映画評「海街diary」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・是枝裕和
ネタバレあり
本作の前日か前々日に地上波で「ソロモンの偽証 前編」が日本テレビで放映されたので一応録画したものの、オリジナルの尺が前編121分、後編146分と知って全く観る気がなくなった。前後編とも2時間枠なので、前編30分後編50分くらいのカットがある。80分のカットがある作品を観たところでお話のアウトラインが解るだけで真価が解ろうはずもない。
その点自ら製作に関わったフジテレビが放映した本作は状態が極めて良い。128分の上映時間に対して123分の放映時間。エンドロールを除けば事実上ノーカットであり、これなら作品評価もほぼ正しく出来る。
さて、是枝裕和監督は益々小津安二郎監督の境地に近づいてきている。主題は全て家族関係の機微に限り、カメラワークも貫禄が出てきた。大先輩ほどスタイルへの拘りはなさそうに感じるが、「誰も知らない」(2004年)の頃強く漂っていたセミ・ドキュメンタリー感は殆どなくなっている。それでいて、セミ・ドキュメンタリーの自然な感覚が依然大いに発揮されているのだから、その進境たるや驚くべきもの。もはや悠揚迫らぬ境地と言っても良いくらい。小津大人が好んだ鎌倉が舞台なのは偶然であろうか?
その鎌倉の古い家に三人姉妹即ち綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆が暮らしている。15年前に優柔不断な父親が妻子を残してある女性と出奔、残された母親・大竹しのぶもその後家を出て、恐らくティーンエイジャーだった長女はるか嬢が、暫くは祖母と共に、その死後は単独で、併せて十年余りの間、妹たちを厳しく育ててきたのだ。
そんなある日父親の逝去が伝えられる。彼の連れ合いも既に亡く、喪主は3番目の夫人である。三姉妹はそこに居場所のなさそうな二番目の連れ合いが生んだ娘である妹・広瀬すずを見出し、鎌倉の家に来るように誘いをかけると、彼女は当然のように応じる。
かくして四人姉妹としての生活が始まるが、仲が良さそうに見える中にも、異母妹としては必ずしもその場にふさわしいと思いきれないものをずっと抱えて生活を続けることになる。優等生ならではの鬱屈した心情も溜め込んでいる。
それぞれの恋人らしき男性との紆余曲折を交えて姉たち特に長女が達した心境は異母妹に居場所を与えること。長女は不倫相手でもあった医師・堤真一の事実上のプロポーズも断ってまでそれを達成しようとする。それが同じ血を分けた家族というものだから。
僕がストーリーをざっとまとめるとこんな風になる。内容について特に僕が分析・指摘するまでのことはなく、全て自明のような印象がある。説明が足りないなどと言っている人の気が知れない。
敢えて言えば、祖母の法事に十数年ぶりに現れた母親と激しい口論をした翌日にはるか嬢が一緒に墓参し、わざわざ家に戻って梅酒を母親に渡すシークエンスが家族の映画としてじーんとさせられた、とだけ言っておきたい。これが同じ血が流れる家族のなせる業なのだと。
四季折々の季節感を上手く取り込んで四姉妹を描くという点において、谷崎潤一郎の名作「細雪」やその映画化を想起させる。やがてラスト・シーンに至ると、ウッディー・アレンがチェーホフ「三人姉妹」の要素を現代に移しイングマル・ベルイマン風に作ったように見えた傑作「インテリア」(1978年)みたいだなあと随喜の涙を流す僕であった(笑)。
是枝監督の作品らしく出演者がいずれも自然な演技を披露し、姉妹を演じる四人のアンサンブルが絶品。是枝監督の凄さは役者から自然な演技を引き出すこと、これにほぼ集約される。新星・広瀬すずちゃんの可愛らしさに声を失い、四十数年前の中学生時代に恋した初恋の人を思い出した。
原作は日本映画史に残る傑作「櫻の園」(1990年)の作者・吉田秋生(よしだあきみ)によるコミック。本作もまた映画史に燦然と輝くことになるであろう秀作と言うべきだから、間接的にこれらを生み出した彼女の才能もまた端倪すべからざるものがあると言わなければならない。
そう言えば、我が家から程近いところに四人姉妹がいた。二番目と四番目が殊に美少女で、小学生時代一つ年下の二番目が僕は好きだった。多分初恋寸前の好意だった。
2015年日本映画 監督・是枝裕和
ネタバレあり
本作の前日か前々日に地上波で「ソロモンの偽証 前編」が日本テレビで放映されたので一応録画したものの、オリジナルの尺が前編121分、後編146分と知って全く観る気がなくなった。前後編とも2時間枠なので、前編30分後編50分くらいのカットがある。80分のカットがある作品を観たところでお話のアウトラインが解るだけで真価が解ろうはずもない。
その点自ら製作に関わったフジテレビが放映した本作は状態が極めて良い。128分の上映時間に対して123分の放映時間。エンドロールを除けば事実上ノーカットであり、これなら作品評価もほぼ正しく出来る。
さて、是枝裕和監督は益々小津安二郎監督の境地に近づいてきている。主題は全て家族関係の機微に限り、カメラワークも貫禄が出てきた。大先輩ほどスタイルへの拘りはなさそうに感じるが、「誰も知らない」(2004年)の頃強く漂っていたセミ・ドキュメンタリー感は殆どなくなっている。それでいて、セミ・ドキュメンタリーの自然な感覚が依然大いに発揮されているのだから、その進境たるや驚くべきもの。もはや悠揚迫らぬ境地と言っても良いくらい。小津大人が好んだ鎌倉が舞台なのは偶然であろうか?
