映画評「龍三と七人の子分たち」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・北野武
ネタバレあり
北野武の作品の三分の二くらいは任侠映画で、特に前二作「アウトレイジ」シリーズは実感を伴う迫力があったが、人間の嫌な部分を露骨に見せつけられるので好きになりきれないものがあった。本作は一種の仁侠映画でありながら、老人を主人公にしたコメディー仕立てなのでぐっと親しみやすさがあるのが良い。
70歳を超えた元ヤクザの龍三(藤竜也)が、平凡な会社員である息子(勝村政信)を騙るオレオレ詐欺にひっかりそうになるが、昔の仲間マサ(近藤正臣)がそばにいたことと自らの任侠っぽい振舞いに恐れをなして相手が退散する。二人は町で寸借詐欺をしている元の仲間モキチ(中尾彬)にチンピラが絡んでいるのを発見、脅しをかける。マサの部屋に布団詐欺師(下條アトム)が訪れるが、彼らの正体を知ってこれまた恐れをなして逃げていく。
一見ばらばらに見える一連の事件は、実は全て西なる男(安田顕)が率いる詐欺集団“平成連合”に繋がっている。ヤクザを名乗らないだけのヤクザである。任侠の名がすたると“平成連合”をやっつけようと平均年齢72歳の任侠組織“一龍会”を結成する。
北野武流の世相風刺映画であろう。僕も騙されたように、詐欺の形は多様化している。肩身の狭い思いをしている老人たちも少なくない。そんな老人たちが元ヤクザであれば、少しは別の展開もあるだろうということである。これが老人であっても現役のヤクザであれば面白くも何ともない。病院にお世話になり、老人ホームにお世話になり、口答えしても大人しい息子にさえ逆らえない、一応の礼儀をわきまえた老人たちだから可笑しいのである。
孫の飼っている小鳥を焼き鳥にしたり、“一龍会”が死んだモキチを盾にして殴り込みをかけたり、日本人の趣味に合うかどうかはともかく、ブラック・ユーモアも満載で、小手先で生きているチンピラ連中に一泡吹かせる様は多少もやもやが残る部分があるとは言え、一回り下の我が世代の溜飲をも下げさせるものがある。
“一龍会”と“平成連合”の違いは何であろうか? 任侠かただの悪党かの違いではない。“一龍会”のメンバーは老人故に死を眼前とし死を恐れないから、煩悩の塊で生に固執せざるを得ない“平成連合”を恐れさせるのである。
世相を風刺(特攻隊のつもりでセスナを繰り出したのに米軍空母に降り立ってしまう部分はブラックな政治風刺)しながら、一種の哲学映画になっている。そこが面白い。
若者より老人を描いた映画のほうが面白くなってきた。年を取ってきた証拠だね。
2015年日本映画 監督・北野武
ネタバレあり
北野武の作品の三分の二くらいは任侠映画で、特に前二作「アウトレイジ」シリーズは実感を伴う迫力があったが、人間の嫌な部分を露骨に見せつけられるので好きになりきれないものがあった。本作は一種の仁侠映画でありながら、老人を主人公にしたコメディー仕立てなのでぐっと親しみやすさがあるのが良い。
70歳を超えた元ヤクザの龍三(藤竜也)が、平凡な会社員である息子(勝村政信)を騙るオレオレ詐欺にひっかりそうになるが、昔の仲間マサ(近藤正臣)がそばにいたことと自らの任侠っぽい振舞いに恐れをなして相手が退散する。二人は町で寸借詐欺をしている元の仲間モキチ(中尾彬)にチンピラが絡んでいるのを発見、脅しをかける。マサの部屋に布団詐欺師(下條アトム)が訪れるが、彼らの正体を知ってこれまた恐れをなして逃げていく。
一見ばらばらに見える一連の事件は、実は全て西なる男(安田顕)が率いる詐欺集団“平成連合”に繋がっている。ヤクザを名乗らないだけのヤクザである。任侠の名がすたると“平成連合”をやっつけようと平均年齢72歳の任侠組織“一龍会”を結成する。
