映画評「風に立つライオン」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・三池崇史
ネタバレあり

グレープからソロ初期まではよく聴いていたさだまさしが自作曲を元に小説化したドラマであるが、かかるヒューマンな素材において三池崇史が監督の任に当たったという異色ぶり。出来上がったものを見れば無難、それを専門に作っている作家のような風情を漂わす。

1987年長崎大学付属病院に勤務する若手医師・大沢たかおがケニアの医療研究施設に派遣されるが、間もなくスーダンとの国境に近いところに位置する赤十字から要請を受け、暫し次々と送り込まれてくるスーダン内戦で負傷する少年兵などの手術に当たることになり、結局そこでの活動をライフワークとすることを決心する。偶然にも日本人の看護婦・石原さとみも赴任し、彼の規則に拘らない積極的な方針に影響を受け、二人の独自判断で孤児院を設立する。

本作は80年代後半の数年間(ほぼケニア)と、3・11直後の日本をかなり頻繁に往復する形式で進行するのだが、この関係において上手いと思わせるのが「二人は夫婦なのか」と子供たちに質問されて、彼が日本に残してきた女医の恋人・真木よう子のシークエンスに移っていく箇所である。こういう繋ぎを見ると「映画を観ている」という気になる。

残念ながら主人公は、紛争に巻き込まれて死んでしまう(死体は見つからない、彼は自分で何処かへ消えたのであろうか)。

もう一つ、医師の無償の好意(行為でもある)に長崎の老婆が、或いはケニアの老婆が夫々恩返しに野菜・穀物を持って来る場面の照応ぶりもなかなかと思わせる。善意は「情けは人の為ならず」というわけで、自分のところに戻ってくる。現実的かどうかはともかく、日本人医師の善意あって、結果的に震災後の日本になけなしのとうもろこしの種がもたらされる。
 種は寓意であって、トルコ人が百数十年前の船舶遭難事件の時に助けてくれた日本人に恩義を感じて未だに日本が困ると手を差し伸べてくれる現象と同じものとして理解することができる。
 その意味では赤十字の子供たちに日本語が定着しているところも好感を覚える。オリンピックに向けて「英語が話せる日本人を増やす」なんて志の低いことではなく、日本語を世界に広めるくらいの意気込みが政府・官僚には欲しいと昔から思っている。

ところで、昨今の日本映画は長い。本作も139分もあるが、ケニアのこと、長崎のこと、3・11のことを扱えば長くもなる。ケニアだけに絞れば良かったという意見がある。確かにそれで良かったのだ。作者もそんなことは解っているのではないだろうか? しかし、実際、ケニアだけを描いた時、それを日本の3・11に結び付け、奉仕することの素晴らしさを普遍的に表現したものと読解できる観客がどれほどいるか、映画サイトでコメントを読むと疑問になってくるのである。

さだまさしの曲では、グレープ時代の「ほおずき」が好き。青春時代だったなあ。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年06月19日 16:54
まず、タイトルが良かったですね。ひかれました。
うまいものです。
小説家としての実力もたいしたものです。
一粒の種が大きくなって樹となり実りをもたらすという事でしょう。
英語より日本語を自然と話せるようになってくれればうれしいですね。
オカピー
2016年06月19日 19:57
ねこのひげさん、こんにちは。

>一粒の種が大きくなって
そういう寓意ですよね。

>英語より
そうなんですよ。
言葉が変わるの当たり前なのですが、余りに変な変わり方が、凄い勢いで変わるのは戴けない。
日本人は英語ができないと言われますけど、そんなことは恥じる必要ないですよね。

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