映画評「ふしぎな岬の物語」

☆☆★(5点/10点満点中)
2014年日本映画 監督・成島出
ネタバレあり

モントリオール映画祭で何か受賞したのがニュースになっていたのを思い出し少し期待したが、合理的に追求しようとするとよく解らない映画なのであった。森沢昭夫の小説「虹の岬の喫茶店」を成島出が映画化。

千葉県の岬にある喫茶店の女将えっちゃん(吉永)は町の人々に大人気で、常連が入れ代わり立ち代わり店に訪れる。その中でも彼女を思慕して30年来通っている不動産サラリーマンのタニさん(笑福亭鶴瓶)と末期癌を発症する漁師の徳さん(笹野高史)が重要人物。
 小事に拘らず強そうに見える彼女は、実は、若い頃結ばれすぐに家を飛び出した画家の夫が残した虹の絵に寄り縋って生きている。
 そんな彼女を守ってやろうと奮闘するのが、短気で色々と問題も起こし、剛腕投手だったの生徒会長だったの法螺も吹くが根は気の良い甥の浩司(阿部寛)。
 ある日、ある父娘(父:井浦新)が現れ、虹を追ううちに店に辿り着いたと言う。後日二人は再び現れ、近くに出没するおじさんに「絵を返してほしい」と頼まれたと言い、絵を持ち帰る。タニさんに四国へ旅立たれ、徳さんにあの世へ旅立たれ、さらに愛する人の分身であった絵を失った彼女は茫然自失し、ガステーブルの火が燃え移ったことにも気づかず、店は全焼するが、周囲の励ましで立ち直る。
 彼らに交わってくるのが、徳さんの出戻り娘みどり(竹内結子)で、やがて浩司と結ばれ、ここに新たに三人の助け合い人生が始まるようである。

最近の観客は、善人しか出て来ないメジャー映画を大した根拠なしに(一応リアリティ欠如という判断なのだろう)嫌う傾向がある。作り方・扱い方次第で確かに鼻白ませる感じも時には出てくるが、偏見や理解が及ばない為に批判しているケースが結構多いのではないだろうか? 良い人ばかりということが必ずしもリアリティを損なうとは思えないわけで、僕としては疑問を呈したい。

本作はメジャー作品であるが、昔なら大手が決して作らなかったタイプとも言えそうだ。茫洋としてはっきりしたテーマが見つけにくいメルヘン的作品で、ヒロインを「魔女みたい」と言ったあの謎めいた少女と父親など不可解と言っても良いくらい。絵を取ってきてくれと頼んだ人は「若いおじさん」だから、数十年前にヒロインを捨てた時と全く変わらない夢世界の住人のようであり、彼女を現実の人と考えると少女もまた夢の住人で、或いはヒロインの少女時代の反映のように思われて来ないでもない。

構成的には、序盤のうち喫茶店を狂言回しにした半オムニバス映画かと思わせておいて、実際には周囲の人々が本流たるヒロインの心理を浮き彫りにするための支流として流れやがて本流に吸収されていく形。その中途半端な感じが、途中から観客の理解との間に齟齬を生じさせていく為に不評を被ったのではないか。今の日本人の映画観から言えば、こういう寓話スタイルはシュールなだけにアニメにすれば受けやすいような気がする。

多分“ふしぎ”は物語にかかる。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年05月03日 07:09
アニメ・・・・正直ねこのひげもそう思いました。
かならずしも実写でやればいいというものでもないでしょう。
でも実写で作っても理解して欲しいと思う面もありますね。
歳を取ってひねくれた見方をするのならわかるけど、10代20代でひねくれた観方しかできないのは悲しいことです。
なにを言わんとしているかゆっくりと考える余裕があってもいいんじゃあないのかな?
オカピー
2016年05月03日 20:39
ねこのひげさん、こんにちは。

小百合ちゃんが企画したみたいなので、それならば実写しかないわけですが、日本人の感性ならアニメなら結構受けた可能性があったような気がしますよね。

ブログに投稿されている方はそんなことは余りないですが、映画サイト特に投稿者の多い【Yahoo!映画】では、自分の理解がどの程度に達しているのか全くわきまえずに書きなぐっている人が多くて残念。
つまらなくなった理由を深く考えもせずに自分の趣味と理解力を棚に上げて、“つまらない”→“駄作”という短絡的な意見が溢れている。論外です。

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