映画評「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年オーストラリア=アメリカ合作映画 監督ジョージ・ミラー
ネタバレあり
1979年の年末こんな面白い映画が公開されるぞとTVで話題になったのが「マッドマックス」。カー・アクションが割合好きであったから楽しみにしていたものの、結局映画館には行かず、唯一映画館で観たのは世評が一番低い第3作「サンダードーム」であった。
個人的には最も現実的な第一作が好きだが、2作目(3作目)がカルト的に評価され、2008年製作「ドゥームズデイ」などがオマージュを捧げた。その結果30年、撮影ベースでは27年ぶりのご本家第4作(こういう場合は、お話が第3作から繋がろうが繋がるまいがリメイクと言うべきであろう)が寧ろその二番煎じみたいに見える。
とりあえずお話。
核戦争後の荒廃した世界のどこか、元警官マックス(トム・ハーディ)は、荒野の砦で独裁者に居座っているイモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)の一味に捕らえられ、核汚染で疾病を病む住人たちに血を供給する“輸血袋”にされてしまうが、そんな折独裁者武闘派の大隊長たる女丈夫フュリオサ(シャーリーズ・セロン)が反旗を翻し、ウォー・リグなる巨大トラックを使って5人の妻たちと共に逃亡、それを独裁者や彼の部下たるウォーボーイズが追跡することになる。
追跡車両に繋がれたマックスは鎖を断って車両を略奪、やがてフュリオサと合流し、彼女の故郷に立ち寄って鉄馬(バイク)の女たちとも合流、結局一番生き永らえる可能性のある砦に戻る道を選ぶ。
行って帰る間の戦いを描いているだけの単純明快なお話ながら、【キネマ旬報】執筆者投票で何と1位になった。60人中18人しか票を入れていない一方、18人中10人が1位、3人が2位に入れるという好悪のはっきりした結果を示している。読者選出で3位というのは(この種の作品としては)逆転現象。
考え方によっては行って帰るだけの非建設的なバカバカしいお話。しかし、オールド・ファンに受ける要素はかなりある。そもそも本作の結構がインディアンに囲まれた人々が脱出する西部劇をなぞってい、特に帰る時の襲撃場面が「駅馬車」(1939年)を彷彿とさせてなかなか手に汗を握らせてもらった。アクションの見せ方は近頃の作品としては充実の一編と言うべきで、部分的に若手が作る映画同様に訳のわからないアクションもちらほらするが、全般的にジョージ・ミラーはさすがに古参、しっかりした映像を撮るという印象で、好もしい。
反面、アクションの多くがCGで処理されているのは大いに不満で、特に爆発系は実写でない為、出て来た汗も引っ込んでしまう。CGを活用してスケールは増したが、実際に受けるインパクトが弱くなったので痛し痒し。
純然たる実写場面には美しいショットが多く、アカデミー撮影賞にノミネートされたのはむべなるかな。
実質的な主役は女丈夫フュリオサで、扮するシャーリーズ・セロンも坊主頭になって熱演。女性が前面に出てくるのも21世紀映画の特徴の一つで、この辺りも「ドゥームズデイ」と似ていて、こちらの隻腕に対しあちらは隻眼。映画としての格はこちらのほうがずっと高く、世評も良いのでとやかく言う筋ではないものの、後手になった印象は否めない。
本編中"insane"が“狂気(マッド)”とルビ付きで訳されていた。本作タイトルのマッドは本来「怒れる」の意味だから、ルビは要らなかったように思う。ポスターの惹句もマッドを狂気と捉えているフシがあるが、違うじゃろ。
2015年オーストラリア=アメリカ合作映画 監督ジョージ・ミラー
ネタバレあり
1979年の年末こんな面白い映画が公開されるぞとTVで話題になったのが「マッドマックス」。カー・アクションが割合好きであったから楽しみにしていたものの、結局映画館には行かず、唯一映画館で観たのは世評が一番低い第3作「サンダードーム」であった。
個人的には最も現実的な第一作が好きだが、2作目(3作目)がカルト的に評価され、2008年製作「ドゥームズデイ」などがオマージュを捧げた。その結果30年、撮影ベースでは27年ぶりのご本家第4作(こういう場合は、お話が第3作から繋がろうが繋がるまいがリメイクと言うべきであろう)が寧ろその二番煎じみたいに見える。
とりあえずお話。
核戦争後の荒廃した世界のどこか、元警官マックス(トム・ハーディ)は、荒野の砦で独裁者に居座っているイモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)の一味に捕らえられ、核汚染で疾病を病む住人たちに血を供給する“輸血袋”にされてしまうが、そんな折独裁者武闘派の大隊長たる女丈夫フュリオサ(シャーリーズ・セロン)が反旗を翻し、ウォー・リグなる巨大トラックを使って5人の妻たちと共に逃亡、それを独裁者や彼の部下たるウォーボーイズが追跡することになる。
追跡車両に繋がれたマックスは鎖を断って車両を略奪、やがてフュリオサと合流し、彼女の故郷に立ち寄って鉄馬(バイク)の女たちとも合流、結局一番生き永らえる可能性のある砦に戻る道を選ぶ。
