映画評「映画 深夜食堂」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・松岡錠司
ネタバレあり

洋の東西を問わず、メジャー映画とか大ヒット作にお子様・若者向けが多い。精神年齢は未だに17歳くらいの僕ではあっても、面白く見られず、弱っている。そんな中こういう日常の人情の機微を描いたドラマが琴線を打つ。原作は安倍夜郎(あべ・やろう)という人の漫画ということだが、「映画」という冠が付くことから推測されるように、TVで放映されていたようである。

東京下町の、その名も素っ気ない「めしや」、しかも0時から朝6時までという変わった時間帯で商売をしている食堂には、長い常連客と、ほんの僅かに通ってくれているお客とがいる。店主は朴訥な小林薫だが、左目に丹下左膳のような傷がある。訳ありらしい。

第一話「ナポリタン」は、金持ちの妾・高岡早紀が急死した旦那から何も遺贈されないと知り、店の料理ナポリタンを通じて貧乏くさいおたくサラリーマン柄本時生と懇ろになるが、遺産が転がり込むと判った途端におさらばする、というお話。
 本作の中では救われにくいお話であるが、こういうのも人情である。心優しいことのみが人情というのは我々の誤解と言うべし。

第二話「とろろご飯」。男に料理店を出してやると言われて上京したものの、逆に持ち金を使われてしまって一文無しになった新潟出身の娘・多部未華子が、食い逃げしたのを後悔、店にやって来て手伝いをしたいと申し出る。折しも店主が腱鞘炎の為に治るまでと引き受ける。店主に秋波を送る為に時々現れる着物美人・余貴美子が日本料理店で女将で、彼女の料理の腕前が気に入って雇うことにする。
 彼女の出身地が新潟は親不知(おやしらず)。親不知から来た彼女が親知らずという洒落から思いついたような一編で、新潟弁の扱いが些か不自然だが、こういう些細なところを気にしすぎて過剰反応するのが最近の日本人の悪い癖だ。とにかく、好きな映画「越後つついし親不知」(1964年)を思い出させたのが殊勲(笑)。

東北大震災で妻を失って絶望に暮れていた筒井道隆が、ボランティアの美人・菊池亜希子の優しさに触れて俄然生きがいを感じプロポーズをするが、そんなつもりのない彼女が大いに困る、第三話「カレーライス」。
 彼女の弱っている真の理由が実は見かけと違う、というところが面白く、なかなか味わい深い。彼女は不倫のつらさから逃れる為に被災地でボランティアをしただけなのにひどく感謝されてしまうのが面映ゆいけれど真相は告げられない、というジレンマに苦しんでいたのだ。筒井氏は漸く東北に帰る気になる。
 ハッピー・エンドともビター・エンドとも言えない幕切れの味わいに片足棺桶組は胸を打たれたりする。譬えるならば、オー・ヘンリーの短編小説のような味である。

そうしたエピソード群を繋ぐのが、全編に渡って少しずつ取り上げられる骨壺のお話で、最後に持ち主・田中裕子が現れて真相が判る。
 これをお話に含めれば全四話となるが、どうもこのお話が字余りの感じなのが惜しい。田中女史の不自然千万な演劇的演技も意図不明。割合ご贔屓にしている松岡錠司監督に狙いを訊いてみたいところだ。

“映画”は本来サブタイトルなので、「さ行」にすべきなのでしょうが、「あ行」にします。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年04月10日 09:40
漫画は読まないので知りませんでしたが、深夜ドラマの方は見ておりました。
佐藤やミルクを使わないコーヒーにあるほのかな甘みを感じさせるドラマでありました。
多部未華子さんは、最近気になってきた女優さんであります。
最初のころは目つきの悪い子だな~と思っておりましたが、最近ははっ!?とさせる美しさや色気が感じられる時があります。
楽しみな女優さんであります。
オカピー
2016年04月10日 20:55
ねこのひげさん、こんにちは。

新聞のTV欄を余り見ないので存在すら知りませんでしたけど、映画版を見る限りなかなかいけそうですね。

>多部未華子
10年くらい前に初めて見ましたかねえ。「西遊記」だったかな。
NHKの朝ドラにもでていましたっけ?
20代後半になると色気が出てくるものですよね。

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