映画評「マジック・イン・ムーンライト」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年アメリカ=イギリス合作映画 監督ウッディー・アレン
ネタバレあり

職業監督でなく映画作家なのに珍しくも毎年1本ずつコンスタントに新作を発表するウッディー・アレン御大。僕がWOWOWで“最新作”を観る頃は大概次の新作が登場している。だから映画館通いを止めた2000年以降アレンの“その時点での最新作”を観たことは殆どないのだ。
 などという言葉遊びは置いておいて、本作は21世紀に入ってからの最高傑作と思っている「スコルピオンの恋まじない」(2002年)と「タロットカード殺人事件」(2006年)を合せて三分の二くらいで割った作品である。要素的には「タロットカード」だが、お話の構図は「スコルピオン」のほうに近い。

中国人に扮してイリュージョンを披露している魔術師コリン・ファースが、同業者の知人サイモン・マクバーニーに頼まれ、自分では手に負えない占い師兼交霊術師の美人エマ・ストーンのトリックを見破ることになる。しかし、彼女が彼若しくは親族・親友しか知らないはずの秘密まで次々と言い当てた為に心が揺らぎ、叔母アイリーン・アトキンズの議員との秘めた恋まで言い当てたので遂に合理主義をうっちゃり、神秘主義もあると思うようになる。
 ところが、厭世家のこの人物、そう単純ではなく、叔母が死にそうになった時にふとひらめいて彼女のインチキを見破る。が、一度芽生えた彼女への恋心は止められない。

というお話で、アレンがかつて演じたアレンもどきに似て主人公は合理主義的な厭世家で皮肉屋であるのが、例によって例の如くと言いながら楽しく、それを終始神秘主義や楽観論と対立させつつ進行するのがお話の妙味で、この辺り、アレンが尊敬している少なからぬ映画人の中でも一番傾倒しているはずのイングマル・ベルイマンが大真面目に神の問題を考えながら人間ドラマを作ってきた姿勢に案外近いものではないかという気がする。

尤もそう神妙に考える必要はさらさらなく、探偵ものの要素でストーリーを構成し、マジックの種明かしと探偵的種明かしを一緒くたにしてロマンティック・コメディーらしく展開する終幕を楽しめば良いと思う。ハードボイルド映画へのオマージュにも満ちていた「スコルピオン」程充実していないが、アレンのクラシカルなロマ・コメ傾向の作品がお好きならお薦め。

「アレンの恋うらない」でした。うらないは「売らない」だったりして。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年05月03日 12:49
ゴールデンウィークでお休みです(^^♪
プロフェッサーはどのようにお過ごしですか?
ウッディ,アレンは『ミッドナイトインパリ』が最高でありましょうね。
1年に1本作るのには感心しますけどね。
オカピー
2016年05月03日 20:45
ねこのひげさん、こんにちは。

今年は、ここら辺りの会社は飛び石連休が多いので、お客さんも来ないようなので、映画を見、本を読み、草むしりをするという感じです。
このような山での植物の繁殖力はすさまじく、毎年閉口して一言「このくらいの勢いでお金が増えると良いなあ」。

70年代以降律儀に一年に一本ずつ作っておよそ40年。ほぼリアルタイムで全作見てきた僕も年を取るわけですTT
2020年01月25日 00:05
すてきなロマコメでした。ウッディ・アレンのことなんか知らない人でも気楽に楽しめるでしょう。アレンは大昔の映画をよく見ていて、ほんとうに好きなんでしょうね。映画全体が古き良き映画へのオマージュに見えました。
オカピー
2020年01月25日 20:48
nesskoさん、こんにちは。

古い映画をよく見ているアレンの作品は、観客側も古い作品をよく知っているに越したことはないのですが、本作など基本が楽しい作品なので、古い映画の七木や経験がなくても楽しめますね。

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