北野武流の世相風刺映画であろう。僕も騙されたように、詐欺の形は多様化している。肩身の狭い思いをしている老人たちも少なくない。そんな老人たちが元ヤクザであれば、少しは別の展開もあるだろうということである。これが老人であっても現役のヤクザであれば面白くも何ともない。病院にお世話になり、老人ホームにお世話になり、口答えしても大人しい息子にさえ逆らえない、一応の礼儀をわきまえた老人たちだから可笑しいのである。
孫の飼っている小鳥を焼き鳥にしたり、“一龍会”が死んだモキチを盾にして殴り込みをかけたり、日本人の趣味に合うかどうかはともかく、ブラック・ユーモアも満載で、小手先で生きているチンピラ連中に一泡吹かせる様は多少もやもやが残る部分があるとは言え、一回り下の我が世代の溜飲をも下げさせるものがある。
“一龍会”と“平成連合”の違いは何であろうか? 任侠かただの悪党かの違いではない。“一龍会”のメンバーは老人故に死を眼前とし死を恐れないから、煩悩の塊で生に固執せざるを得ない“平成連合”を恐れさせるのである。
世相を風刺(特攻隊のつもりでセスナを繰り出したのに米軍空母に降り立ってしまう部分はブラックな政治風刺)しながら、一種の哲学映画になっている。そこが面白い。
若者より老人を描いた映画のほうが面白くなってきた。年を取ってきた証拠だね。
この記事へのコメント
ねこのひげは『RED/レッド』を思い出してしまいました。
>『RED/レッド』
そうですよね。
僕は、アル・パチーノとクリストファー・ウォーケンが老ギャングを演ずる「ミッドナイト・ガイズ」というのも思い出しました。
あちらは現役のヤクザで、反旗を翻すのが自分のボスというお話でしたが、内容的には近いものがありましょうか。
本作は、元ヤクザの老人にオレオレ詐欺があったら面白い現象が発生するのではないだろうかという着想が大本なんでしょう。
笑える場面もいくつかありました。
また、既に60代の下條アトムの動きの軽さに驚きました。
北野映画の常連、矢島健一も面白かったです。浄水器を売りつけるかと思ったら高級な布団。
用心棒さんのところで、お見掛けいたしました。
>下條アトム
周囲が重鎮なので、彼が若く見えるという面白さもありましたね。
>浄水器・・・高級な布団
任侠仲間の息子で今は堅気でやっているという辰巳琢郎が下條アトムと全く同じセールストークをするのが可笑しかったですね。ただ、ここに隠された揶揄が両義的で、どう考えたものか。
どうも覚えていて下さってありがとうございます
>辰巳琢郎
思い出しました!彼も胡散臭い人物を演じていました。
>昔の仲間マサ(近藤正臣)
息子に家から追い出された龍三に「良かったら俺の家に来いよ。」
豪邸かと思ったら・・・苦笑しました。
でも、あそこが龍三と七人の子分たちにとっては大事な棲家なんですよね!
ハンドルネームも特徴的でしたし、ご意見も鋭くて印象に残るものがありましたから。
自分のところではなかったものの、久しぶりにハンドルネームを見て嬉しかったですよ。
>大事な棲家
肩身の狭い思いをしている老人たちですからねえ。
>“一龍会”が死んだモキチを盾にして
この映画では、やられっぱなしです
でも、映画「本陣殺人事件」の金田一役は意外に格好良かったです。
さて、中尾彬。
1975年の映画「本陣殺人事件」で金田一耕助役。
予算の関係で(当時の)現代の設定。
意外に似合ってるんですよ
そして若くてイケメン。驚きました
「投稿できない」と言う表示が出たので書き直しましたが、二つの文章が混じった文章になってしまいました。すみません!僕のパソコンも寿命かな・・・?
>「投稿できない」
たまにそういうことがあります。
投稿できていないと思って、再度投稿すると同じ文章が二回載ってしまうという変な具合になることも。
管理人ですから、自分の投稿は消せますけどね^^;
>中尾彬・・・やられっぱなし
周りが重鎮なので、彼がペコペコする感じになるのが珍しく、面白かったですよね。
>「本陣殺人事件」
小説との抱き合わせで、70年代における金田一ブームを発生させた作品ですねえ。
観ましたけれど、忘れました(笑)。
石坂耕助ばかり観ずに、これももう一回観ないといけないかなあ、と思っておるです。