映画評「インサイド・ヘッド」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督ピート・ドクター
ネタバレあり

欧米には抽象概念を擬人化する伝統がある。印象深いところで古代ローマ時代の「哲学の慰め」や中世イングランドの「農夫ピアズの幻想」など。前者を読む前は哲学することで慰めを見出すのが主題かと思っていたら、幽閉されていた作者を擬人化された“哲学”が慰めるので、びっくりした。

本作は、一週間ほど前に最初の20分だけ見た邦画「脳内ポイズンベリー」にかなり似ているものの、突発的でなくそうした欧米の伝統が着想のベースにあるのではないかと想像される。

天真爛漫だった11歳の少女ライリー(声:ケイトリン・ディアス)が生まれ育ったミネソタからサンフランシスコへ引越しした途端悲しみに沈み、家出を考えるようになる。
 その時、彼女の脳内の司令塔では、ヨロコビ(声:エイミー・ポーラー)、カナシミ(声:フィリス・スミス)、イカリ(声:ルイス・ブラック)、ムカムカ(声:ミンディ・カリング)、ビビリ(ビル・ヘイダー)がそれぞれに奮闘しているのだが、ヨロコビの押しの強さがカナシミを悲しませたことからトラブルが発生、二人とも司令塔から排出されてしまって司令塔は収拾がつかなくなる。
 それがライリーの外見上の行動となって表れる、というわけ。

最終的には、ヨロコビがカナシミの存在価値を知るのだが、これはライリーの精神的成長を示すものであり、彼女の混乱の背景にあったのが実は思春期の芽生えであったということも判ってくる仕組み。

アニメだから子供向けという理解は早計である。その先入観こそ、日本人に、本作が、哲学的・心理学的に本作を理解しようとしたアメリカ人ほど受けなかった原因であろう(相対的には高い評価と言えるが)。

「ディズニーは日本人に太刀打ちできない作品を作る」「ディズニーとは思えない解りにくさでつまらない」。この二つの対照的な意見は共に過ちではないだろうか。ピクサーはディズニーに併合され、その影響が相互にあることが伺えるとはいえ、その名の下に制作される作品は良い場合でも悪い場合でも依然ディズニー本体とは分離されている。その意味において、本作はあくまでも(従来通り)ディズニー配給のピクサー作品なのであって、ディズニーの枠でくくるのは間違いと思うのである。

「脳内ポイズンベリー」もその後見終えました。連日のディズニー・シリーズもひとまず終わり。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年05月22日 07:54
デイズニー傘下にはいたとはいえ、ピクサーはピクサーでありましょうね。
手塚漫画で悪魔と天使がささやきあういうのがありましたが、あれのアニメ版というところでしょうか。
このアニメは監督が引っ越した時に幼い娘さんが情緒不安定になり色々な人格を作り出したことから思いついたそうであります。
現在は正常に戻っているそうでありますがね。
オカピー
2016年05月22日 20:15
ねこのひげさん、こんにちは。

>ピクサーはピクサー
作品傾向を観ればそういう結論は出ると思いますよねえ。

>娘さん
ほぉっ、そんな背景がありましたか。
西洋人はそういう着想が日本人よりしやすい気がしますね。

この記事へのトラックバック

  • 「インサイド・ヘッド」

    Excerpt: 「もうそんな年じゃないから」と言う息子を半ば強引に連れ出して鑑賞。確かに主役の少女ライリーとほぼ同世代の息子にとっては、「もうそんな年じゃない」感が満載なのかも。背伸びのジェネレーションであるにも関わ.. Weblog: ここなつ映画レビュー racked: 2016-05-16 12:56
  • インサイド・ヘッド

    Excerpt: 【概略】 ミネソタを離れ、見知らぬ街・サンフランシスコで暮らし始めたライリーの心は不安定になってしまう。以来、彼女の頭の中の5つの感情のうち、ふたつをなくしてしまい…。 アニメーション 11歳.. Weblog: いやいやえん racked: 2016-05-16 13:22
  • インサイド・ヘッド ★★★.5

    Excerpt: 11歳の少女の頭の中を舞台に、喜び、怒り、嫌悪、恐れ、悲しみといった感情がそれぞれキャラクターとなり、物語を繰り広げるディズニー/ピクサーによるアニメ。田舎から都会への引っ越しで環境が変化した少女の頭.. Weblog: パピとママ映画のblog racked: 2016-05-16 16:18
  • インサイド・ヘッド(吹替版)

    Excerpt: 公式サイト。原題:Inside Out。ピート・ドクター監督。日本版主題歌:DREAMS COME TRUE。(声)竹内結子、大竹しのぶ。本番までなかなか時間がかかる。異例なほど前置きが長い。監督の挨.. Weblog: 佐藤秀の徒然幻視録 racked: 2016-05-16 16:23
  • インサイド・ヘッド

    Excerpt: 11歳の女の子ライリーが愛情深い両親に育てられ、だけど、引っ越しによる転校デビューのつまづきから、家出を決意。 その時の、頭の中での、いろいろな感情が冒険を繰り広げる物語 ある意味で、引っ越しショ.. Weblog: のほほん便り racked: 2016-05-16 16:57
  • 『インサイド・ヘッド(吹替版)』

    Excerpt: □作品オフィシャルサイト 「インサイド・ヘッド」 □監督 ピート・ドクター、ロニー・デル・カルメン□脚本 ピート・ドクター□キャスト(声の出演) 竹内結子、大竹しのぶ、浦山迅、小松由佳、      .. Weblog: 京の昼寝~♪ racked: 2016-05-16 19:06
  • 『インサイド・ヘッド』('15初鑑賞55・劇場)

    Excerpt: ☆☆☆☆☆ (10段階評価で 10) 7月18日(土) OSシネマズ神戸ハーバーランド スクリーン7にて 13:50の回を鑑賞。 Weblog: みはいる・BのB racked: 2016-05-16 21:39
  • ヨロコビとカナシミ~『インサイド・ヘッド』 【2D・吹替え版】

    Excerpt:  INSIDE OUT  両親に慈しみ育てられた11歳のライリーは、アイスホッケーが大好きな、 明るくお茶目な少女。しかし生まれ育ったミネソタからサンフランシスコへ 引っ越すことになり、彼.. Weblog: 真紅のthinkingdays racked: 2016-05-17 20:12
  • 映画評「脳内ポイズンベリー」

    Excerpt: ☆☆★(5点/10点満点中) 2015年日本映画 監督・佐藤祐一 ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2016-05-22 20:28
  • 「インサイド・ヘッド」

    Excerpt: 悲しい感情の存在意義は。 Weblog: 或る日の出来事 racked: 2016-05-29 19:36
  • 映画評「ふきげんな過去」

    Excerpt: ☆☆☆(6点/10点満点中) 2016年日本映画 監督・前田司郎 ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2018-10-20 09:22