その鎌倉の古い家に三人姉妹即ち綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆が暮らしている。15年前に優柔不断な父親が妻子を残してある女性と出奔、残された母親・大竹しのぶもその後家を出て、恐らくティーンエイジャーだった長女はるか嬢が、暫くは祖母と共に、その死後は単独で、併せて十年余りの間、妹たちを厳しく育ててきたのだ。
そんなある日父親の逝去が伝えられる。彼の連れ合いも既に亡く、喪主は3番目の夫人である。三姉妹はそこに居場所のなさそうな二番目の連れ合いが生んだ娘である妹・広瀬すずを見出し、鎌倉の家に来るように誘いをかけると、彼女は当然のように応じる。
かくして四人姉妹としての生活が始まるが、仲が良さそうに見える中にも、異母妹としては必ずしもその場にふさわしいと思いきれないものをずっと抱えて生活を続けることになる。優等生ならではの鬱屈した心情も溜め込んでいる。
それぞれの恋人らしき男性との紆余曲折を交えて姉たち特に長女が達した心境は異母妹に居場所を与えること。長女は不倫相手でもあった医師・堤真一の事実上のプロポーズも断ってまでそれを達成しようとする。それが同じ血を分けた家族というものだから。
僕がストーリーをざっとまとめるとこんな風になる。内容について特に僕が分析・指摘するまでのことはなく、全て自明のような印象がある。説明が足りないなどと言っている人の気が知れない。
敢えて言えば、祖母の法事に十数年ぶりに現れた母親と激しい口論をした翌日にはるか嬢が一緒に墓参し、わざわざ家に戻って梅酒を母親に渡すシークエンスが家族の映画としてじーんとさせられた、とだけ言っておきたい。これが同じ血が流れる家族のなせる業なのだと。
四季折々の季節感を上手く取り込んで四姉妹を描くという点において、谷崎潤一郎の名作「細雪」やその映画化を想起させる。やがてラスト・シーンに至ると、ウッディー・アレンがチェーホフ「三人姉妹」の要素を現代に移しイングマル・ベルイマン風に作ったように見えた傑作「インテリア」(1978年)みたいだなあと随喜の涙を流す僕であった(笑)。
是枝監督の作品らしく出演者がいずれも自然な演技を披露し、姉妹を演じる四人のアンサンブルが絶品。是枝監督の凄さは役者から自然な演技を引き出すこと、これにほぼ集約される。新星・広瀬すずちゃんの可愛らしさに声を失い、四十数年前の中学生時代に恋した初恋の人を思い出した。
原作は日本映画史に残る傑作「櫻の園」(1990年)の作者・吉田秋生(よしだあきみ)によるコミック。本作もまた映画史に燦然と輝くことになるであろう秀作と言うべきだから、間接的にこれらを生み出した彼女の才能もまた端倪すべからざるものがあると言わなければならない。
そう言えば、我が家から程近いところに四人姉妹がいた。二番目と四番目が殊に美少女で、小学生時代一つ年下の二番目が僕は好きだった。多分初恋寸前の好意だった。
この記事へのコメント
10年近く前の本作の姉妹編のような「歩いても 歩いても」も実に良い映画でした。
この二作で、是枝監督は断然ご贔屓になりましたよ。
姐さんにも好評だったので、その内必ず・・・。
>「櫻の園」
傑作と言うべき作品ですが、解らない人には解らないタイプの作品のようです。
当時、昔僕とよく一緒に映画館通いをしていた姉に「凄いぞ」とお薦めしたのですが、全くピンと来なかったようです^^;
豊富な映画経験があれば大概問題ないと思いますが・・・