映画評「黒いオルフェ」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1959年フランス=ブラジル=イタリア合作映画 監督マルセル・カミュ
ネタバレあり
「古事記」のイザナミノミコトとイザナミノミコトの挿話に似ているのが、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケーのお話である。或いはギリシャから伝わったものか、偶然か?
この神話に基づいた作品は色々と作られているが、日本のアニメ「星のオルフェウス」(1979年)とジャン・コクトーの「オルフェ」(1950年)と本作が僕の記憶に残っている。
コクトー版はロールスロイスやオートバイといった現代的要素の中に生み出される古典的幻想美で僕を陶酔させ、同じくフランス人のマルセル・カミュが現代ブラジルを舞台に翻案(厳密に言えば、ブラジルの詩人ヴィニシウス・デ・モライスの翻案)したこの作品は動的な魅力と野趣のもたらす幻想性とで僕を魅了させた秀作だ。
リオのカーニバル本番の前日に従姉セラフィナ(レア・ガルシア)を訪れたユーリディス(マルペッサ・ドーン)は、浮気者の市電運転手オルフェウ(ブレノ・メロ)と運命的な恋に陥るが、死神に執拗に追われて死ぬ運命は回避できずに感電死する。
オルフェウはカーニバルが終わった後死んだと聞かされた彼女に会おうとして黄泉の国ならぬ謎の降霊術の場に赴くが、「振り向いてはならぬ」という言葉に逆らった為に生きたユーリディスは彼の前から永久に姿を消す。それでも死体置き場から彼女の死体を引き取ったオルフェウだが、彼の嫉妬深い婚約者ミラ(ルールデス・デ・オリヴェイラ)の石つぶてにより崖下に落ちて死ぬ。
かくして二人はあの世で永遠に結ばれるのである。
というお話は、勿論、冥府くだりの場面を中心としてギリシャ神話に則ってい、コクトー版同様に現代故の散文的とさえ言える要素を取り込みながら幻想性を醸成して誠に鮮やか。
本作一番の魅力は、何と言っても、55年前に恐らく殆どの日本人が初めて目の当たりにしたリオのカーニバルの熱気である。この熱気には狂気に通ずるものがあり、やがて狂気と嫉妬とが相まって悲劇へと向かわせる様が一種の叙事詩を形成する。
今観る分にはカーニバルの模様はさして得点源にはならないかもしれないが、タイツに身を包み仮面を被っただけの演劇的な死神が暗躍する模様が醸し出す幻想により、魅力はさほど減じていない筈。この死神もリアルでないからこそ却って造形美ひいては幻想美を生みだしていると言えるだろう。
僕の世代より上の映画ファンなら、素敵な主題歌は大抵ご存じと思う。音楽を担当したのは、本作で有名になったらしいアントニオ・カルロス・ジョビン。
邦題はフランス語に基づく「オルフェ」であるが、登場人物がポルトガル語で“オルフェウ”と言っているので物語の説明にはそちらを採用した。
本年最後の記事でした。一年間ご愛顧いただき有難うございました。来年もよろしくお願い申し上げます。
1959年フランス=ブラジル=イタリア合作映画 監督マルセル・カミュ
ネタバレあり
「古事記」のイザナミノミコトとイザナミノミコトの挿話に似ているのが、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケーのお話である。或いはギリシャから伝わったものか、偶然か?
この神話に基づいた作品は色々と作られているが、日本のアニメ「星のオルフェウス」(1979年)とジャン・コクトーの「オルフェ」(1950年)と本作が僕の記憶に残っている。
コクトー版はロールスロイスやオートバイといった現代的要素の中に生み出される古典的幻想美で僕を陶酔させ、同じくフランス人のマルセル・カミュが現代ブラジルを舞台に翻案(厳密に言えば、ブラジルの詩人ヴィニシウス・デ・モライスの翻案)したこの作品は動的な魅力と野趣のもたらす幻想性とで僕を魅了させた秀作だ。
リオのカーニバル本番の前日に従姉セラフィナ(レア・ガルシア)を訪れたユーリディス(マルペッサ・ドーン)は、浮気者の市電運転手オルフェウ(ブレノ・メロ)と運命的な恋に陥るが、死神に執拗に追われて死ぬ運命は回避できずに感電死する。
オルフェウはカーニバルが終わった後死んだと聞かされた彼女に会おうとして黄泉の国ならぬ謎の降霊術の場に赴くが、「振り向いてはならぬ」という言葉に逆らった為に生きたユーリディスは彼の前から永久に姿を消す。それでも死体置き場から彼女の死体を引き取ったオルフェウだが、彼の嫉妬深い婚約者ミラ(ルールデス・デ・オリヴェイラ)の石つぶてにより崖下に落ちて死ぬ。
かくして二人はあの世で永遠に結ばれるのである。
というお話は、勿論、冥府くだりの場面を中心としてギリシャ神話に則ってい、コクトー版同様に現代故の散文的とさえ言える要素を取り込みながら幻想性を醸成して誠に鮮やか。
本作一番の魅力は、何と言っても、55年前に恐らく殆どの日本人が初めて目の当たりにしたリオのカーニバルの熱気である。この熱気には狂気に通ずるものがあり、やがて狂気と嫉妬とが相まって悲劇へと向かわせる様が一種の叙事詩を形成する。
今観る分にはカーニバルの模様はさして得点源にはならないかもしれないが、タイツに身を包み仮面を被っただけの演劇的な死神が暗躍する模様が醸し出す幻想により、魅力はさほど減じていない筈。この死神もリアルでないからこそ却って造形美ひいては幻想美を生みだしていると言えるだろう。
僕の世代より上の映画ファンなら、素敵な主題歌は大抵ご存じと思う。音楽を担当したのは、本作で有名になったらしいアントニオ・カルロス・ジョビン。
邦題はフランス語に基づく「オルフェ」であるが、登場人物がポルトガル語で“オルフェウ”と言っているので物語の説明にはそちらを採用した。
本年最後の記事でした。一年間ご愛顧いただき有難うございました。来年もよろしくお願い申し上げます。
この記事へのコメント
病院兼役所みたいな建物を下りて行くとそこは変な集会場、というシュールな設定が面白かったですね。
カーニバルもサンバも日本人にお馴染になりましたが、踊り方が大昔から変わっていないのが解って、これも興味深いと思いました。
ギリシャ神話・・・洪水伝説も世界各地にありますから人類共通認識のようなものがあるのかも。
来年もよろしくお願いします。
今年もよろしくお願いいたします。
>洪水伝説
氷河期末期の記録が伝承で各地に残っているのではないかと勝手に思っています。