映画評「黒線地帯」

☆☆★(5点/10点満点中)
1960年日本映画 監督・石井輝男
ネタバレあり

今日は二本立て。

石井輝男監督によるライン(地帯)シリーズ第2弾。

本作の主人公たるトップ屋(昭和30年代に使われたフリーの雑誌記者)・天地茂によれば、黒線とは、黒人専用の売春地帯というwikipediaの説明とは違って、麻薬絡みの売春地帯ということらしい。

彼はスクープを狙って、ある女を追っていくうち秘密を知られては困る麻薬組織の罠に嵌められるが、官憲の目をかわしながら記者根性を発揮、彼を嵌めたポン引きを追っていくうちマネキンが吊るされている変な場所で賭場を開いている美人・三原葉子とでくわす。
 ここまでは新宿界隈のお話で、彼女が彼に好感を覚えて教えてくれた情報から、お話は横浜に移る。ここで人形を運ぶ女子高生・三ツ矢歌子を乗せて人形店に行くと、そこにかの三原葉子を発見、人形に麻薬を仕込んで運んでいることを知る。

といったお話は、記者が主人公ということもあって捜査ものの中でもハードボイルドものらしい香りが濃厚に漂い、なかなか良い。石井監督らしく展開は相当速いが、速すぎてお話を掴む前に次に移っているという感もあり、良し悪し。

人物は仰角で捉えれるところが多く緊張感を醸成する一方、ロングでは俯瞰を多用して「追われながらの犯人(真相)探し」というヒッチコック・タイプのお話の気分を出す。
 ここについては努力賞を進呈したくなるほどで、序盤ポン引きを追う場面ではヒッチコックの傑作「疑惑の影」(1943年)を意識した追う者と追われる者を捉えるカット割りになっている。殺人鬼ジョセフ・コットンに相当するポン引き・鳴門洋二が追う天知をまいてビル屋上から見下ろすショットまであり、「やってますなあ」と嬉しくなった。

事件解決に大きく踏み出すきっかけになる三ツ矢歌子との出会いが偶然すぎるなど脚本に荒い部分もあるが、これくらいやってくれれば邦画としては上出来である。B級感覚に徹し、社会派ぶったメッセージなど盛り込まないのが良い。と言いつつ、星は多くないのだが。

正にプログラム・ピクチャーと言うべし。僕が映画を見始める少し前1960年代半ばまで日本映画は殆どが二本立て公開で、プログラム・ピクチャーが大多数を占めていたと聞く。地方ではその習慣が残っていたのか、シネコンが進出するまで洋画ロードショーも二本立てだった。東京でしか暮らしたことがない人は知らない事実。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年07月03日 10:10
東京に出てきて、ロードショーを見たとき、なんだか損をした気分になりましたよ。
痴呆では『日本海海戦』と『コント55号』の2本立てなどという変な構成がふつうにありましたからね。
オカピー
2016年07月03日 21:29
ねこのひげさん、こんにちは。

そんな感じでしたね。
東京ではロードショーは極力避けて、名画座で固めて見ることが多かったですけれど。
地方では、ロードショーと称しながらセミ名画座の感覚だったわけですよね。

この記事へのトラックバック

  • 映画評「セクシー地帯」

    Excerpt: ☆☆☆(6点/10点満点中) 1961年日本映画 監督・石井輝男 ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2016-08-02 08:40
  • 映画評「続網走番外地」

    Excerpt: ☆☆★(5点/10点満点中) 1965年日本映画 監督・石井輝男 ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2018-06-06 09:28