行って帰る間の戦いを描いているだけの単純明快なお話ながら、【キネマ旬報】執筆者投票で何と1位になった。60人中18人しか票を入れていない一方、18人中10人が1位、3人が2位に入れるという好悪のはっきりした結果を示している。読者選出で3位というのは(この種の作品としては)逆転現象。
考え方によっては行って帰るだけの非建設的なバカバカしいお話。しかし、オールド・ファンに受ける要素はかなりある。そもそも本作の結構がインディアンに囲まれた人々が脱出する西部劇をなぞってい、特に帰る時の襲撃場面が「駅馬車」(1939年)を彷彿とさせてなかなか手に汗を握らせてもらった。アクションの見せ方は近頃の作品としては充実の一編と言うべきで、部分的に若手が作る映画同様に訳のわからないアクションもちらほらするが、全般的にジョージ・ミラーはさすがに古参、しっかりした映像を撮るという印象で、好もしい。
反面、アクションの多くがCGで処理されているのは大いに不満で、特に爆発系は実写でない為、出て来た汗も引っ込んでしまう。CGを活用してスケールは増したが、実際に受けるインパクトが弱くなったので痛し痒し。
純然たる実写場面には美しいショットが多く、アカデミー撮影賞にノミネートされたのはむべなるかな。
実質的な主役は女丈夫フュリオサで、扮するシャーリーズ・セロンも坊主頭になって熱演。女性が前面に出てくるのも21世紀映画の特徴の一つで、この辺りも「ドゥームズデイ」と似ていて、こちらの隻腕に対しあちらは隻眼。映画としての格はこちらのほうがずっと高く、世評も良いのでとやかく言う筋ではないものの、後手になった印象は否めない。
本編中"insane"が“狂気(マッド)”とルビ付きで訳されていた。本作タイトルのマッドは本来「怒れる」の意味だから、ルビは要らなかったように思う。ポスターの惹句もマッドを狂気と捉えているフシがあるが、違うじゃろ。
この記事へのコメント
私もそうなんですよ。あれも西部劇がベースですね、町に無法者集団がやってきて保安官が一人で立ち向かう、という。インディアンや無法者に暴走族をもってきて現代劇化するのは、ジョン・カーペンター「要塞警察」が嚆矢かな? カーペンターのは「リオ・ブラボー」のリメイクでした。
世評も高く、アクションものとしてはよいのでとやかく言う気はないのですが、一部でフェミニズム映画として異様に高評価する向きがあって、正直違和感を覚えています。
東映のプログラムピクチャーやアメリカでもB級映画ではよく女性を主人公にしてアクションやヤクザものを作っていた。あの類のものとして評価されるべきなんじゃないかなと思うのですが、まあ観る人それぞれ、感想はいろいろですからね。
>「要塞警察」
比較的最近(僕の“最近”には何十年前ということもありますが)観たのですが、確かに西部劇でした。
「リオ・ブラボー」の作り直しは本当に多いですよねえ。
>フェミニズム映画
1980年代初め「グロリア」が作られた頃は、「女性のハードボイルド・アクションは珍しい」と言われても、フェミニズムの文脈で語られることはなかったのですよね。
仰るように、アクション映画としてのアクションやお話の組み立て方等の価値から判断してほしいものです。作品のタイプによりますが、メッセージやお話の深さなどを直接の評価材料にしない僕ですから^^
『スターウォーズ』もそうですが・・・
ジョージ・ミラー監督が気が済むまで撮った結果、全部見終わるのに1週間以上かかるのがわかり、アクションシーンだけを集めて作ったのがこの映画だそうでありますよ。
アクション以外の部分を観てみたい気がします。
>女性が大暴れ
nesskoさんの仰るように、フェミニズムの現れと言ってよいでしょうが、半数近くが議員であったり、役員であったりする欧米においては、女性の権利を広げるという意味よりも、それが定着したことの反映、プラス、男性社会時代にヒロイン映画が少なかった反動なのでしょうね。
>全部見終わるのに1週間以上
デジタル時代ならではの現象ですねえ。
厳しいですねえ。
たしか去年の蒸し暑くなってくるころでしたが、しっかりと公開初日に映画館まで二輪で観に行きましたよww
理屈抜きに見ていられる映画でしたので、大音響でけっこう楽しかったですよ。
暑くなってきましたので、お体ご自愛下さい。
ではまた!
>厳しい
いやあ、割と褒めているつもりなんですがねえ^^;
「駅馬車」もどきの見通しの良い作り方は悪くないですし、後半実際あの名作のインディアン襲撃のような場面があり、ゴキゲンでした。
ただし、ディストピアSFは小汚いものがおおいので余り好んで観ないという立場ではあります。
TVで観ると、SFX・VFXの印象が映画館と随分違うようで、爆発シーンは明らかに合成なので、CGでなければ一種のSFXなのでしょうけど、ちょっと燃え切らないものがありましたねえ。
Allcinemaに僕と同じような印象を持たれた方もしらっしゃるので、錯覚ではないと思うのですが。
暑いですし、毎年のことですが、虫に刺されてひどい目に遭っています。今年は冬に左右の足をノミに刺されたらしく、ダニより遥かに始末に負えない。半年くらいかかりそうですよ。
そちらこそ、お気をつけて仕事に映画に頑張ってください。