらしないのでマイナスになっていない。

カットの切り替えの代わりに当時流行っていた分割画面を有効に使い切れ味に貢献しているのも印象に残る。空港警備関係者を集合させるところで四隅が徐々に埋まっていくところなど特にゴキゲン。

こうして振り返ると、矢口史靖の「ハッピーフライト」(2008年)は本作から相当拝借していることが判る。矢口監督は本作を研究したのに違いない。

「エアポート」シリーズは題名に偽りありで、本作以外空港(エアポート)は殆ど出て来ない。

この記事へのコメント

2015年12月12日 11:41
>ジョージ・ケネディー
昔はパニック映画にジョージ・ケネディーが出てくると、ああだいじょうぶだ、助かるぞ、みたいな安心感が持てましたね。そういう役が多かった記憶があります。
>「グランド・ホテル」形式
パニック映画はこれがよいと思います。大ヒットした「タイタニック」は主人公二人の恋愛ものみたいになってて、淀川長治先生が、まあガキの話だけ! つまらない! とまでおっしゃててね。見た人にはラブストーリーとしても感動したといっていた人が多かったので、淀川先生ほどきびしく批判することは私には出来ませんが、たしかに昔の白黒のタイタニック映画は「グランドホテル」形式だったのでもっとおもしろかったなと思ったですよ。時間も短くすっきりまとめられいたし。
オカピー
2015年12月12日 21:04
nesskoさん、こんにちは。

>ジョージ・ケネディー
結局「エアポート」シリーズには同一人物役で全て出ているようですね。
邦画の「人間の証明」は作品が弱くて残念でしたけど。

>「タイタニック」
イギリス製の「SOSタイタニック」が僕は大好きでしたよ。最後のオーケストラの場面は胸がつまりましてね。
淀川先生のお友達でもある双葉先生は、「タイタニック」は戦前の「歴史は夜つくられる」の焼き直しみたいだと仰っていました(まあ悪くない、といった評価でしょうか)。僕も若い人ほど(僕も少しは若かった^^)感激は出来なかったけれども、それなりに楽しみました。「SOSタイタニック」には及ばなかったですが。
ねこのひげ
2015年12月13日 11:18
これは良かったですね。
後から作られたエアポート物は酷いのばかりでありました。
おばあちゃんが、凝りもせずにまた無賃乗車しようとするのが笑えました。
今では、無理でしょうね。
オカピー
2015年12月13日 13:50
ねこのひげさん、こんにちは。

チェックが厳しい今では、ヘレンおばさんもヴァン・ヘフリンの爆弾男も無理ですね。
2020年05月05日 14:47
オカピーさん、こんにんちは。
また、バート・ランカスター観ました(笑)。
私はこのころのアメリカ映画は、ジャンルに関わらず、登場人物の生活描写が何気なく描写されていて素晴らしいと思ってしまいました。
「大空港」では、ヴァン・へフリン夫妻のアパートや奥さんのカフェの様子、バート・ランカスターの自宅の様子も電話のシーンでのマルチ画面で映されていました。何気ない格差社会の描写でした。
騒音への市民運動のシーンも斬新だったと思います。テレビ局の撮影が終わればデモも引き上げるところまで描かれていました。緊急時にはリベラル的発想を否定しなければならない・・・のかなあ?ランカスターと役員との口論にもリアリティがありました。
各職業の夫婦(家族)間も、対比として描かれていたように思いました。ランカスター、マーチンのエリート職の家庭の矛盾、中級技術者のケネディの、あつあつの中年夫婦の様子、悲劇を起こしてしまいましたが、へフリン夫婦の信頼関係・・・職位の差をアソロジーの群像劇として描写していたようにも思います。
また、ヴァン・へフリンの戦場体験によるPTSDも説得力がありましたし、年金生活者が遠方の子供夫婦に会いに行くための高額な航空料金のことも何気なく寛容な描写で微笑ましかったですが、よほど孫の顔が見たいんだなと思うと、せつない気持ちにもなりました。
そして、それぞれの業務へのプロ意識と確執や協力の描き方にも関心しました。除雪作業を含めた航空整備士の知識とスキル、ベテラン税関職員の不正搭乗者への洞察、パイロット・客室乗務員の対応、空港責任者の危機管理意識、市民運動への役員の判断、除雪作業での整備士や機内との調整や確執、無賃乗車への対応・・・等々。
今こそ、こういったディザスターの名作を観るべきでしょうね。
それにしても、ランカスターの空港責任者は、たいへんな職です。世間でも一般職の管理職は、専門職(ここではパイロットや整備士)のプライドには手を焼くと思いますし、現場を理解しない役員との調整もたいへん、一般市民の苦情処理、乗客へのサービスと不正摘発、そんななかでの危機管理ですから。
アラン・ドロンがランカスターを尊敬したのもわかる(笑)。でも、これって決して映画の事だけでなくって、本当にリアルな現実だと思いますよ。
初めて、オカピー得点に反対します。☆☆☆☆☆(10点)でいいのでは(笑)。
でも、オカピーさんの記事内容、素晴らしかったです。

では、また。
オカピー
2020年05月05日 21:53
トムさん、こんにちは。

>何気ない格差社会の描写でした。

良い映画は何気なくやります。力のない作家は、本末転倒してこうした部分を描きすぎて、本来のジャンル映画たる部分を台無しにしてしまいます。
 ディザスター映画=パニック映画では、「大空港」「ポセイドン・アドベンチャー」「タワーリング・インフェルノ」は、非常にパランスがうまく取られていましたね。

>今こそ、こういったディザスターの名作を観るべきでしょうね。

対応の仕方など比較はできないにしても、危機管理のあり方とか、コロナに関しても勉強になるかもですね。

>☆☆☆☆☆(10点)でいいのでは(笑)。

純サスペンス部分だけで判断したもので。上述したように、ドラマの部分も見事に充実していましたが、もっと詰めようと思えば詰められたかなと思いまして。
 しかし、総合的に非常に優れていると思います。ドラマの強さがサスペンスの強さに繋がる映画が本当に良い映画なんでしょうね。

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