映画評「脳内ポイズンベリー」

☆☆★(5点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・佐藤祐一
ネタバレあり

三日前に見たばかりの「インサイド・ヘッド」に表面的にはかなり似ているが、着想プロセスは逆なのではないかという気がしている。

真木よう子扮するケータイ小説家・櫻井イチコが、出版社の飲み会でも会ったことのある年下の芸術家もどき早乙女(古川雄輝)と付き合おうかと迷ううち、出版社の誠実な編集者・越智(成河)からも好意を寄せられ、その脳内で激しく葛藤が繰り広げられる。

その葛藤を、彼女の脳内における、理性(西島秀俊I)、ネガティヴ(吉田羊)、ポジティヴ(神木隆之介)、衝動(桜田ひより)、記憶(浅野和之)による、脳内会議として表現するのがミソ。
 つまり、通常の劇映画であれば、登場人物の内面を観客がある程度想像しながらお話の進展を見守るところを、逆にその内面を全て見せることでお話を構築するのである。身も蓋もないと言えばそれまでだが、この手の発想では身も蓋もない中身が詳細であればあるほど面白いという最低線のハードルはクリアしているように思う。

「インサイド・ヘッド」が擬人化された5人が感情であったのに対し、こちらはごく単純化された五つの人格という感じである。

原作が2010年に最初に発表されていることを考えると、かのピクサー製作陣がアイデアを拝借した可能性も、日本の漫画が世界各地で読まれている現在、あながち否定しきれないのであるが、それはともかく、内容を比較して感じるのは、本作の着想が「恋する人間の脳内の葛藤を見たら面白いのではないか」という興味本位的発想であるとすれば、かのピクサー映画のそれは古代ローマ時代から続く欧米思想の伝統とさえ言える擬人化された抽象概念を主人公にしたお話を若者向けに作ろうという学問的着想なのではないかと想像させるところがあるということである(実際のところは分からない)。

その推測が正しければ、本作において擬人化は手法であり、あちらにおいては前提もしくは目的である。気楽に楽しむ分には本作のほうだろうが、思考の仕組みと行動との関連性を哲学的に考えてみたいと思う場合には断然あちらさん。
 どちらにしても、個人の中の異なる要素が一体化しないでは自己は完成しない、という認識は共通している感じであります。

それぞれの人格にありふれた日本人の名前があるのが日本的?

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年05月22日 08:14
だれかのドラマみたいになんでもセリフにしてしまうよりはましなのでしょうがね。
日本漫画からのアイデア拝借は多いようですね。
よく言えばそれだけ日本の漫画がすぐれているということか?
日本人なら盗作騒ぎで裁判沙汰にならないと思っているのか?
オカピー
2016年05月22日 20:41
ねこのひげさん、こんにちは。

>日本漫画
日本で映画化されるものを観ても、優れた作品は多そうです。
僕は全く漫画を読まないので想像ですが。

>日本なら
作者レベルでは解りませんが、近年パクリを騒ぐのは欧米人より日本人ですけれど(苦笑)。
彼らは、日本の映画界(特に日活アクション)が1970年代まで欧米映画をやりたい放題までにパクってきたのを知らないのでしょうねえ。
どこまで行けば盗作なのかは難しい問題で、音楽に至っては判断のしようがないのが実態ですよね。ジョージ・ハリスンの「マイ・スイート・ロード」がシフォンズの「ヒーズ・ソー・ファイン」の盗作と断定されてしまいましたが、僕は結構疑問に思っています。
ビーチ・ボーイズの「サーフィンUSA」がチャック・ベリーの「スイート・リトル・シックスティーン」のパクリであるのは明白ですが、それでもベリーが大人げない気もしています。ベリーはビートルズの「カム・トゥゲザー」も訴えましたけれど、着想だけを戴いた感じ。

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